8 ギルドマスターの面接
服屋を出てから冒険者ギルドにやってきた二人。
二人を見た受付嬢フェリシア声をかけ、二階へと案内する。
そこには……。
《針と月亭》の扉を出ると、マダム・エルヴィラは二人を見送ってくれた。
「気をつけな。世の中は、優しい目ばかりじゃないよ」
その言葉を背に受け、市場へ踏み出す。
――また、視線。
視線、視線、視線。
だが、先ほどとは違う。
蔑みではない。
疑念でもない。
好奇心。驚き。
そして、可憐なものを見るときの、無遠慮な値踏みの視線。
少女は、ぎゅっとエルナの手を握り直した。
「……大丈夫よ」
エルナは、そう言って歩調を緩めない。
冒険者ギルドの扉を押し開けた、その瞬間だった。
「エルナさん!」
受付嬢フェリシアの、やや硬い声。
「ちょっと奥へ。……あっ、その子供さんもご一緒に」
周囲の視線が、一斉に集まる。
エルナは頷き、案内に従った。
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二階。
普段冒険者立には立ち入れない、奥まった一室。
ノック。
「入れ」
低く、重みのある声。
扉を開けると、大きな執務机があり――
その向こうに、三人の男女がいた。
中央、がっしりとした体躯の壮年の男。
深い皺と、鋭い眼差し。
その右手に、冷静そうな女性。
背筋を伸ばし、観察するような視線。
左には、昨日の鑑定士。
白髪交じりで、眼鏡の奥の目が爛々と光っている。
「座りなさい」
男が、手前のソファを示した。
エルナと少女は並んで腰を下ろす。
少女は、やはりエルナの鎧の端を離さない。
「まずは、名乗ろう」
男が口を開く。
「俺はこの冒険者ギルドのギルドマスター、ガルド・アイゼンフォルクだ」
次いで、女性が一礼する。
「サブマスターのリーネ・ヴァルシュタインです」
最後に、鑑定士が咳払いをする。
「ギルドの納品鑑定を担当している、ヘルマン・バリウスだ」
三人の視線が、揃って少女に向いた。
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「要件は、君が保護したその子だ」
ガルドが言う。
「近隣の村や集落で、奴隷商人の影が確認されている」
「現在、ギルドが命じた冒険者が取り締まりに向かっている」
エルナは、黙って聞いていた。
「幸いにも、今のところ“行方不明の子供”の報告はない」
それは、救いでもあり――
不安でもあった。
「問題は、この子だ」
ガルドの視線が鋭くなる。
「どこから来た?」
エルナが答える前に、ヘルマンが身を乗り出した。
「それとだ!」
声が、少し上ずる。
「昨日、君が納品した薬草――」
「間違いなく、超一級品だ!」
部屋の空気が、ぴんと張り詰める。
「採集に長けた一流の薬師ならともかく――」
「駆け出し、見習いが、半日ほどで種類も状態も完璧に揃えて採るなど、ありえん!」
エルナは、ゆっくりと息を吸った。
「……正直に言います」
三人の視線を、真正面から受け止める。
「わたしは、薬草に詳しくありません」
「この子が、指し示してくれました」
「……抜き方も、教えてくれました」
一瞬の沈黙。
ガルドが、少女に目を向ける。
「……本当か?」
少女は、小さく身を縮めた。
俯きエルナの後ろに隠れようとする。
思わずかばうようなしぐさになるエルナ。
サブマスターリーネが声が大きくなったヘルマンを制する。
リーネが、静かに口を開いた。
「規定では」
冷静な声。
「保護された身元不明の子供は、孤児として教会の運営する孤児院に送られることになっています」
「……いえ、そうしなければなりません」
エルナの胸が、きしんだ。
「余計な情は不要です」
「エルナ、あなたにとっても足手まといになりかねない」
――わかっている。
理屈は、正しい。
冒険者として、子供を連れて旅をする危険性も。
半分の心は、納得していた。
だが――
残りの半分が、
強く、強く拒んでいた。
エルナは、少女の手を握り返す。
震えている。
それでも、離そうとしない。
エルナは、顔を上げた。
「……あの」
声が、少し震えた。
それでも、はっきりと。
「わたしの子にしては、ダメですか?」
部屋が、静まり返った。
三人の視線が、一斉にエルナに集まる。
少女は、何も言わない。
ただ、
エルナの左手を、ぎゅっときつく握ったままだった。
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