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勾拿  作者: ノノギ
26/50

有為 第4話 

遊眞がここへ来た理由についての話になって遊眞はそれなりに迷った結果、燈樵に打ち明けた。

「金の心配はしなくていいのに。勾拿の方で補助金出るから」

「で、でもやっぱり気が引けるじゃないですか!!」

「ん、それもそうか。桐原さんに聞いてみようか」

「え?」

「バイトって言ってもこの時期にそれはきついだろ?受験で」

「は、はい・・・!!」

「だから少し相談してみよう」

燈樵は桐原の方へスタスタ歩いて行った。遊眞はどうしたらいいのかわからなかったのでその場で立っていた。

 しばらくしたら燈樵が奥からファイリングされた資料の様なものを持って戻ってきた。

「これ」

それを遊眞に手渡した。内容は書籍の名前がずらっと書いてあった。ぱっと見ただけでもかなりの量がある。

「着いて来い」

「はい・・・」

燈樵の後を追ってたどり着いたのは埃っぽい書斎だった。燈樵は辺りを見回してから遊眞に向き直った。

「ここの整理、してみるか?」

「はい・・・?」

「桐原さんがな、ここの書斎は最悪な状態だといっていてね。俺も正直引く。で、もし縞井が良いって言うんならここの整理清掃をして見ないかって」

「・・・・はい?」

「簡略的に言おうか。つまりはここでバイトだよ。好きなときに来て好きな時間だけやれば良い」

「え?!」

燈樵は清掃道具があるところを教えてくれた。遊眞は頭が混乱して大変だった。

「こ、こんなの、本当は良くないんじゃないですか?!」

「本当はな。でも、菰亞のことやらなんやで縞井には結構迷惑かけているからな。それの侘びを含めて、と桐原さんが」

「・・・!! そ、そうで・・」

「燈樵、いるか?」

「はい」

書斎に入ってきた男性・・・・かと思ったら女性だった。

「あれ?部外者入れちゃダメだろぉ」

「桐原さんの許可をもらっています」

「あぁ、そうか、そうか」

「あの・・・・?」

「あぁ、自己紹介。ワタシは茶貴花音さきかのん。燈樵の同期」

「じゃ、2関!?」

「そ。ちょっと燈樵を借りたいんだけどいいかな?」

「はい、私は別に・・・」

「じゃ、縞井。考えておけ。嫌なら嫌で構わないから」

「そんなことないです!やらせてください!!」

「そうか。 本の内容とかは軽く読んでも平気だから」

「はい!有り難うございます!」

燈樵は茶貴に連れて行かれた。随分男性っぽい女性だなと遊眞は思った。そんなことより。勾拿所内で仕事!願ってもないことだ。嬉しくて遊眞は掃除をにやけながらやった。それを影で見ていた響がにやりと笑って写真を撮ったのは後になって気づくこと。

 日が沈んでから書斎の扉が開いたのに気付いて遊眞は手を止めた。予想以上の広さに書斎の整理どころか掃除すら終わっていなかった。

「あ、桐原さん! あの、お仕事有り難うございました!」

「いやいや。 その、普通の高校生では体験しないようなありえない事ばかり体感させてしまっていたからね」

「いや・・・・まぁ・・・・否めません・・・・」

「だろう。だから侘びだよ」

「はい。ありがとうございます」

桐原はにこやかに笑うと茶色の小封筒をくれた。

「何でしょう?」

「今日の分の代金だよ。少ないけどね」

「え?!掃除も終わってないような状態ですよ?!」

「お金が必要なんだろう?だから少ないがね」

「ありがとうございます~!」

半泣きになりながら桐原に礼を言う。

 家に帰って燈樵にももう一度礼を言おうと思ったが、当然だが燈樵はまだ帰ってきていない。

「あ、穐椰。あの、足、大丈夫・・・?」

「ん~、ヘーキだよ」

無傷の足を遊眞に見せ付ける。あれ?

「針山走ったとか・・・・?」

「ん。走った。ちょっと痛かった」

「ちょっと!?」

それだけで済むような話ではないような気がするのだが。

「どうして、そんな所を走ったの・・・?」

「本部にイくのが嫌でニゲていて気付イタラ針山のウエだった」

「どうして針山があるの・・・?!」

「知らないノ?」

「何を!?」

「僕が地面ニイっこづつ差し込ンダトコロ」

「知らないわ!そんなもの!!」

穐椰は鼻歌を歌いながらとっとと二階へ上がっていった。穐椰と素で話したのは初めてのように思える。最初は当然警戒して話したが、後半から警戒のけの字もなく思いっきり普通に素で突っ込みを入れていた。そんな自分が驚きだった。

 穐椰が勢いよく階段から降りてきた(正確には落ちてきた)のは時計が8時をさしたころだった。この場合は燈樵が帰ってきたのだと学習した遊眞だった。

「おかえりな・・・ 燈樵さん?!」

「いや、まいった」

「・・・?!」

ぐったりとした表情で来たので驚いた。それに燈樵が『まいった』の一言を言うとはとても思えなかった。

「本部に行かないといけなくなった」

「え?!急にどうしてですか?!」

「ん・・・・。ほら、茶貴さんが呼んできただろ?」

「あ、はい」

ここで遊眞はふと思ったが、どんなに位が高くても同じ位でも燈樵は勾拿の面々を呼び捨てにはしないのだろうかと。

「それで話を聞いていていつの間にか本部へ・・・」

「僕はイヤだからネ!?」

「あぁ・・・まぁ・・・・ん・・・」

曖昧な言葉を吐くとは珍しい。今日はそんな燈樵を見る日らしい。

「あの・・・どうしてそんな・・・?」

「いや、俺、実は本部苦手なんだ・・・」

「え・・・・?」

目線を少し横にずらして言った燈樵の言葉を少し理解し損ねた。穐椰は異様に楽しそうな表情で燈樵を見つめていたが。

「え?!ひしょーも、キラい?!やったァ!僕ト同じジャん!!」

楽しそうに踊りながらどこかへ行ってしまった穐椰。遊眞はそれを軽く見送ってから燈樵を見た。

「本部、というよりは本部副部長、といおうか・・・・」

「ふく、ぶちょう・・・?  針元渚副部長?!」

「さすが、よく知っているね」

「あ、当たり前ですよ!本部の副部長さんですよ?!そのくらい知っていて当然ですよ!」

遊眞はかなり焦った発言になった。副部長とはこんな大陸の端にあるような小さな勾拿所の者が接することが出来るなど早々ありえることではない。それであるにも拘らず、苦手だと判断したと言う事はそれなりに接点があるから。

「すごい・・・。私もあってみたいなぁ~・・・」

「行くか?」

「へ?!」

「本部にならいい刺激になるだろう?俺と一緒に行かないか?」

「や・・え・・・?!」

「・・そうか。受験生にはそんな暇はないか」

「・・・いや!行きます!!絶対に行きます!!!」

「そうか。じゃぁそう桐原さんにも伝えておこう」

「ありがとうございます!!」

燈樵に謝礼してとりあえず睡眠をとることになった。本部へは直ぐ明日に立つ事になっている。緊張のあまり中々眠る事はできなかったが。

 翌日、穐椰に叩き起こされてかなり驚いた。

「あああ、穐椰!?どどどど、どうし、ったん?」

「カミすぎ。ひしょーにイワれて起しにキタ」

「あ、そ、そうですか・・・・」

まさか、穐椰がいくら燈樵に頼まれたからと言って遊眞のところまで起こしに来るのは意外だった。

「よく・・・・来たね・・・?」

「ナンデ?僕がシマイの所にキタのが意ガイ?」

「う、うん・・・」

「・・・いいじゃン。キミはもう平気でショ?だから僕もナレることにしタンだ」

「そ、そう・・・」

予想以上に穐椰が自分に慣れて来てくれていて嬉しいとは思うけどどこか不安を感じるのは何故だろうか。それでもやっぱり遊眞は嬉しかった。なにより、ここで初めて穐椰は遊眞の名前を呼んだ。本当に前進したと思った。

 着替えを済ませて下に降りると遊眞は自分の目を少し疑った。見慣れない服装に身を包んだ燈樵がいたためだ。

「せ、制服・・・?」

「そんなに珍しいか?」

「あ、いや、まぁ・・・」

制服姿の燈樵。何だかとてつもない違和感を覚える。でもなんとなく。なんとなく・・・。

「ん?なんだ?」

「へ?いや、なんでもないです!」

俯いた遊眞は椅子に座った。しばらくすると桐原が迎えに来るらしい。穐椰は相変わらず不貞腐れた顔をして向かいの椅子に座っている。燈樵が本部に行く事が本当に気に喰わないらしい。

 桐原が来て車に揺られて2時間ほど経った時、車が止まった。車から降りると潮の香りが鼻を刺した。基本、海からは離れたところで生まれ育ったためにこの匂いには全く慣れていない。前に一度穐椰の所へ行くためにも嗅いだものだが覚えていない。今度は覚えて帰りたいと思う遊眞だった。

「どうした?」

「潮の・・・香りが」

「・・・嫌か?」

「いえ、好きです」

「そうか」

どこか優しげに笑った燈樵の顔をどこかで見たことがあるように思えた。でもそれをどこで見たのか思い出せなかった。船に乗って波に揺られながら少し長い時間を旅する事になった。その間もずっとあの笑顔を他の誰かで見たのだろうが、考えていたけど結局のところ思い当たらず眠ってしまった。


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