5 宿にて 1
ギルドの受付嬢に教えられた宿に入る二人。
まずは近くの共同浴場へいきます。
ギルドを出る直前、エルナは一度だけ足を止めた。
受付嬢フェリシアを振り返る。
「あの……」
「はい?」
「子ども連れでも、泊まれる宿を教えてもらえますか」
フェリシアは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
「……あります。少し古いですけど、家族連れも使う宿です」
「場所は――」
簡単な道順を聞き、エルナは頭を下げた。
「ありがとうございます」
少女の手を引き、ギルドを後にする。
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教えられた宿は、町の外れにあった。
派手さはないが、落ち着いた佇まいの建物だ。
扉を開けると、宿の主人が顔を上げた。
「いらっしゃ――」
言葉が、途中で止まる。
エルナと、
その隣に立つ、泥だらけの少女。
「……あー……」
一瞬の戸惑い。
だが主人は、商売人だった。
「……事情あり、って顔だな」
「はい」
エルナは、正直に頷いた。
「一晩、泊めていただけますか」
「……部屋は空いてる」
主人は少し考え、頷く。
「子どもも一緒だな?」
「はい」
「……そうか」
それ以上、深くは聞かれなかった。
――ありがたい。
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部屋に案内される途中、エルナは少女を見下ろす。
服はまだ汚れている。
髪も、顔も。
「……お風呂、入りましょうか」
少女は、答えない。
それでも、手は離さなかった。
それを見た宿の主人が、ぽつりと言う。
「この先にウチらみたいな宿が契約している共同浴場がある。料金も安い」
「ありがとうございます」
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湯気が立ちのぼる浴場。
エルナは、ゆっくりと少女の服を脱がせた。
抵抗は、ない。
――その体を見て、胸が詰まった。
「……細い」
思っていた以上に、痩せている。
小さな肩。
浮き出た肋。
何も言わず、湯で汚れを落としていく。
泥が流れ、埃が消え――
少しずつ、本来の姿が現れていく。
「……」
顔を洗う。
そのとき、エルナは気づいた。
鳶色の、澄んだ瞳。
怯えているが、濁りはない。
髪を洗えば、
泥の下から現れたのは、艶のある金色だった。
「……」
普通の、子ども?
……じゃないな。
根拠はない。
ただの直感。
湯の中で、少女はじっとエルナを見ている。
問いかけるように。
縋るように。
「……私一緒に、いていいの?」
言葉を発した訳ではないが瞳がそう言っている。
「いいよ」
短く答える。
相変わらず何の言葉もしゃべらない少女。
しかし、湯の中でもエルナの左手を掴んで離さなかった。
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湯上がり。
貸してもらった簡素な衣服に着替えさせる。
部屋へ戻る途中も、
少女の手は、革鎧の端を掴んだままだった。
しっかりと。
離さない、という意思のように。
「……」
胸の奥が、じん、と熱くなる。
ずるい。
こんなの。
放っておけるわけがない。
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部屋に入る。
小さな机と、二つの寝台。
エルナは腰を下ろし、頭を抱えた。
「……私は、冒険者です」
危険な仕事。
安定しない生活。
「……この子を、守れるんでしょうか」
答えは出ない。
だが。
少女が、そっと近づき、
エルナのインナーを、また掴んだ。
離れない。
エルナは、苦笑した。
「……参りました」
小さく、でも確かに。
「……今日は、一緒にいましょう」
その言葉がわかったのかどうか。
少女は、少しだけ安心したように、目を伏せた。
――こうして。
小さなドワーフと、名もなき少女の夜が、始まった。
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