表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

森の入り口

クエストクリアのために森の入り口に来たら……。

お待ちかねの初戦闘。

さて結果は……。

 森の入り口は、思っていたよりも静かだった。


 町道が途切れ、木々が密集し始める境目。

 風に揺れる枝の音と、草を踏む自分の足音だけが耳に入る。


「……ん?」


 エルナは、ぴたりと足を止めた。


 ――かすかな、嗚咽。


 聞き間違いではない。

 森の影、道から少し外れた場所。


「……だれか、いるの?」


 声をかけると、びくりと何かが動いた。


 現れたのは――

 **ひとりの少女**だった。


 年の頃は十歳前後。

 粗末な服は破れ、泥と埃にまみれている。

 細い腕で自分の身体を抱きしめ、怯えた瞳でこちらを見ていた。


「……」


 少女は何も言わない。


 ただ、**左手を固く握りしめたまま**、離そうとしなかった。


「大丈夫だよ」


 エルナは盾と小刀から、そっと手を離す。


「私は冒険者です。危ない人じゃないよ」


 一歩、また一歩。

 近づくたび、少女の肩が小さく震えた。


「誰かに追われているの?……」


 その言葉が終わらぬうちに……。


 ――ばきっ。


 背後の茂みが、乱暴に踏み荒らされた。


「ちっ、ガキがこんなとこまで逃げやがって」


「おい、そこのチビ。そいつを渡せ」


 現れたのは、三人の男。

 粗悪な武器、荒んだ目。

 まっとうな人間じゃないと、一目でわかる。


 少女が、息を詰めた。


「……っ!」


 エルナは、自然と前に出ていた。


「この子に、何の用ですか」


「あぁ? 見りゃ分かんだろ。商品だ。売るんだよそいつを」


 男の一人が、舌打ちする。


「大人しく渡せチビ。怪我したくなきゃな。それともお前も商品になるか?」


 下品笑いを浮かべる隣りの男。


 ――その瞬間。


 エルナの中で、何かが弾けた。


「……お断りします」


 短く、はっきりと。


「この子を、渡すわけにはいきません」


「ははっ、笑わせんなよガキんちょ!」


 男が小刃を振り上げ踏み込んだ。


 次の瞬間――


 **カンッ!**


 亡き父愛用の椅子を加工した小さな盾が、男の刃を弾く。

 体重を乗せた一歩。

 エルナが自ら鍛えたショートソードが、的確に男の手首を切る。


「ぐっ!」


「こんにゃろっ――!」


 二人目が回り込もうとするが、エルナの方が早い。


 ――男の足元から剣が、湧いてでたかのように薙いでくる。


「な、なんだ!?」

 防ぐ間もなく脛を切り裂かれる二人目


「ぐわっ!」


 残った一人は、完全に怯えていた。


「ちっ……覚えてろ!」


 三人は、足を切られた男をかばいながら森の奥に逃げていった。


 静寂が戻る。


---


 エルナは、すぐに少女の前に膝をついた。


「もう大丈夫。あの人たちはいません」


 少女は、しばらく呆然としていたが――

 次の瞬間。


 **ぎゅっ。**


 エルナの革鎧の縁を、両手で掴んだ。


 離れない。


 指が震え、必死にしがみついている。


「……あ……」


 胸の奥が、きゅっと締めつけられた。


「……こわかったんですよね」


 エルナは、そっと背中に手を回す。


「もう大丈夫です。私がいます」


 少女は声を出さずに泣いていた。


 その姿に、エルナの視界が滲む。


「……っ」


 ――守らなきゃ。


 理由なんて、なかった。


 ただ、このまま放っておけなかった。


「……名前、言えますか?」


 少女は、首を横に振る。


「……歳は?」


 また、首を横に。


「……覚えていることは?」


 沈黙。


 何も、ない。


「……そっか」


 エルナは、無理に聞くのをやめた。


「大丈夫です。思い出せなくても」


 少女の頭に、そっと手を置く。


「私の名前は、エルナです」


 その名を聞いても、少女の表情は変わらない。


 それでも。


 エルナの鎧を掴む手は、離れなかった。


---


 エルナは、少女の手を引いて立ち上がる。


「……一緒に、行きましょう」


 薬草採集。

 最初の依頼。


 本来なら、ひとりで向かうはずだった森。


 でも――


「一人増えても、同じです。……ねっ」


 エルナは、そう言って微笑んだ。


 少女は、不安そうな目で見上げながらも、

 小さく、頷いた。


 こうして――

 **名も記憶もない少女**と、

 小さなドワーフの冒険者は、森へと足を踏み入れた。


 それが、ただの偶然ではないことを。

 この時は、まだ誰も知らなかった。

お読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字ご指摘ください。

ご感想もいただければ嬉しいです。

ストーリーの提案に関しましては申し訳ありません。

お答えできかねますごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ