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君からの手紙  作者:
11/17

残暑の記憶 5

 祭りというのは花火が打ち終わると一気に終わりへと向かっていく気がする。

 からんころんと耳に心地よい音が静かな夜道に響かせながら俺と遠藤は祭りの余韻と終りの寂しさを感じながら帰路へとついていた。


「花火というのはやはりいいな」


 先ほどみた花火を思い出しているのか星がかすかに光る夜空を見上げながら遠藤が楽しげに手を空へと伸ばす。


「今日は誘ってくれて感謝する。とても楽しかった」


 数歩先を歩きくるりと俺の方を向いた遠藤がにかりと笑う。ここで相手が浴衣を着た女の子ならどきりとするかもしれない。だが甚平を着こなす変人だとこう、どうにも雰囲気が……。


『君との思い出の花だ。だからわたしは桜が一番好きなんだ』


 柔らかい声と夜空に咲く大輪の花。


「~~~~っ!」


 蘇った光景に反射的に顔が赤らむ。


「石崎透くん?」


「なんでもねぇよ!」


 気恥ずかしさから必要以上にツッケンどんになってしまった。


「さっさと帰るぞ」


「?」


 それを隠す為に足を速め遠藤を追い抜く。後ろから小さな戸惑いを抱いた遠藤が小走りに追いかけてくる。

 再び肩を並べて歩いた。夏特有の蒸し暑い風が吹いて俺たちの間をすり抜けていく。


「夏ももう、終わりだな」


 空を見上げていた遠藤がぽつりと呟いた。去り行く季節を惜しむようなその声色が何故だろう、ひどく胸を騒がせた。


「君と過ごすこの夏はもう、二度とやって来ない」


 切ない目で遠藤は一体、何を見ていたのだろうか。

 儚く夜空に消えた花火なのかそれとももっと別の何かか。

 俺には予想することさえ、できない。出来るほど俺はこいつのことを知らない。


「過ぎていくのが惜しいぐらい楽しかった」


 空を見上げる遠藤が不意にとても儚い存在のように見えた。手を伸ばしたらそのまま夏の幻のように消えそうに感じて俺は何故だか焦りを感じて口を開いた。


「また、一緒に来ればいい」

 

 自分が何を言いたいのか自分でも把握できなかった。考えるよりも先に言葉が出てきた。


「また来年、一緒に射的して焼きそば食べてイカ焼きは足が旨いか体が旨いか決着をつけてればいい」


 腹の底から何かが湧き出てくる。その何かは俺を通して言葉になり遠藤に向かって流れていく。

 腕を掴む。遠藤の目が驚きに見開かれた。


「遠藤が惜しいと思ったこの夏よりも楽しい夏を何度だって過ごせばいい……来年の夏も……」


 俺と、と言いかけてそれを飲み込んだ。

 勢いで言葉にしかけたそれは俺には言う資格のないもの。


 恋ではない。

 この気持ちは恋ではない。


 名前なんて付けられない。こいつに対する俺の感情が何なのか……俺自身にだってわからない。

 遠藤がじっと俺を見る。感情を覗わせない。だけど不思議と惹き付けられるその瞳がそっと緩んだ。


「ありがとう。石崎透くん」


 遠藤は笑っていた。目を奪われるぐらい綺麗で透明なその笑顔はどうしてだろう思い出だけを残して過ぎていくこの夏のように儚いものに俺は感じた。


「えん……」


「透!」


 怖くなった俺が遠藤を呼びかけた声に被さるように甲高い、何かを諌めるような声が響いて俺は思わず遠藤の腕を離していた。


「岬結衣くん?」


 遠藤の声に応えるようにやってきていたのは確かに結衣だった。


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