11 錆びた鈴
ギルドマスターから示された条件を満たす術を求め、エルナは宿の主人から教えられた店≪錆びた鈴≫へ向かいます。
果たして上手くいくのやら……。
「夜になったら市場の路地裏にある《錆びた鈴》だ。
カウンターの端に座れ。
向こうから声をかけてくる」
夜になった。
市場の路地裏。
《錆びた鈴》は、薄暗い闇に中にぼんやりと灯りが灯っていた。
煤けた壁。
擦り切れた床板。
カウンターの奥で、無口な店主がグラスを拭いている。
エルナは、宿の主人に言われた通り、
カウンターの端に腰を下ろした。
「……酒を」
やや強めのものを一杯。
少女には、果実水を。
少女は、椅子に浅く座り、周囲を警戒するようにきょろきょろと見回している。
革鎧の端を掴む手は、いつも通り、離れない。
探るような視線は、ある。
だが、誰も声をかけてこない。
この店では、それが普通なのだと、なんとなく分かった。
酒を一口。
喉を焼く感覚が、少しだけ頭を冷やす。
……時間が、過ぎる。
そのときだった。
「……その子」
隣から、低い声。
「誰からも、買われてないな」
エルナの手が、ぴたりと止まった。
ゆっくり、視線を横へ。
いつの間にいたのか。
くたびれた外套を羽織った男が、同じく酒を飲んでいた。
無精髭。
疲れた目。
だが――
立ち姿と、首の角度だけで分かる。
この男、できる。
「……何の話ですか」
エルナは、静かに返す。
男は、こちらを見ない。
「安心しろ」
グラスを傾けたまま、言った。
「買う気はない」
「守る気があるかどうかを、見てただけだ」
エルナは、無意識に少女を引き寄せた。
男の視線が、少女の手……。
固く握られた左手に向く。
ほんの一瞬。
「……なるほど」
何かを、確かめたような声。
「その手」
「開かない方がいい」
「……?」
問い返す前に、男は続けた。
「名は、グレイグ・ロウ」
ようやく、こちらを見る。
「この辺りじゃ《灰道の案内人》なんて呼ばれてる」
エルナは、喉を鳴らした。
「……何でも屋、ですか?」
「繋ぎ屋だ」
即答。
「何でもは、できない」
「できる奴に、繋ぐだけだ」
グレイは、酒を飲み干し、ぽつりと続ける。
「子供を守りたいと言う冒険者は多い」
「口ではな」
視線が、鋭くなる。
「だが――」
「冒険を捨ててでも守る覚悟がある奴は、少ない」
エルナの胸が、強く打たれた。
「……あんたは、どっちだ?」
一瞬、言葉に詰まる。
だが、少女の手の温もりが、答えをくれた。
「……まだ、わかりません」
正直に言った。
「でも」
「この子を、手放すつもりはありません」
グレイは、鼻で笑った。
「今の答え……、上出来だ」
立ち上がり、外套を羽織る。
「三日、あるんだろ」
背を向けて、言い残す。
「答えを出すには、十分だ」
「……明日の夜も、ここに来い」
扉に手をかけ、ふと止まる。
「それと」
振り返らずに。
「明日はもう、目立つな」
「鑑定士に特級品は……ほどほどになと言われたんだろう」
扉が、きい、と鳴って閉まった。
残されたのは、酒の匂いと、重い沈黙。
エルナは、深く息を吐いた。
見ていたかのようにすべてがバレている……。
調べられたのはわかるが、どうやって?
考えてわかる事じゃない。
「……行こう」
少女は、何も言わない。
ただ、
その右手は、相変わらずエルナの革鎧の端を掴んだままだった。
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