追憶 第8話
もうとっくにいなくなっている親子のいた場所を見ていた。目が覚めた時にザスクがいて、樒がどうなったかを尋ねた時、ザスクの言った言葉は今でも忘れられない。
-あ?あの女なら死んだよ。お前のせいでな
頭に響くその言葉がどれだけ自分を苦しめているか。
―ピーポーピーポー
救急車の音がしてその車を目で追った。その後を消防車が通る。遠くから煙の匂いがするし、人の騒がしい声が聞こえる。火災が起きたことが解った。騒ぐ群衆の声の中に一人の女性の声が聞こえた。先ほど、穐椰が見ていた親子の母親の方の声だとわかった。穐椰は走り出した。
燃えていたのは小さなアパート。4階建てのようだった。燃え盛る炎の勢いは留まる所を知らず、何人も拒む要塞のように燃え誇っていた。消防士が必死になって水をやっているが効果がまるで見えない。人々は救出出来ている様で救急車がどんどん引いていく。騒がしい野次馬に混じってあの母親の声が微かに聞こえる。穐椰に微かなのだから、普通の人間の耳には恐らく届かない声だろう。穐椰はその母親を鼻と耳で探し当てた。
「だいじょうぶ?」
荒れた息で肩を動かしている母親に声をかけた。慌てていたらしく穐椰の腕を勢いよく掴んできた。
「あ・・・」
相手が穐椰の程の子供だと気付いて言うのをやめた。声を張り上げすぎて喉が潰れかけているようだった。
「僕が、助けてアゲようか?」
「え?」
「こんなニ炎がスゴカったら匂いはワカラないから居場所だけオシえてクレレば助けに行けル。君のコドモのことろ」
母親の目が見開いた。穐椰は母親の返事を待った。母親は少し悩んで結局首を振った。
「貴方の様な子にお願いはできないわ。でも私の声、聞いてくれてありがとう」
母親はそう言って走り出した。その母親の腕を反射で掴んで穐椰は尋ねた。
「1階? 2階? 3階? 4階? 解った、3階ね」
穐椰は母親を引くと燃える建物の中へ飛び込んだ。消防士やらが叫んでいるのが聞こえた。そんな中でどうして、と言う母親の声も聞いた。