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君からの手紙  作者:
15/17

秋の記憶 2

 来てしまった。

 見覚えのないお宅の玄関先で俺はプリント片手にそんなことを思っていた。


 ことの始まりは放課後のホームルーム。

 担任が「あ、遠藤にプリント渡さないとな……だれか遠藤の家に届けてくれねぇかぁ?」と言い出した所から始まった。

 担任の突然の依頼に場が騒がしくなる。俺は遠藤の見舞いにでも行くか、と考えていたがこんな場面で「あ、俺見舞い行くんでプリント預かりますよ」となんて言えない。

 言ったら絶対にこいつらは根堀は堀聞いてきやがる。変な噂が流れるのもごめんだ!


 それに……。


 脳裏に浮かぶのは夏祭りの夜に垣間見た結衣の不安定な心。

 遠藤との仲を肯定したら結衣がどんな行動にでるか予想がつかない今、遠藤との付き合いを公にするのはもう少し考えないといけない気がする。


 だが変人として名が知れ渡っている遠藤と特別親しくしていた人間というものがクラス内に皆無だったようで誰も手を上げない。そんなクラスを見渡し担任がこれ見よがしにため息をついてみせる。


「おいおい。お前らつめてぇなぁ~~。夏風邪ひいたクラスメイトのためにプリントを届けようとか思わないのかよ」


「せんせ~~。せんせいが学校帰りに届けるという手もあるとおもいま~~す」


 とある女生徒から極めて建設的な意見があがったがそれは担任の「え~~。遠藤の家って俺んちから微妙に遠いんだよ」という極めて個人的な理由により黙殺された。


 先生。俺らのこと何一つ言えない態度じゃないですかね。それ。


 そんな突っ込みが教室のあちらこちらから聞こえただろうにそれも担任は華麗にスルーする。


「全く!立候補はだれもいねぇのか?今なら「プリントを届ける」という名目で遠藤という人物の秘密が覗けちゃったりするかもしれないんだぞ!」


「せんせ~~!それ同姓ならまだ許せても異性がやったら犯罪行為で即私刑コース行きで~~す!」


 今度は別の女生徒がまたしてももっともな意見を言うがやはりこれも担任は黙殺した。


「立候補がいねぇなら他薦でもいいぞ~~!友を裏切り生贄にささげる奴はいねぇか~~?」


 だから言い方をどうにか出来ないのかこの担任は。などと人事のようにこの騒ぎを傍観していた俺の隣ですっと手が伸ばされる。


「ん?ああ。挙手か。発言どうぞ?」


「では。失礼して」


 すっときれいな動作で悪友3が立つ。知的な雰囲気を裏切らず成績もよいこいつはお腹の中で煮えたぎっている黒いモノとその頭脳を最大限に生かしてクラス中から一目置かれている奴だ。

 そんな奴が発言をするというので場が静まり視線は全て悪友3に集まっている。 

 でも何を言うつもりだろうか。こいつは基本的に自分の興味ないことや利にならないことに自ら動くことなんてないからな。まさかプリント届けるとか言わないとは思うが……。

 何を考えているのかわからず俺は戦々恐々と悪友3を見るしかない。


 一体、何を言い出すのやら。あ、よそのクラス終わったのか、もう帰っている奴らがいる……うちのクラスも早く終わんねぇかなぁ~~。


「遠藤さんの家にプリントを届けに行く役目……」


 遅くなったら遠藤の家に見舞いにいけなくなるし。


「丁度遠藤さんの所に見舞いに行きたいと考えている男を知っているのでそいつにプリント押し付ければいいと思いますよ」


 神々しくも真っ黒な光を背負った悪友3はなんてことのない顔でとんでもない爆弾を教室に投げつけやがったため俺はそのまま机に顔面を強打するはめになった。

 しかし俺の奇行はそれ以上のインパクトによって誰にも気づかれることはなかったらしく今、教室は最高潮にテンションがあがっていた。

 あっちこっちで「遠藤さんに片思い男子登場!」とか「いやいや実は彼氏がいたとか!」とか「あの変人具合についていけるなどどんな上級変人マスターなんだ!」など等様々な憶測が飛び交って収集がつかなくなってきている。そんな中、目をきらきらさせた悪友1が得意げに何か言おうとしたところを悪友2がこぶしで黙らせていたのが目の端に映った。明らかな暴力行為だが騒がしすぎてやはり誰にも気づかれていない。悪友1の暴露をとめてくれた悪友2に目だけで「ありがとう」を伝える。

 楽しいこと大好きクラスだからノリのいいこといいこと。皆興味深々である。

 そんな騒ぎを担任は手を叩いてなだめながら何を考えているのかわからない食えない生徒に聞く。


「で、見舞いに行きたいと考えている男っていうのは誰だ?」

 

 ……生徒は止めておきながら自分は直球で聞くのかよ!とも思うがこの担任については思うだけ無駄だということもわかっている。

 それよりも心配は悪友3の方だ。こいつ何のつもりでこんな発言を。しかもどうやって収集をつけるつもりだよ!

 再び教室中の視線が悪友3に集まる。だけどやはりその視線をものともせずにさらりと涼しい顔と威圧で追求をさらりとかわす。


「一応人物像については黙秘させてもらいますよ。追求したいのなら全力でつぶしにかかるので覚悟してください。先生。それにここでばらしたら後が面倒そうだ、あ、プリントはおれが預かって責任もってそいつに渡しておきます」


「まさかお前がその「男」っていう訳じゃ……」


「あはははは。先生?何言っているんですか?俺ならこんな小細工なんてしませんよ?狙った獲物ならじわじわと追い詰めて追い詰めて逃げ道なんてないことをわからせたのちに捕獲します。それに遠藤さんは変人具合が見ていて面白いですから観察対象としてはいいですが一緒にいると疲れそうなんで恋人としては嫌です」


「……先生。お前がまともな恋愛ができるか物凄く不安だぁ~~」


「人の恋愛心配するよりも自分のことを心配してください負け組みさん」


「負け組み言うな!」


 めでたく悪友3が担任を涙目にさせたところで俺達のクラスはようやく解散となったのであった。


 そして冒頭へと話は戻り。俺は見舞いとプリントを届けるために遠藤の家の前までやってきているのであった。


 インターホンを押せばいい。それだけだ。それだけなのだが……なぜだか妙な気恥ずかしさがあってなかなかインターホンを押せない。


 なぜだ?

 どうして押せない?

 たかが遠藤のうちに見舞いにきたぐらいで……。俺達は一応付き合っているんだからおかしくな……、いや。俺と遠藤は一応恋人同士というものをやってはいるが中身は主に俺側の問題で気持ちが伴っていない状況だ。

 もしかしなくったて遠藤にとっては辛いことのほうが多いだろうし結衣の問題もある。春に付き合いだして初デートが夏の終わりってもう駄目駄目だろう。

 遠藤に告白された頃、俺は相当参っていた時だった。結衣が好きなのに結衣は決して俺を選ぶことはないとわかっていたし恋愛ではないとわかっていて結衣の束縛はきつくなってきた頃だったから割と追い詰められていたところがあった。

 気持ちがぐちゃぐちゃででも結衣にだけはそれを見せるわけにはいかなくて……結果的に全部俺はうちに溜め込むしかなかった。


 俺が結衣を好きなのを知っている上でそれでも好きだって言ったあいつに俺は縋って、逃げ場にした。遠藤は結衣の存在ごとまるごと俺を受け入れてくれた。俺と結衣の関係はもう限界に近かったんだと思う。俺じゃ結衣を支えきれない。甘やかすことはできても支えて前を向かすことができない。

 表面上は普通にできても心は互いに疲弊していくばかりの日々に遠藤がひょっこりとやってきてから風向きが変わった。


 俺の事情も結衣の事情もしらないのに遠藤は俺達二人のあり方を驚くほど素直に受け止めてくれたんだ。

 だけど……好きでもないのに付き合ってあげく逃げ場にしている俺を知っていてどうして遠藤は「好きだ」なんて言うのだろう。

 こんな俺のどこを好きになったのだろうか。


 本当にあいつのためを思うなら、俺はあいつに別れを告げるべきなのに……。

 

 そんなことを考えていたらインターホンから手が無意識のうちに落ちていった。あわせる顔がない。

 プリントはメモと一緒にポストにでも入れておけばいいか。


「あら?うちに何か御用?」

「っ!」


 ポストにプリントを入れようとした時、そんな女性の声が俺の腕を止めた。

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