7 少女の服を買いに行く
ボロボロの服が借り物の服になったものの、やはりそのままにはできない。
エルナは少女を連れ宿の主人に教えられた服屋に向かいます。
市場は、朝から人で溢れていた。
呼び声。
荷車の音。
香辛料と革の匂い。
――そして。
**視線。**
視線、視線、視線。
ボロボロの衣服を着た少女を一瞥、そして自分に……。
それはギルドとは少し違う。
好奇と値踏みと、ほんの少しの蔑み。
エルナは、自然と少女を自分の影に入れるように歩いた。
少女は、相変わらず革鎧の端を掴んだまま。
指先が白くなるほど、ぎゅっと。
「……すぐ、着きますから」
声を落として言うと、少女は小さく頷いた。
---
教えられた店は、市場の一角にあった。
派手な看板はないが店のガラス戸に店名が記されている
。
《針と月亭》
大きくはない。
だが、ショーウィンドウに並ぶ服は、どれも丁寧な仕立てだ。
扉を開けると、鈴が鳴った。
「いらっしゃ~い」
奥から現れたのは、人族の女主人だった。
太って豊かな体躯。
腕を組むだけで、場を制する貫禄。
女主人は、エルナ……ではなく、少女を一瞥した。
それだけで。
すべてを悟ったように、ふっと口角を上げる。
「……なるほどね」
視線をエルナへ戻し、低く、落ち着いた声で言う。
「私はマダム・エルヴィラ。大丈夫。悪いようにはしないよ」
そして、少女へ。
「おいで。そんな恰好じゃ、表を歩けやしない」
有無を言わせぬ調子だった。
少女は一瞬、エルナを見る。
エルナが小さく頷くと――
エルヴィラの大きな手に、そっと引かれていった。
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しばらくして。
「ほら、できたよ」
奥のカーテンが開く。
そこに立っていたのは――
まるで別の子のような少女だった。
清楚な子供用のワンピース。
派手ではないが、丁寧な仕立て。
下着も、靴下も、きちんと揃えられている。
布と革でできた、歩きやすそうな履物。
寸法もピタリで、整えられた姿。
鳶色の澄んだ瞳。
光を受けて輝く、金色の髪。
「……」
エルナは、言葉を失った。
―よく、似合っている。
「どうだい?」
エルヴィラが、にやりと笑う。
少女は、少し落ち着かない様子で立っていたが、
エルナの方を見ると、安心したように小さく息を吐いた。
「……ど……」
やっと、声が出た。
「どう……ですか
「とても、可愛い」
エルナが」答えると少女は、ほんの一瞬だけ――
困ったように視線を逸らし真っ赤になった。
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「さて、お代は……」
マダム・エルヴィラは顎に手をやり、少し考える素振りを見せる。
「そうさね。替えの下着と、ワンピースをもう一着付けて」
「……こんなもんで、どうだい?」
示された金額を見て、エルナは目を瞬かせた。
「……え?」
**想像していたより、ずっと安い。**
「いいんですか?」
「安すぎやしませんか?」
エルヴィラは、ふん、と鼻を鳴らす。
「いいってことよ」
そして、柔らかく笑った。
「今後とも、ご贔屓にしておくれ」
エルナは、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
---
会計を終え、店を出ようとした、そのとき。
エルヴィラが、そっとエルナの耳元に顔を寄せる。
「……誰にも言いやしない」
低く、確かな声。
「その子、ちょっと訳アリのようだ」
息が、かかる距離。
「守り切るなら――、覚悟がいるよ!」
エルナは、はっきりと頷いた。
「……はい」
答えに、迷いはなかった。
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店を出る。
市場の喧騒が、少し遠く感じられる。
少女の左手は――
まだ、硬く握られたままだった。
開かれる気配は、ない。
「……大丈夫です」
エルナは、もう一度そう言った。
今度は、自分自身に言い聞かせるように。
少女は、何も言わない。
それでも、エルナの革鎧の端を掴む右手は確かに――
信じていると、伝えてきていた。
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