社の中で
ふと目覚めると、辺りは暗く、狭い隙間から光が差し込む程度で、ホコリ臭かった。足元を見ても、へこみだらけで今にも崩れ落ちそうな汚れた床板であった。気づけば裸足でいたのでさぞ汚れているだろうと思い、足の裏を覗くとまっさらで風呂から上がったばかりのようであった。ふと、自分の姿を見てみると、どこかの高校のブレザーにスカートを履いていたので、自らが女子であることを認知した。
立ち上がって、辺りを見回すと扉の先から狛犬が見え、後ろを向くと丸い鏡が鎮座してあった。顔を見ると、オカッパ姿のかわいい女子、という他ない。儀式めいた置物を前にして、音もない空間でたった一人でこの場所にいると次第に誰かがこちらを見ているような気さえ感じた。そもそも、なぜここで寝ていたのか覚えていないことが不思議でならなかった。急にカラスが大声で鳴きだしたので、飛び上がって社から飛び出した、その前にはローファーが脱ぎ捨ててあったので自分のだと確信し、素足で履き潰して、社を大きな音を立てて閉じて、境内を駆け抜けた。
鳥居の前まで走ると気持ちが落ち着いたので、ローファーを履き直すと、森の中の神社でなぜ寝ていたのかさっぱり思い出せず、恐怖がぶり返してきたので、山を駆け下りていった。ゴロゴロとした岩を、艶めくローファーで踏みしめて、転ばないようにステップを踏んだ。落ち葉で滑りそうになりながらもなんとか堪えてクネクネとした泥だらけの道を歩くほどに、せっかくのローファーが次第に汚れていった。先の方に光が見え始めたので、一目散に向かうと、アスファルトで舗装された道へ出た。森に囲まれた細い道の向かい側には、大きなアパートがいくつか立っていた。道は森の奥へと登っていく道と、くだり道があった。その前に、ふと苔むした石碑が建っておりそこに御嶽山入口と書いてあった。この名前を見た時にハッと何かを思い出しそうであったが喉元で止まった。もどかしく気持ち悪さを抱えつつ、道を降りていくと、背丈以上のフェンス越しに学校が立っていた。懐かしいような感覚を覚えたが、自分に関係あるのかさえ知らない。
そもそも自分が何者であるかすら分からないことに気がついた。自分の名前はなんだろうか、また、自分の家はどこだろうか。そして、自分の着ている制服はどこの学校のものだろう。根本的なことを思い出せないまま、学校沿いを歩き、校門までたどり着くと、自分の着ているものと同じ制服を着た生徒たちが歩いていた。
「(もしかしたら、私はここの生徒なのかもしれない。)」
彼女は、本当にここに来ていいのだろうか、という不安を覚えつつ、自分の意志とは関係なしに学校へ迷い込んでいった。




