12 宿での新しい出会い
宿へ帰った二人を出迎えた主人。
エルナは《錆びた鈴》で教わった言葉を主人に告げた。
すると……。
宿に戻った二人を、主人が変わりない笑顔で迎える。
エルナは、少女の手を離さぬまま、切り出す。
「……聞きたいことがあるの。
"ラザル"を、知ってる?」
その瞬間だった。
ガルムの表情から……、
人の温度が、すっと消えた。
能面のような無表情な顔に変わった主人が、
機械仕掛けのように口を開く。
低く、短く。
「……こちらから言うわけにはいかないのでね」
「許されよ」
それだけ言うと、彼は一歩脇へ退くと。
まるで操り人形のように……、
ギクシャクとした動きで奥へ消えた。
――代わりに奥から、人影がひとつ。
足音も立てずに二人に歩み寄る。
獣人。
兎族の少女。
柔らかな灰色の毛並み、長い耳。
黒く見透かしそうな瞳を二人に向けている。
薄手のシャツにホットパンツに編み上げのブーツ
だがその立ち姿は、宿の空気そのものを明らかに変えていた。
「ごめんね」
兎族の少女は、にこりと笑う。
「一応、決まりなのよ」
「宿の主人には傀儡の術に掛かって頂いたわ」
「今頃は寝入って……、明日にはすべてわすれているわ」
そして、少女の前に膝を折り、目線を合わせた。
「アタシは"リリィ"。
エルナが留守の間、あなたのお世話をする係よ」
その声は、驚くほど穏やかだった。
「時にお嬢ちゃん。
……名前、まだ思い出せない?」
少女は一瞬だけ身をすくめたが、
その響きのよい声音に、少しずつ緊張が溶けていく。
ふるふる、と首を横に振る。
「あら、それじゃ不便よねぇ」
リリィは少し考える素振りをしてから、言った。
「"イオ"ではどうかしら?。
この地方の言葉で、"可憐"って意味なの」
少女は、ゆっくりと頷いた。
「決まり!!」
リリィは手を叩き、立ち上がる。
「じゃあ、あなたがこの子の保護者エルナね。
あなたの留守中、この子――イオは、アタシが預かるわ」
「……っ」
エルナの胸に、
納得できない感情が湧き上がる。
信用していいのか……?
いや、できない!
突然現れたこの少女に、
大事なこの子を簡単に任せられるはずがない。
「信用しないかぁ……、まぁ普通そうだけど……」
気づけば、
エルナの内側から、鋭いものが立ち上っていた。
愛用のショートソードに手がかかる。
――殺気。
その瞬間。
リリィの目が、僅かに細まる。
「……だめよ」
空気が、重く沈む。
「今のアンタのスピードじゃ、アタシには勝てない」
エルナは反射的に、掴みかけたショートソードを離す。
隙がない。
立ち姿、呼吸、重心。
すべてが、戦う前から完成し自分を上回っている。
間違いなくそこにいるのに……、
自分の剣はきっと届かない。
戦わずして……、思い知らされる敗北感。
エルナは、歯を噛みしめるしかなかった。
「まぁまぁまぁ……、そんなに尖がらないの」
リリィは、ふっと表情を緩める。
「大丈夫。
明日、ギルドマスターに、アタシの名前を出しなさい。
それで話は通るわ」
一拍。
「あなたが、この子を引き取って育てたいって話も……、
必ず、認めるはずよ」
その言葉に、
エルナは思わず、反射的にこくりと頷いていた。
「……独学にしちゃ筋は悪くない。むしろいいわね。あなた」
リリィは肩をすくめる。
「でも、今のままじゃ、勝てないし」
「守り切れないわ……、その子を」
納得は……、
できなかった。
だが――
"イオ"と仮の名を貰った少女は、
いつの間にかリリィの服の端を、ぎゅっと掴んでいた。
ちょっと宿で出会う人を変更しました。
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お答えできかねますごめんなさい。




