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君からの手紙  作者:
12/17

残暑の記憶 6

「岬結衣くん」


 遠藤の言葉に俺が振り向けばそこには射るような鋭い目で遠藤をにらみつけている結衣がいた。

 なんで、こんなところに結衣が。

 疑問に思った俺だったが結衣の遠藤を見る目にそんなことはぶっ飛んだ。

 暗い暗い、目で遠藤を見ている。

 

「結衣……?」


 そっとするほど冷たい目だ。俺は反射的に結衣の視線から遠藤を守るように自分の体で盾にした。

 いまの結衣は普通じゃないと感じた。

 

 守らなきゃ。


 なぜだかそんなことを思った。誰を……までは考えてなかったけど。


「……どうして、こんな時間に二人でいるの?」

 

 感情がそげ落とされたような声が逆に結衣の無言の非難のように聞こえた。

 どうして、なんで、二人で出かけたりしているの?

 私をおいて。私に内緒で……どうして?どうして?どうしてよぉ!

 

 たったそれだけの言葉、まなざしで俺は結衣の感情の不安定さが感じられた。

 翔を失ってからの結衣は不安定だった。俺のことを異常なまでに気にして、誰かに取られないように過剰反応してた。

 そんな結衣が自分の知らないところで遠藤と二人で出かけていただなんて知ったらこうなるのはわかってたはずなのに!


 視点の定まっていない目が俺の体で隠れている遠藤の方へと向けられている。まるで俺の体をすり抜けて遠藤の姿を睨みつけているかのようにその目は激しい怒りに満ちていた。


「私の知らないところで……なんで二人で出かけたりしているの?透も……」

 

 結衣の声は震えていた。小さな小さな結衣の声。……たぶん一番近くにいた俺にしか届かない泣き出しそうな声。


 透も……翔みたいに……傍からいなくなるの?


 自分の言葉にショックを受けたみたいに両手で自分を抱きしめるようにして俯く。結衣の口が酸素を求めるかのように開閉しうめき声のようなものまで聞こえてきた。

「結衣!落ち着け!」

 このままでは暴れだしそうな不安定さに俺は声をだして結衣の両肩を掴んで無理やり俺の顔を見せる。

 結衣の唯一であるあいつと同じ顔で言い聞かせるようにゆっくりと言葉を伝える。

 この顔以外見ないように。間違っても遠藤を見て攻撃しないように。


「大丈夫だ。俺はここにいる。お前の傍に……」


 出来るだけゆっくりと、もう遠い記憶になりつつあるもういない片割れの口調を思い出しながらゆっくりと結衣に語りかける。

 ぼんやりしていた結衣の瞳がかすかに動き俺を見る。そして不思議なものを見るかのような目で俺を見て、ぽつりと呟いた。


「翔?」


 自分でやったこととは言え、結衣に翔と呼ばれて肩が震えたのがわかった。胸に広がった痛みに唇を噛む。

 ああ、どうしたって結衣の一番は翔なんだ、と思い知らされた。翔が生きてた頃は俺がどれだけ翔の真似をしても騙されることのなかった結衣がこうもあっさり騙されたことに想像以上にショックを受けている自分がいた。

 騙されることなんて、お前、なかっただろ?

 親さえ間違える俺達のことお前だけは絶対に間違えたりしなかっだろうが!


 結衣を怒鳴りつけたくなった。でも……刹那白い病室の中でただひたすら泣き崩れていた結衣の姿が思い浮かぶ。

 

 白い白い部屋。

 もしかしたら結衣も俺もあの部屋から一歩だって出られていないのかもしれない。

 お互いに冷たい翔の骸にしがみ付いたままあの部屋で泣いているだけなのかも、しれない。


 そう思ったら笑いたくなった。

 結衣にとって偽者にしかなれない俺も本物を失って偽者に執着しているくせに自分を騙しきることすらできない結衣も滑稽すぎて笑えた。

 唾棄するぐらい滑稽だった。


「あ……」


 このとき、俺は自分が何を言おうとしたのかわからない。全てを決定的に壊したかったのかそれとも現状維持を望んだのか……何も覚えていない。なぜなら、俺や結衣なんかよりもずっとずっと強い声が俺の声を打ち消してしまったから。


「岬結衣くん!石崎透くん!」


「……!えん、どう……」


「……?」


 遠藤は笑っていた。いつもの何を考えているのかよくわからない、根拠不明の強気の笑みを浮かべて俺達を見ている。いつも通りの無茶苦茶変なことを言い出すときの顔だ。


「岬結衣くん。奇遇だね?ご機嫌は麗しいかい?本日のお祭りには君は来ていなかったので少々物足りないと感じていたんだよ。ここで出会えたのも何かの縁。時間も遅く残念ながらお祭りは終わってしまったが。何まだ遅くはないさ。三人で夏らしい遊びをしてみないかい?」


 あまりにもぶっ飛んだ……というか今までの流れをぶち壊す提案に……。


「「は?」」

 

 俺達二人は同時にそんな声を上げていた。


「おや、さすがは幼馴染。言葉の重なり具合といい、呆けた顔といいまるで同調したかのようにそっくりだね」


 そう言って遠藤は笑った。

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