真夏の記憶
初夏のあの日。俺と結衣の歪さが浮き彫りになった日から結衣はやたらと俺と一緒にいようとするようになった。
休み時間のたびに俺の教室に来て、行き帰りも一緒。昼休みももちろん一緒だし休日のたびに俺の家に来る。
遠藤よりも結衣の方が俺の彼女のような状況だった。
事実、俺に「岬と付き合いだしたのか?」と聞いてくる奴がこの頃すごく多い。結衣は外見も可愛いし性格も明るいから男に人気だから俺に対するやっかみも多い。
そんな中、本当の彼女である遠藤は文句を言うでも怒るでもなく飄々としていて俺と会うたびにくっ付いてきて意図的に邪魔している結衣を邪険にするでもなく普通に対応していた。
そんな姿を見ていると疑問が沸き起こる。こいつは本当に俺のことが好きなのか?好きならもっと違う反応があるんじゃないか?
嫉妬も怒りも見せない遠藤に俺は言いようもないもやもやを感じていた。
「遠藤ってさ………本当に俺のこと好きなの?」
結衣が担任に呼び出されて珍しく二人きりの昼休み、俺はそんなことを聞いていた。
そして、それを聞いた遠藤の顔から表情が一気に消え去る。
それは雄弁に彼女の怒りを俺に伝えてきて、正直どうして彼女がそこまで怒るのか俺には理解が出来なかった。
「石崎透くん」
「お、おう、なんだよ」
静かな怒りに気圧される。
「君は………疑ってはいけない」
「は?」
「君だけはわたしの想いを疑ってはいけない。何が起ころうがわたしが君を好きだということは真実だ。例え、君だろうがわたしの想いを否定するようなことを言うのは赦さない」
真っ直ぐに俺を見る遠藤に気圧されるだけではない、別の感情が生まれる気がする。
「忘れないでくれ。わたしは君が好きだ。そして幸せなんだということを君は決して忘れてはいけない」
こんなにも俺を想ってくれる女に俺は結局なにも返せない。そのことが酷く、悲しく想った。
「俺はなにも、お前に返せないんだぞ?どう足掻いたってお前を一番にできない。それなのにどうして………そんに想ってくれるんだ?」
「君たち幼馴染は本当によく似たことを聞いてくる。好きだからに決まっていると何度言わせるんだ」
ああ、俺は醜い。
好きになれないのに、一番に思えないのに、俺はもう、こいつの手を離せない。
好意を向けられるのが心地が良い。結衣の一番になれない俺は遠藤の一番でいることで安心できる。
「遠藤………」
「ん?なんだい?」
「俺のこと、好きか?」
「すきだよ」
当たり前のように返される言葉に安心する。そしてそんな自分に吐き気がした。
自分のために最低の行為を遠藤にした。そのことを強く強く自覚した真夏の記憶。