表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アフィニア日誌  作者: 皇 圭介
第一部 ジンバル王国編
1/50

00話 「暗転」

 学校帰り、一人土手を歩く。


 その日は記念日になった。


 夏休み前のその日、俺の顔はだらしなく笑み崩れていたと思う。


「~♪」


 なにしろ1年間近く好意を抱き続けていた部活の先輩に、告白してやっとOKをもらったからだ。

 恋敵(ライバル)は多く、その戦いは長く苦しいものだった。


 告白は3回。


 一度目は「あなたのこと知らないから」


 自分の事を知ってもらうよう努力した。


 2度目は「頼りない弟みたいにおもってるから」


 頼りがいのある男になるよう、勉強も部活もがんばった。ついでに弁当で餌付けもした。


 そして3度目「君には負けたよ。こんな気持ちにさせられるとは思わなかった」


「ふふふふふふ」


 いや、気持ち悪いとかいわないで。だってしかたないじゃない!幸せなんだもの!

 今なら夕日に向かってだって走れる。


 そう、どこまでだって!


 先輩とのこれからの夏休みを想い。


 ウエディングベルの鐘の音を聞き。


 子供は何人がいいかなぁと完全に頭が湧いたところで。


 目の前が真っ暗になった。


(え、え、え、何!?)


 グラリと倒れる感覚。

 顔面で感じた痛みとひんやりとした地面の感触が、その時感じた最後だった。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「・・・・成功か?」

「・・・おそらく成功だろう」


 まわりで聞こえる声。少なくとも一人二人ではない複数人の気配。

 ぼんやりする頭を一生懸命働かせる。


(病院かな・・・?)


 随分硬いベッドのようだが、そこに仰向けに寝かされている。

 力を込めてみるが、腕どころか指すら動かせない。


(俺、いったいどうなって・・・?)


 まったく自分の自由にならない体と格闘すること数分、なんとかまぶたを開ける事に成功する。

 だが、そこにあったのは病院の白い天井ではなかった。


(え・・・なにこれ)


 見えるのは岩肌。薄ぼんやりと照らされた岩肌が視界いっぱいに広がる。


(洞窟・・・?)


 まったくわけがわからない。

 何故、自分がここにいるのか。

 なんでこんな所に寝かされているのか。


(夢・・?)


 とにかく、情報がほしいとばかりに唯一自由になる目であたりを窺う。


 うわ、なんかいっぱいいる。

 寝かされた自分を囲うように、黒っぽいローブを着た人がいっぱい立っていた。

 うわ、目が合っちゃたよ。


「おお・・、お目覚めになられた・・・!」


 騒がしくなる周り。

 何がなんだかわからない。この状況で体一つ動かせないなんて怖すぎる。

 

(夢、夢、夢、これは悪い夢)


 まぶたを閉じれば夢が覚めて、先輩とのハッピーライフが始まるのだ。

 現実逃避ぎみの俺。

 だがそんな事など関係なしに状況は進む。


「お目覚めの気分はいかがですか?エメランディス様」


 黒ローブたちの集団を割るように、濃い化粧の女が現れる。

 30代前半といったところだろうか。

 いや、それよりも・・・。


(エメランディスって誰・・・!)


 俺?俺が呼ばれてるの?何故何どうして?


「目覚めたばかりで混乱されるのも無理はありません」

「ですが、我々の話をどうか聞いていただきたいのです」


 混乱する俺のことなどほったらかしでどんどん話を続ける女。

 わけがわからないなりに理解した事は、


 今、彼ら(黒ローブたちね)は悪逆非道な者たちによって滅ぼされそうになっている事。

 起死回生として、太古の禁呪を使い俺をこの世界に呼び出した事。


「どうか、我々を救ってください」


 待って、待って、待って。

 これってもしかして。

 小説とかでありふれたアレ?

 魔王で勇者なファンタジーもの?


 もしかして魔王とか倒さないと、もとの世界に戻れない?

 ってか、ここ異世界?異世界なの!?

 日本でないの?地球でないの?

 

 ようやく始まったばかりの先輩との甘々な恋愛生活が!!!!

 

(いぃぃーーーやぁぁぁーーーーー!!)

 

 声が出ないので心で絶叫。

 やっとのことで告白OKもらって、その日の内に異世界召喚だなんて。

 天国と地獄だなんて。


(ひどすぎる!!!!!)


 だが、状況はこれで終わりではなかった。


 突然、ザワザワとさわがしくなる周囲。

 そしてガチャガチャという音と、一際大きな声。


「全員つかまえろ!一人も逃がすな!さからえば殺してもかまわん!!!」


 え、何?悪い奴等、もう来ちゃったの?

 魔王とか、倒されるまで城で待ってるもんじゃないの?

 俺、体動かないよ?どうするの?というか、どうしたらいいの!?


 その後はもう、大混乱としか言いようがなかった。


 物が倒れる音とか、ガチャガチャいう音(どうやら金属鎧の音らしい)、ドシュッとかいうなんかやばげな音、助けを求める声、そして悲鳴。


(先輩、先輩、先輩・・・!)


 目をつぶって現実逃避を続けていた俺は、いつの間にかあたりが静まり返っていたのに気づく。

 そして、ゆっくりとこちらに向かって来るガチャガチャという音。


(ち、近づいてくる・・・!!!)

 

 その音が止まった時、恐怖に俺は思わず目を開いてしまった。

 そして目に映る、返り血に染まった金属鎧と真っ赤な(つるぎ)


(ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいい!!!)


 気絶しなかったのを褒めてもらいたいぐらいだ。

 今まで16年生きてきて、これほどの恐怖を味わったのは初めてだ。


「ム・・・!どうやら怯えさせてしまったようだな」


 騎士風の男はそう言って(つるぎ)をどこかにやると、にっこり笑ってきた。

 正直に言うと怖かった。

 何か、無理して笑い顔を作っている感じが。


「まったく、こんな年端もいかぬ娘を生贄にしようなどと」


 娘?生贄?

 何いってんの???????

  

 騎士に抱き上げられた俺に見えたもの。それは、俺の体だった。




 自由に動かないその体は・・・ちっちゃな女の子のものだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ