6 宿にて 2
宿の朝。
ぴったりしがみつく少女をみてエルナは……。
朝の光が、薄いカーテン越しに差し込んでいた。
エルナは、ゆっくりと目を開け――
そして、動けなくなった。
「…………」
胸元。
ぴったりと、何かがしがみついている。
少女だった。
小さな身体を丸め、エルナの革鎧の端を掴んだまま、深く眠っている。
まるで――離したら消えてしまうとでも言うように。
「……」
寝息は静かで、軽い。
その温もりが、はっきりと伝わってくる。
「……もう」
小さく、息を吐く。
だめだ。
これは、だめだ。
「……この子を、他人に手放すわけにはいきませんね」
心の中で、そう言い切った。
理由は、いらなかった。
気づいた時には、もう遅い。
完全に、情が移っていた。
エルナは、そっと少女の頭を撫でる。
金色の髪が、朝の光を受けて柔らかく輝いた。
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しばらくして。
少女が目を覚ました。
――が。
状況は、変わらなかった。
しがみついたまま、離れない。
「……おはようございます」
声をかけると、少女は一瞬だけ瞬きをし、
それから、さらにぎゅっと力を込めた。
「……はいはい」
エルナは苦笑する。
「朝ごはん、食べに行きましょう」
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宿の食堂。
質素だが、温かい朝食が並んだ。
パンとスープ、少しの果物。
エルナは、少女の向かいに座る。
「どうぞ」
少女は、しばらく料理を見つめ――
恐る恐る、パンを小さく千切った。
一口。
もぐもぐ。
……それだけ。
「……」
エルナは、じっと様子を見ていた。
「……少ししか、食べませんね」
無理に勧めることはしない。
でも。
「……ちゃんと、食べないと」
心配が、胸に積もる。
エルナ自身は、いつもの調子で食べ終えた。
ドワーフの胃袋は、健在だ。
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食後。
宿の主人に声をかける。
「あの」
「ん?」
「……この子の、服を整えてやりたくて」
主人は、少女を一瞥し、すぐに事情を察したようだった。
「市場の中に、一軒ある」
「……信用できますか?」
「訳アリの子でも、金を出せば粗末にはしない」
「それに――」
声を落とす。
「秘密は守る」
エルナは、ほっと息をついた。
「ありがとうございます」
「朝は人も多い。気をつけな」
「はい」
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宿を出る。
少女は、相変わらずエルナの革鎧を掴んでいる。
「……市場、行きますよ」
返事はない。
それでも。
その手の力は、はっきりと「離れない」と告げていた。
エルナは、小さく笑う。
「……大丈夫です」
「私が、います」
そうして。
守ると決めた朝が、始まった。
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