4 クエストの薬草納品
採集した薬草を納品にきたエルナ。
傍らには森の中で奴隷商人の手先から保護した名も知らぬ幼い少女。
少女に教えられたとおりに採集した薬草……、実はとんでもないものだった。
冒険者ギルドの扉が開いた瞬間。
空気が、わずかに揺れた。
――視線。
視線。
視線。
エルナではない。
その隣に立つ、少女へ向けられたものだった。
「……子ども?」
「……連れてきたのか」
「……何だ、あれ」
遠慮のない視線が、突き刺さる。
少女は、それをはっきりと感じ取ったのだろう。
びくりと肩を震わせ、エルナの鎧の縁を強く掴んだ。
「……大丈夫です」
エルナは一歩、前に出る。
少女を背に庇うように。
視線の中を、真っ直ぐ受付へ進んだ。
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「お帰りなさい……あ、えっと……」
受付嬢フェリシアは少女を見て言葉に詰まるが、すぐに仕事の顔に戻る。
「依頼の薬草ですね?」
「はい」
エルナがポーチを差し出すと、受付嬢は中を覗き――
すぐに眉をひそめた。
「……少し、お待ちください」
そう言って、奥へ声をかける。
「ヘルマンさーん、お願いします!」
やってきたのは、白髪交じりの初老の男。
専門職の鑑定士だった。
彼は無言で薬草を取り出し、一本、また一本と調べていく。
……そして。
「…………」
手が、止まった。
「……どう、ですか?」
フェリシアが恐る恐る聞く。
鑑定士は、ゆっくりと顔を上げた。
「……信じられん」
「え?」
「全部だ。すべて、特級品だ」
その瞬間。
「……は?」
「……全部?」
周囲がざわついた。
「根の傷なし、葉の欠けなし、鮮度も完璧……」
「この品質で揃えるには、熟練の薬師でもかなりの時間がかかる」
ヘルマンは、はっきりと言い切った。
「報酬は規定の五倍でも安いくらいだ」
ざわっ、と空気が弾ける。
「五倍!?」
「見習いだぞ……?」
「しかも子連れで……?」
フェリシアは一瞬呆然としたあと、慌てて計算し直し、袋を差し出した。
「……規定により、こちらになります」
「……ありがとうございます」
エルナは戸惑いながらも、頭を下げ報酬を受けろると腰の皮袋に入れた。
――何が起きているのか、正直わからない。
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フェリシアは、改めて少女の方を見る。
「……ねえ」
できるだけ優しく、声を落として。
「あなた、名前は?」
少女は、答えない。
「歳は?」
沈黙。
「……どこから来たの?」
少女は、エルナの鎧を掴む手に、さらに力を込めただけだった。
フェリシアは、それ以上聞くのをやめ、エルナを見る。
「……保護、ということでいいですか?」
「はい」
即答だった。
エルナは、少女の頭にそっと手を置く。
「この子、行くところがありません」
フェリシアは、静かに頷いた。
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ギルドを出る直前。
まだ、視線は残っている。
けれど――
もう、最初ほど痛くはなかった。
エルナは、少女の手を引いて歩きながら、小さく呟く。
「……さて」
「この子、どうしたものか」
答えは、まだ出ない。
それでも、
少女はその手を、離さなかった。
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