冒険者というやつらは
「好きですっ!結婚してくださいっ!」
窓口でいつものように、ようこそ。ご依頼ですか?お仕事の斡旋ですか?
と尋ねれば、今のセリフの後に花を差し出された。
これも「ご依頼」ではあるんだろうけども…。
ここはそこそこ大きい町の冒険者組合、その受付窓口。わたしはその受付。
領主、商人、町で暮らす人々などから公的対応が難しい依頼を受け、
冒険者という言わば何でも屋達にその依頼を斡旋したりしている。
大半は真っ当なんだけど、時々この手のすっとこどっこい…いや、
時と場所と自分自身を勘違いされた方々が訪れる。
今、花を差し出しているのは十代後半ぐらいの男。戦士だったっけ。
最近町に来て、仕事を受けるでもなく、他の人と情報交換をするでもなく、
組合の建物内に併設されてる食堂でよく飲み食いしている。
まあ仕事しないのも、冒険者としては自由。見習いの時は最低週に一度、
町の雑用でも素材取りでも、何か仕事をこなさないと資格剥奪されるけど、
正式な冒険者となって階級も上がれば、仕事も難易度が上がっていくので、
月に一度、数か月に一度、と剥奪の猶予期間も伸びていく。
しかしこの男の階級は一つ星。
冒険者の階級は、星の数が増えるほど高い。
一つ二つだと下級、三つ四つなら中級で生活も安定し始める。
五つ以上では上級で、この町だと十人ぐらいしかいない。
つまりこの男は生活カツカツだと思えるんだけど…
だいたい、花を渡せば女の子がなびくとでも思ってるのかね。一輪だし。
しかもそれ、その辺で摘んでるだろう!道端でよく見かけるぞ!
あれこれツッコミしたいのを抑えつつ、笑顔で対応する。
「ここは冒険者組合窓口です。結婚相談所ではありませんよ?
冷やかしはご遠慮くださいね。さて、次の方どうぞ」
「本気なんですっ!」
なお悪いわ。お花畑の相手してる暇なんてないっつーの。
「ボウズ、いい加減にしろ。受付嬢さんが困ってるだろうが」
お、助け船が来た。こちらは二十代後半の、確か三つ星の斧使いさんだ。
「彼女と結婚するのはオレなんだから」
あんたもかい。
「やめなさいっての。ごめんなさいね、依頼完了の報告です」
こちらは三つ星斧使いと組んでる斥候の女性だ。
一つ星ボウズと三つ星斧使いは横に押しのけられたが、まだ言い争ってる。
「職員さんも大変よね、ああいうのの相手しなきゃならないなんて」
「あはは、多少の想定外は織り込み済みですので…」
やや引きつっている気もするけど、笑って応対する。
しかし最近確かに、軽口でなく口説かれるのが妙に増えてる気がする。
自分が不美人とは思わないけど、急にモテ出す要素なんてあったかなぁ?
第一、わたし適齢期過ぎてるよ?自分で言うのもアレだけど需要ある?
「はい、依頼達成を確認しました。お疲れ様です」
契約上不備がない事を斥候の女性に告げる。
ついでに声を潜めて彼女に聞いてみた。
「わたし、なんか皆さんに気を引くような事しちゃってます?
全然心当たりがないんですけど…今みたいな事が増えてて」
「えーっと…アタシの口からは、なんとも…」
ん?誤魔化された?
「え、何かご存じなんですか?教えてください!
仕事に支障が出てるので困るんですよ」
彼女は腕を組んで、うーん、と考えた挙句、耳元でこそっと、
「ここではなんなので、お仕事引けた後、向かいの酒場で」
とつぶやいたので、無言でうなずいた。
仕事明け、着替えて冒険者組合の建物がある向かいの酒場へ急ぐ。
斥候の彼女が一人、最近流行り出した煮込み料理を食べつつ待っていた。
わたしも彼女の真正面の席に着き、注文を頼む。
食事がある程度進んだところで、彼女が切り出した。
「えーっとね、実は貴女が…隠れ巨乳だという話が流れてて」
「はい!?」
「男共の間で、それは確認せねば!とか盛り上がってたのよ、この酒場で」
「はあぁぁぁぁ!?」
「で、誰が口説き落とせるかという話が出てきて、競争してるんだって。
巨乳美人受付嬢争奪杯とか言って…参加者は二十人ぐらいいるわ」
「なんですかそれはあぁぁぁ!止めて下さいよ!」
というか、なんで知っている!わたしの情報を!
「首謀者というか情報元があの組合長なのよ」
問題の火元は身内かよおぉ!
◆
翌日の冒険者組合。
ボコボコに殴り倒した冒険者組合長を床に正座させ、
争奪杯は中止とする、と発表させた。
組合長いわく、そろそろいい人とくっついて欲しいという親切心だとか。
大きなお世話です。
カスタマー対応って時々とんでもないのありますよねー(トオイメ)




