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勾拿  作者: ノノギ
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藹藹 第3話

 しばらく待っていると、面倒臭そうな表情の燈樵とにこやかに笑う響が登場した。その理由など、遊眞には到底理解は出来ないのだが。

「コレ、起こして遊眞ちゃん帰らせないとな」

「何故、縞井がここに・・・?」

「あ、大変なんです!家に、不審者が乱入してきたんです!さっき、響さんが連れて行ったんですけど・・・・。そ、それに穐椰さんって、一体何なんですか?!あれ、フツーじゃないですよ?!」

「・・・。ひとまず落ち着け、縞井。後半の質問の詳しい話は帰ってからにしよう。前半についてもう少し詳しく頼めるか?」

「あ、はい・・・」

遊眞はさっき起こったことをポツリポツリと説明をした。相変わらず穐椰は寝ていたけれど。

 説明が終わって燈樵はなにやら深く考え込んでいるようだった。響はそんな燈樵の様子を伺っていた。

「わかった。とりあえず今は家に戻れ」

しばらくの間の後、燈樵はそういった。穐椰を簡単に起こして何かと説明をしているようだったが、何を言っているのかは小さな声だったので遊眞には聞こえなかった。

「じゃァ、かえる」

穐椰は説明を受けてからそう言ってスタスタと歩き始めてしまった。遊眞も慌ててその後を追った。

 家に着くと、割れたガラスが妙に物悲しげに見えた。穐椰はソファに座りじっと遊眞を見る。

「寝ないんですか・・・・?」

「寝られない」

「・・・・何故、ですか?」

「賊の侵入を許したから」

遊眞は背筋が凍ったような感覚に陥った。穐椰の言葉に違和感がない。本来ならそれが普通なのだが、穐椰の場合、初めて会った時から今まで違和感抜群の言葉で会話を進めてきたのだから。体全体が見える初めての会話が若干の恐怖心を煽るものになろうとは、遊眞は思ってもいなかっただろう。

「・・・・じゃぁ、私は寝ます・・・・。明日も学校があるので・・・」

「ん」

小さく頷く穐椰。遊眞は静かに階段を上った。

 布団に入って目を閉じる。なんともいえない恐怖感。再び穐椰に対する恐怖心が芽生えてきそうで、それが怖かった。

 朝、目が覚めて下に降りていったときには窓ガラスが綺麗に直っていた。飛散したものも綺麗に整頓されている。そして遊眞はソファに座っているものを見て驚く。穐椰がするどい目つきでソファに座っている。昨日とまったく同じ姿勢で。同じ場所で。

「あの、寝ましたか・・・?」

「寝られない、ッテ言ったトオもうけど」

違和感が戻ってきたその口調に少しだけ安堵しながら遊眞は穐椰の顔を見た。出合った時からあった目の下の隈がより濃く見えたのは気のせいだろうか。

「そ、そうですか・・・・。なんだか、すみません」

「・・・?ナンデ謝ルの?」

「だって、私はのん気に寝させてもらったし・・・・」

「・・・・一睡シナいとこガそれ程苦にハカんじないのハ僕だけカ」

「え・・・?」

「いや。ベツニ」

穐椰にとって睡眠を一晩しなくても何も問題は無いようだった。

 仕度を整えて遊眞は家を出た。勾拿所に顔を出すために少し早めに家を出る。

 勾拿所について、昨日の事があったので入り口の張り紙を確認したが、何も無かったのですっと中へ入った。

「やぁ、縞井さん。随分と早いね」

桐原が急がしそうに動いていた。

「はい。電車で行こうと思って」

「・・・・そうか。今、燈樵がいないんだが、呼び戻そうか」

「いえ、大丈夫です。それだけお伝えください」

「・・・・わかった。そうしよう」

無駄に悩ましげに返答を返す桐原に疑問を感じながらも遊眞は勾拿所を後にして駅へと向かった。

 駅に見覚えのある紫髪が見えた。着ている服も見覚えのある紅色に近い服に臙脂のライン。勾拿の制服だ。

「響さん・・・?」

「ん? あれ?遊眞ちゃん?!燈樵は?」

きょろきょろと辺りを確認して保護者がいないことに気付きそう尋ねた。

「今日は、一人で行こうかと。燈樵さんにもいつまでも迷惑はかけられませんし」

「ふーん。そっか。気をつけろよ」

「はい。響さんは何をなさって・・・?」

「ん~~。見回りみたいなもんか?調査、調査」

軽く言う響だが、最近やっとこの響攻略法を編み出しつつあった遊眞だった。いつもにこやかな笑顔で全てを多い尽くしている響きの裏の顔。それがなんとなく見えるようになってきた。だからと言って何かあるかといったら、別にそんなことはないが。

「頑張ってください」

「アリガト。遊眞ちゃんも勉強頑張れよ」

「はい。 ・・・どういう意味で?」

「ん?学生って言うのは勉強して何ぼでしょ?それにもうすぐテストとか?」

にやりと笑う響。あ、こりゃ自分が勉強できないのを知っているな、と遊眞は確信を持っていえた。

 駅で何やとやり取りを終えた遊眞は電車に揺られて何処までも・・・・。とまでは行かずに、学校の最寄りの駅で下車。登校している同じ学校の生徒を見ながら早足に学校へと向かった。

「え~、期末考査もあと2日な訳で・・・・」

担任のそんな言葉が耳に入ってきたのは、ホームルームのときだった。

―しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!

と、心の中で叫び声をあげたのは遊眞だけだっただろう。色々な事がありすぎて勉強なんてやっている暇が無かった・・・!など、言い訳にすらならない。と、ここで遊眞はふと思った。何だか最近、妙に不幸続きではないだろうか・・・・?ぶるぶると頭を振ってその思考をかき消した。そんな事ない。大丈夫。何が?さぁ?

 昼休みに参考書に埋もれている遊眞をさすがに哀れと思った友達数人が遊眞の周りに座った。

「ね、本当に教えてくれそうな人、いないの・・・・?なんなら、私らが教えてあげようか・・・?」

「でも、みんなだって精一杯でしょう? 大丈夫。なんとか頑張るから」

弱い笑みがより友の同情を引いたようだった。

「いや、なんだか、哀れ!今日遊眞の家に行って教えてあげる!」

「いや、本当に大丈夫だって。 いやいやいやいや、本当に大丈夫です!!」

一人の友の声に遊眞は反論するように否定した。家にこられるのはいろいろな意味でまずい。

「とにかく、何とか頑張る。応援だけしていて」

「もう。意地っ張りなんだから」

「そういう性格なの」

「まぁ、じゃぁ頑張りなさい」

「うん。でさ、変なこと聞いていいかな?」

「ん。何?」

「んと・・・。テスト、一日目って科目何?」

「オマエやる気あるの!?!??!?!」

友達全員に突っ込まれた。

「すみません・・・・」

たじたじの遊眞であった。

 家に帰ると、意外にも燈樵がお茶を飲んでテーブル前に座っていた。

「おかえり」

「た、ただいま・・・・。燈樵さん、お仕事は・・・?」

「今日は早めに終わった」

「そうですか・・・・」

遊眞は鞄をドサンと音を立てて床に置いた。その音に異常を感じたらしく鞄を凝視する燈樵。

「何が、入っているんだ・・・?」

「え? あぁ、参考書です。教科書と、ノートと・・・その他色々・・・・ですね」

言っていて何だか悲しくなる遊眞。前々日にこんな焦って勉強するなんて始めてだ。

「教えようか・・・?」

「え?!いや、でも・・・!燈樵さん、お忙しいでしょうに・・・!!」

「いや、大丈夫だよ。用意して待っていな」

燈樵の度量に感服いたします。遊眞はそんなことを思いながら勉強道具を広げた。その様子をドアのふちから覗く穐椰を発見したのはいつごろか。

「なな、何やっているんですか?!」

「・・・・君さ、ケーゴつかうの、ヤメてくれない?」

「え・・・?」

「なんか、ダルい」

「あ、そう・・・・」

ここで、ふと遊眞は気付く。穐椰は一度も遊眞の名を呼んだことがない。『君』と、ずっと言っている。不思議に思って聞こうとしたが、燈樵が戻ってきたので聞くのをやめた。

「菰亞、大分慣れたのか?」

「ん。少しネ」

「そうか」

燈樵は穐椰の頭を軽くぽんと撫でた。穐椰はほんのり嬉しそうな顔をしてそそくさと階段を駆け上がっていった。

「穐椰、も・・・それなりに苦しかった・・・?」

「あぁ、そうだよ」

燈樵は目を伏せてそう答えた。遊眞は本当に穐椰に対して、申し訳ないことをし続けてきたなと自責の念に取り付かれていた。

「あまり縞井が気にすることではないぞ」

遊眞の表情から察したのか、燈樵がそういってくれた。遊眞はにこやかに笑って頷いた。

「それで?今日は何を?」

「あ、今日はその、また数学お願いしてもいいですか?」

「構わんよ」

遊眞は鞄から教科書やらを取り出した。試験は金曜日からなので土日を挟むことになるため、少しは楽かもしれない。

 勉強を始めて1時間と30分絶ったときだった。丁度区切りもよかったこともあって燈樵が終了促した。

「一旦、な。ちょっとやらないといけないことがあるから」

燈樵はそう言って2階へ上がった。それからすぐに降りてきて、食事の仕度を始めた。


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