鋭意 第6話
眼が覚めたとき、窓から見える空が真っ黒に染まっていた。所々見える小さな星々がキラキラと輝いていた。
「星ってどうしてあんなに綺麗なんだろう・・・?」
「宇宙の神秘だろうな」
「ぎゃ!?」
「ん・・・?」
まさかそこに燈樵がいるとは思っていなかったので遊眞はひどく驚いた。燈樵のほうは遊眞の突拍子も無い声を上げるのには慣れたようだった。
「あ、す、すみません・・・。いるとは思わなかったので驚いて・・・」
「そうか。しばらくは隣の部屋で寝るから移動しようと思っていてな」
「・・・?」
意味の無い行動はしない燈樵だからコレにも意味があるのだろうけれど突然移動するのには一体どういう意味があるのだろうか?
「まぁ、余り気にしなくていいよ。何かあったら呼べばすぐに来るから」
「はい。ありがとうございます」
軽く礼を言って、再び遊眞は夢の中へと落ちてゆくのだった。昨日とは違ってとても幸せな夢の中へと。
朝になって。遊眞はまぶしい日差しで眼が覚めた。朝日が部屋いっぱいに差し込んでいる。そういえば、昨晩もそうだったが窓にカーテンが無かった。閉め忘れたままにしてあった。遊眞は体を起こすと、昨日のだるさが嘘みたいに元気になっていた。コレなら学校に行けると思って時刻を確認すると5時を回っていた。随分と早く起きたかと一瞬思ったが、そうでもないと思い直した。家が全焼して勾拿所に世話になる、つまり燈樵の家から通学をすると随分と時間がかかる。仕方の無いことだけれど。電車を使うと片道で約3時間掛かる。車で行くともう少し早く行くことが出来るのだが。遊眞は着替えを済ませると部屋を出た。
「ぁ・・・・。えと・・・・ぉ、おはよう・・・・」
「オハヨ」
穐椰が眠そうな眼をこすりながらテコテコ歩いていた。遊眞は体が硬直していたが以前ほどの硬直感は無かった。
「随分早いな」
「燈樵さん。おはようございます」
「おはよう。具合はどうだ?」
「はい。楽になったんで。今日は学校に行こうと思います」
「そうか。じゃぁ送ろうか」
「あ、大丈夫です。この時間なら電車で行けますから」
「そう。わかった」
燈樵は遊眞の頭にぽんと手を乗せた。遊眞は驚いて燈樵の顔を見た。とても安心したといった表情をしていた。
「燈樵さん・・・?」
「少し、克服できたみたいでよかった」
何を言っているのかすぐさまわかった。遊眞はすっと目線を降ろして小さく頷いた。穐椰に対してそんなに恐怖を感じなくなった。燈樵のおかげだ。
「あ、燈樵さん。今日は仕事・・・?」
「いや、オフだが多分響さんが交代しろって言いにくると思うがね」
「そうですか。頑張ってくださいね」
「あぁ、ありがとう」
にっこりと遊眞は笑って階段を駆け下りた。
出かける仕度が出来た。燈樵から貰った大事なコートも着て。
「いってきます」
遊眞はこの言葉に色々な思いを乗せてそういった。それを知ってか知らずか、燈樵もいつもより感情の篭った言葉でいってらっしゃいを言ってくれた。
学校に着くと遊眞は一呼吸を整えた。隣の璃紗が妙な表情でこちらを見てくるのでナニ、というとにやりと笑った。
「何かイイコとあった?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、あった」
「・・・ナニ、この妙な間」
「すんっごく、いやなことがって。それからイイことあった」
「なるほど。いいコトあったわけ。じゃぁ、遊眞。イイことついでに教えてあげる」
「あら、ありがとう」
「3日後、テストだよ」
「・・・・・・え゛ぇ゛~~~~~~~~!!!!!????」
様々なごたごたがあり、すっかりテストのことなど忘れていた。以前、燈樵に数学を教えてもらったが、他の教科だってある。今から勉強して間に合う気は余りしないが、とにかく死ぬ気で頑張って勉強をしてみようと覚悟する。
「でも・・・。やっぱり無事に終わる自信がない・・・・」
「なに言っているの!いい教師見つけたんじゃなかったの?」
「いや・・・まぁ、すごくいい教師ダケド・・・。それについていける私の脳がない」
「・・・・か、悲しいかなぁ~~~」
遠い眼に苦笑いで璃紗は言った。遊眞はとにかく必死になって勉強をしようと決意。今学期最後の期末試験が迫っている。コレでいい点数を取らねば色々と大変な思いをする羽目になる。それだけは勘弁!