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君からの手紙  作者:
7/17

残暑の記憶

夏休みも残り僅かとなった八月のある日。俺の家に悪友達が数人遊びにきていた。

ゲームをしたり漫画を読んだり、夏休みの宿題が出来ていない奴は必死こいて他の奴の課題を書き写したりとまぁ、高校生活最後の夏休みだというのにイベント性に欠けた怠惰な時間を俺たちは過ごしていた。


「あ、そういえば、透って岬と付き合うことになったのか?」


「それ、オレも聞きたい。前々から噂にはなってたけどここ数ヶ月は昼休みも放課後も一緒だからさ真実味が帯びてきたっていうかさ………」


「そうそう。あの岬結衣と透がついに付き合い始めたかってな!」


女三人寄れば姦しいとは言うが男が集まってもうるさいもんはうるさい。

っうか俺と岬が一緒にいるって噂になっているのにその場にいるはずのもう一人………俺の恋人という位置にいる遠藤とは全くと言っていいほど噂にならないとはこれは如何に。


「………ちげぇよ。結衣とは幼馴染。付き合ったりなんてしてない」


「ええぇぇぇ。あんだけ一緒にいておいてただの幼馴染ってことはないだろうがぁ!」


「…………」


「え、まじで?」


「まじで、だ。それに俺、彼女いるし」


「でぇぇぇぇぇぇぇぇ!!うそ!まじっ!誰!いつ!どこで!なんで!どうして!」


英語の課題をやっていたせいか、悪友の一人は何故だか英語のいつ、どこで、何を、誰が、なぜ。を微妙に混ぜて言ってきた。


「………遠藤、だろ。透の彼女」


悪友の一人がずばりと指摘する。驚いて目を丸くしていると残りの二人が驚愕の表情で詰め寄ってきやがった。


「えぇぇぇぇぇ!遠藤ってあの遠藤か!」


「顔は可愛いが中身が変人の代名詞。遠藤加奈か!」


「ちょっ!ただでさえ暑苦しいのに男が近寄るな!うっとおしい!………それにしてもお前、よくわかったな」


「………ここ数ヶ月の目撃証言、透と岬と遠藤が一緒にいるっていうのが圧倒的に多かった。逆に岬と遠藤が一緒にいるという噂はほぼ皆無。透と岬が二人でいるところはまぁ、噂になる前と同じぐらい。透と遠藤が一緒にいるというのも少ないが途中から岬が合流してたっていうのは多い。結果三人でいる所が多くなっていた。そこから推察してみせただけだ」


「普通は噂をそこまで検証しねぇし、わからねぇよ」


悪友の突っ込みに本人を除くその場にいた全員が頷く。突っ込まれた当の本人は少し不服そうだ。

どうしてこう、俺の周りには変人が多いのだろうか………。よくわからん思考回路で俺の彼女を導きだした悪友が涼しげな顔でトレードマークのめがねをぐいっと指で押し上げる。


「まぁ、おれとしてはお前ら二人がどんな付き合い方をしているのか、という方に興味をそそられているけどな」


「おおおっ!それは確かに気になる!」


「そうそう、”あの”遠藤加奈とお前、デートしたりとかしてんだろ?どんなとこ行ってんの?あいつもやっぱり彼氏の前じゃ、可愛い反応したりするのか?」


「え?」


「「「え?」」」


デート?


意外な言葉に目を見開いてしまう。

遠藤と付き合い始めた数ヶ月を振り返ってみる。


昼を一緒に食ったり、昼を一緒に食ったり………たまに廊下で会ったときに雑談したり………それだって結衣の乱入で二人きりだったことはほとんどないし………帰りが一緒になったっていっても結衣が一緒だし………。


「あの~~~透?」


「………まともなデート、したこと、ないとか?」


「ぐっ!」


「それどころか二人きりにすらあまりなったことがない」


「っぅ」


「「え?まじで?」」


冷静な分析にぐうの音も出ない俺。その姿に他二名も状況を悟ったらしく微妙に責めるような目で俺を見ていた。


「いや、ないわ。ないよ。有り得ないよ。透くん」


「恋人と異性の幼馴染って唯でさえ微妙な空気になりやすいのにそこまで放置しているのはどうかと思うぞ」


「恋人として、いや、男としてかなり駄目な部類だな」


止めの一言はかなりのダメージを俺に与えた。


「うおっと。もうこんな時間か」


腕時計を見た悪友が叫ぶ。


時計を見ると七時を少し回った所だ。


「早く帰んないと晩飯抜きにされる~~~~!」


「お前はまだいいよ。俺は晩飯を作らないといけねぇだよ!」


ねぇちゃんがかえってきたら絞められる~~~~~~~と慌てる悪友が真っ先に玄関に走りこむ。

お邪魔さまでした~~~とうちのお袋に言っているのが遠くから聞こえてきた。


「せわしねぇ奴ら」


「透」


「ん?なんだ?」


「おれはお前が遠藤と付き合うことにしたのはよかったと思うぞ」


「は?」


「最近のお前は顔が緩んできた」


俺が何か言い返すよりも早く、悪友は俺に紙を押し付けた。


「夏の定番だ。遠藤と二人で行って来い」


ひらひらと手を振りながら玄関に向かう悪友の背を見送りながら押し付けられた紙に目を落とす。それは夏祭りを知らせるポスターだった。



翌日。俺は携帯に浮かぶ数字を睨みつけながらうなっていた。


左手に携帯、右手に昨日悪友が押し付けていった夏祭りのポスター。


(いや、別に誘いたいとかそういう気持ちじゃない。男として最低部類だといわれるのは我慢ならんしそれに一応、付き合っているというのにデートのひとつもしたことがないというのはどうかと思っただけであって別に一緒に行きたいわけじゃない)


それに結衣を誘わないのは………結衣が母方の祖父母の家に行ってしまっているのだから仕方がないし……二人きりなのはむしろ当然というか………なんていうか………ああ~~~もう!


考えるの疲れた俺は勢いで通話ボタンを押す。そして待つ。


待つ。


ただひたすら待つ。


なのに聞こえてくるのはただただ無機質な呼び出し音。


緊張にこわばっていた顔が憤怒の表情に変わる頃、ようやく呼び出し音が消え、聞きなれたのんきな声が耳に届く。


「遅い!!!!!!!」


そののんきな声に思わず力限り怒鳴っていた。


「何分待たせるんだ!!何してた!!」


「座禅を組んで瞑想をしていたが?」


「は?」


「座禅」


「…………」


予想外もいいとこの言葉に思わず口の中で「ありえねぇ」とうめいてしまう。普通高校生が座禅なんて組むか普通?しかも夏休みに。


「あ~~まぁ~~~座禅組んでいたから出るのが遅かったのか?」


「いや、座禅自体はしていたが瞑想はできていなかった。どうにも君のことが頭をちらついてなぁ……。出るのに時間が遅くなったのは携帯の出方が分からなかったのだ。待たせてすまない」


さらりと飛び出した問題発言にこちらが固まってしまう。なんだよそれ、休みでも俺のことを考えていたって………そんなの。


「お前………それ、わざとか?」


思わず低く唸るような声が出てしまう。


「何がだ?」


「あ~~あ~~~そうだよな!お前、何か考えて言っている訳じゃねよな!」


「………君は一体何を言いたいのだい?」


「うっせぇ!!特にかくこんな会話するために電話したんじゃねぇってことは確かだ」


「では何のために君は電話したんだい?」


「うっ!それは………」


直球で聞いてきやがった!ええい、こうなりゃ自棄だ!


「…………くぞ」


「?すまない。よく聞こえな……」


聞き返すなよ!俺の精一杯を!


「八月三十日の夏祭り、一緒に行くぞ!午後六時神社の鳥居の下に集合!!以上!!通話終わりだ!!」


怒鳴り散らすかのように言うだけ言って返事も聞かずに通話を終了する。無機質な電子音を聞きながら俺は携帯電話をベットにブン投げた。


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