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【挿話】 旅立ちの日

旅立ちの日をプロローグにするかうんと迷ったのですが、冒険者ギルドからにしました。

書いていたもう一つのプロローグをここに載せておくことにします。

 ドワーフの国の朝は、だいたい音で始まる。

 目を開ける前から、外が騒がしいのがわかるからだ。


 市場通りから聞こえてくる怒鳴り声と笑い声。

 樽が転がる音に、値切り合戦の声。

 その奥では、工房に火が入る低い響きがいくつも重なっている。

 ふいごの音、炉が目を覚ます音、金属が赤くなる気配。


 ――ああ、今日もいつも通りだ。


 炭鉱夫のおじさんが、女房さんに昨日の深酒を叱られている。

 耳を引っ張られながら鉱区へ向かう姿を見て、子供たちが笑っていた。

 木剣を振り回して「冒険者だぞー!」なんて叫びながら走り回っている。


 そんな、何一つ変わらない朝の中で。

 私のいる工房だけが、静まり返っていた。


 炉には火が入っていない。

 金床も、槌も、昨日から一度も動いていない。

 ――昨日、養父の埋葬を終えたから。


 私は、深く息を吸ってから、装備を確かめた。


 腰に差したのは、自分で鍛えたショートソード。

 初めて養父に褒めてもらえた、大切な一本だ。

 革鎧は、あの人が使っていた革のエプロンを切って、縫って、鎧にしたもの。

 小さな盾は、工房の隅にあった頑丈な椅子を削って作った。


 全部、あの人がいた証。


 最後に、左手の指輪を見る。

 ミスリル製で、見たことのない文様が刻まれている。

 ドワーフの技術じゃ、こんなの作れないって、養父は言っていた。


「……お父さん」


 答えは返ってこない。

 でも、指輪の冷たさだけは、確かにそこにあった。


 腰に、皮袋を巻き付ける。

 養父の仲間たちが持たせてくれた、餞別のお金。

 ずしりとした重みが、旅立つんだってことを嫌でも思い出させる。

 背中に背負ったリュックには自分愛用の槌と金床が入っている。


 装備は、全部整った。


 私は、工房の入り口で立ち止まって、振り返った。

 静かな炉。

 使い込まれた道具たち。

 もう二度と、ここで朝を迎えることはない。


 ちょっとだけ、胸がきゅんと苦しくなったけど。

 それでも、笑って言うことにした。


「……いってくるね」


 無人の工房に向かって、そう声をかける。

 返事はない。

 でも、それでいい。


 扉を開けると、外はもう完全な朝だった。

 市場の喧騒が、何事もなかったみたいに私を包み込む。


 ドワーフの国は、今日も変わらず動いている。

 変わったのは、たぶん――私だけだ。


 実父の名前を知るために。

 どこにいるのかを確かめるために。

 私は、この国を出る。


 エルナ・グラウシュミット。

 元冒険者だった鍛冶職人の娘で、

 まだまだ未熟な自己流剣技の戦士で、

 齢30になっても恋愛経験はゼロ。

 でも、旅立つ覚悟だけはある。


 だから、前を向いて歩いて行こう。

 ゴールはいつになるかわからないけれど……。

お読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字ご指摘ください。

ご感想もいただければ嬉しいです。

ストーリーの提案に関しましては申し訳ありません。

お答えできかねますごめんなさい。

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