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寝台から始まる女騎士達の大陸平定紀  作者: 霧元貴道
ソトス子爵領マーラン防衛戦
35/37

決起会

周辺図

挿絵(By みてみん)

南部地図

挿絵(By みてみん)




翌朝早く、町の広場に設置した仮設天幕の周辺は昨日以上の慌ただしさと緊張感に包まれていた。

町の市民やうちの騎兵隊だけではなく子爵様の私兵団の一部も到着していて、それぞれがせわしなく行き交ってはなにがしかの作業に取り掛かっている。


アタシは、ミーアとジーマ、子爵様とそしてデラックと共に天幕の中でテーブルの上に広げられた絵図を囲んでいた。


「街道を封鎖する防御柵は、そろそろ完成間近とみています。残りの時間は補強の徹底に当てられましょう」

「それは良かった。敵を引き込めば一番圧が掛かる場所でしょう、最後の最後まで補強があれば安心です」


子爵様の言葉にアタシはそう応じ、やり取りを聞いていたミーアが絵図に情報を書き込む。

それが終わるのを待ってから、アタシはデラックに視線を移した。


「デラック殿。路地の方はどのような状況だろうか?」

「はっ。北東地区の十番から二十五番までの経路はおおむね問題ないと思います。南東地区の三番から九番までの経路に関しては、作業がやや遅れている状況です」


デラックは覚え書きでもしてあるんだろう皮紙に視線を落としつつ、そう報告してくれる。

遅れてる、か…南東地区は広めの経路が多い。

その分、塞ぐのに時間が掛かっているんだろう。


「二十六番から三十番までの経路はいかがですか?」

「そちらは完成しております。と言っても、そちらは簡易なもので良いとのことでしたので、どれほどの効果があるか…」


ジーマの問いに、デラックが不安そうに応じる。

それを聞いたミーアがさらに絵図に情報を書き込んだ。


「南北の経路に関しては、ある程度捨てる他にない…ただ、南北に関しては子爵様の私兵団で抑えられるから、市民兵よりは練度がある。多少足止めできれば有利には立ち回れるはずだ」


こればかりは気休めだ。

この町は、防御壁なんてものがない。

町へ入る街道のところに入り口はあるけど、そこを通らなきゃ町の中に入れないってわけじゃない。

その気になれば、町の周囲のどこからだって町に入り込むことができる。

正直に言って、守りづらい。

防御態勢を取るにあたっては東側からの侵入には入念な対策と準備をしたけど、それ以外についてはおざなりだ。

例えば敵が部隊を半分に分けて一方を足止めのために東側から侵入させて、残りを北か南から侵入させるなんて手段を取られると、かなり厳しい展開になる。

これについては、そうならないように準備はしているけど…うまくいくよう祈るしかない、ってのが本当のところだ。


「ジーマ、各班の準備状況は?」

「はっ、現在隊員達が各班に散って市民兵に戦闘要旨の共有を図っています。個人的な所感ですが、市民兵は皆が協力的ですしサラテニア軍への戦意も高い印象です」

「分かった。戦意が高いのは良いことだが、あまり煽りすぎないよう注意を出してくれ。持ち場を守り、状況によってはその場を捨て次の持ち場に移動することが重要だ。あまり戦意が高すぎると無為な犠牲者が出るし、前に突出するようなことになれば逆撃を貰いかねない」

「承知しました、徹底させます」


ジーマが頼もしく応じてくれたので、アタシは彼に頷いて返した。


昨晩、ジーマが天幕に来てから簡単に状況を説明し、さらにそのあとに子爵様とデラックに声を掛け、今回の作戦の詳細を詰めた。

子爵様とデラックに話を聞きつつ、仮にサラテニア軍が町の東側から攻め寄せた場合、こちらの本陣を置くこの広場へ至る可能性がある道筋を一番から三十番までに限定した。

その他の不要な経路は廃材など徹底的に塞ぎ、敵の進路を狭めれば待ち伏せも容易になる。

その経路のうち、一番から二十五番までに騎馬隊と子爵様の私兵団員を指揮官とした市民兵の班を配置し、奇襲を掛けて敵兵を削るという計画だ。

ちなみに、進路上にも足止め程度の障害を準備しているが、その辺りは各班の裁量に任せている。


「ミーア、そっちの班はどうだ?」


最後に、アタシは絵図に情報を書き込むミーアに声を掛けた。

ミーアは落ち着いた様子で


「はっ。各班とも、意欲は高いと思いますし、よくまとまってくれております。現在は各経路への移動手段の確保を終え、攻撃用物資の調達と配置を進めているところです」


と報告する。


ミーアの配下に任せた市民兵は、屋根の上を移動しつつ要請があった箇所で各班を援護することが目的だ。

移動しやすくするために進めていた足場の設置は、どうやらすでに終わってるようだ。

攻撃用の物資とは投石用の石や先を尖らせた木材、弩弓用の矢なんかで、それを町中の屋根の上に配置しておく計画らしい。

確かに、投石用の石を大量に抱えて屋根の上を移動する、なんてちょっとキツイもんな。

あっちこっちに準備しておいて、近場から持ち出すっていう方が安全だし素早い移動ができるだろう。

それとは別に、各所の状況を逐一この天幕に報告する人員も確保している。

“夜鷹”の一人を班長として、非戦闘員の市民で構成した班だ。

町中で戦うとなると、野戦と違って状況が把握しづらいからな。

最初は気づかなかったけど、ミーアが進言してくれたんで急いででっちあげた。

そっちも問題ないようだ。


障害物や足場の設置は、うちの工兵達が中心に町の職人連中も手を貸してくれたおかげ想定してたよりも順調そうだ。

遅れているところには、作業が終わった班に手伝いに向かわせればなんとかなるだろう。


事前に計画した内容は、こんなところか…

あとはサラテニアがどう動くかの情報が入ってくれば、できる限りのことは整うかな。


「バイルエイン様。遅ればせながら、我が私兵団の騎兵隊百が物資を牽いて参っております」


すべての情報が出そろったとみるや、子爵様がそう追加で報告をしてくださった。

後発の騎兵隊か。

徒歩での移動を強いられる歩兵隊を先行させ、足の速い騎兵隊を後発にして糧食や武具なんかを輸送する部隊と一緒に町へ来るよう指示を出されていたとは聞いていた。

間に合うかどうか、という話だったけど、それが到着してたらしい。


「おぉ、それは頼もしい。これで子爵様の兵は六百になりますか」

「ええ。騎兵隊には本陣の守りを任せ、本陣の守りを任せていた部隊は南北の守りに投入しようと思うのですが」

「なるほど、それは良い思案かと存じます」


今朝早く子爵様の私兵団が五百程、町へとやってきていた。

構成としてはほとんどが軽歩兵で、弩弓兵もいくらかいる。

遅れて到着した騎兵は町中では活躍するような場面はないだろうが、戦闘に慣れた兵が少しでも増えるというのはありがたい。


私兵団の配置や戦闘指揮は子爵様の領分だ。

アタシが受け持つのは、うちの隊員が率いる市民兵と“夜鷹”がまとめる支援班だけになる。

アタシの声が届きやすいよう、デラックの部下であるタレルを副官に付けてもらった。

市民を任せてくれてるわけだし、子爵様にはそれなりに信用して頂けたんだろう。

元々敵対的な立場を取っていられた感じでもないけど、最初の対応は慎重だったし警戒感はあったと思う。

それをうまく解きほぐすことができたのは、何よりだった。


「これで、万が一にもサラテニアが攻め寄せたとしても対処できる…そう思いたいものです」


不意に、デラックがポツリとそう漏らした。

不安なのは仕方ない。

なんたって、サラテニア軍は三千、この町の市民は二千ちょっとだ。

その上、戦闘員となれば千人にも満たない。

そこに子爵様の私兵団を加えたところで一千五百。

倍の軍勢を相手にしようって言うんだからな。


「不安か、デラック?」


アタシがそう聞いてみると、彼は少し言いにくそうにしながらもややあって頷き


「はっ…正直に申せば、かなり」


と声を抑えつつ白状した。

その言葉を聞いて、子爵様もミーアも、曇った表情を浮かべる。

唯一ジーマだけは、それほど緊張も不安も感じていないように見えた。


「デラックの気持ちは分かる。だけど、安心して良い。戦いになっても勝てるだけの手当てはした。問題はこちらの被害をどれだけ抑えられるかという部分だな。それに関しては各隊と各班に頑張ってもらわねばならないところだ。士気を高く保ちつつ、しかし冷静に立ち回るよう、繰り返し皆に伝えて行こう」


勝てるだけでの手当て、なんてのは方便だ。

アタシにだってこれが正解なのか、まだ分かってない。

けどそう言っておけば安心してもらえるだろうし、なにより大事なのはアタシ達の動揺や不安を私兵団や市民兵に見せないことだ。

勝てるから安心するな、焦るな、って声を末端にまで届かせることができていれば、そうそう崩れることはない…と思う。


アタシの言葉を聞いたデラックは、ゴクリ、と喉を鳴らして表情を引き締めた。

それからわずかに礼を取ると


「はっ。懸命に勤めます」


と力強さを取り戻した声色で言ってくれる。

それを聞いた子爵様とミーアも、静かに頷いていた。




*   *   *




町の中央広場の西の隅っこに、バイルエイン家の家章が入った天幕がいくつか立っている。

30名の騎馬隊と、工兵達が休憩するための天幕だ。

子爵様たちとの打ち合わせのあと、アタシはミーアと一緒にそこに詰めて、市民兵との打ち合わせをしている騎馬隊員達が戻ってくるのを待っていた。


すでに、十数名は天幕は集まっている。

割と早くに戻ってきた連中は、自分の班の掌握に問題はなさそうだと報告してくれている。

まだ戻っていないのは、あと半分くらい。

時間が掛かってる理由が良い内容ならいいんだけど、揉めたりなんかしていないよな…?

そんなことを思っていたら、また一人隊員が天幕に戻ってきた。


「ティアニーダ様、ただいま戻りました!」


レードラーという、比較的歴の長い隊員だ。


「あぁ、良く戻った、レードラー。市民兵の様子はどうだ?うまく従えられそうか?」


そう聞いてみると、彼は落ち着いた様子で頷いた。


「はい、ご配慮、ありがとうございます。自分の班は問題ないかと思います。士気も高いですし、私兵団上がりの市民が数名居て、まとめ役を買って出てくれています」

「そうか、良かった。何か困ることがあればすぐに知らせてくれ。できる限り対応する」

「ありがとうございます。では、なにかありましたらご相談させていただきます」


アタシの言葉に、レードラーはホッとした様子でそう応じた。

それに頷いて返し、それから


「酒と糧食を用意してある。皆と一緒に、少し休んでくれ」


と天幕の奥で既に夕食を始めていた隊員達の方に頭を振りながら伝える。

レードラーはもう一度、アタシに感謝を述べてから足早にそっちへと向かって行った。

あいつも大丈夫そうだな…良かった。


明日、市民兵を指揮する30名の騎馬隊員達の中に、士官は一人だっていない。

彼らは役職のない一騎馬兵に過ぎないんだ。

まだ10代の若い隊員だっている。


もちろん、騎馬兵は歩兵とは違って優秀な部類に入るのは間違いない。

馬なんて高級品を使うんだ、下手なヤツには任せられない。

だから騎馬兵である彼らはみんな、我が家の兵の中では上澄みの方ではある。

だからといって、いきなり小規模部隊の指揮を執れ、なんてことを命令するのは正直ちょっと無茶だ。

それも正規兵じゃない市民兵だ。

それも他国、他領の市民を従えなきゃいけない。


うまくこなせればそれに越したことはない。

でも、うまく行かない場合の方が多いんじゃないかって、そう思ってた。


ソワソワしながらお茶をすすっていると、またいくつかの足音が天幕に近づいてくる気配があった。

ハッとして顔をあげると、騎兵が二人、天幕の入り口の幕をくぐって中に入ってくる。


「戻ったか」

「これは、ティアニーダ様」

「こちらにいらしておいででしたか」


アタシが声を掛けると、二人はそう言って礼を取る。

一人は、赤い髪をしたニッケ。

もう一人は茶色の髪を短く切りそろえたヒラルカだ。

ニッケは私兵団に入ってもう5年くらいだったはず。

ヒラルカは騎兵隊の中では最年少で、十七か、十八歳だ。

ノイマールがオルターニアに侵攻してきた部隊には加わっていたから初陣ではないはずだし、それ以前にも国境付近の警戒活動なんかにも出ていたはずだけど、経験が十分とは言えないと思う。

しかし、その表情に不安の色は見えなかった。


アタシは礼を返しつつ


「どうな様子だった?大丈夫そうか?」


と確認する。


「はっ、問題ないかと思います」


先に返事をしたのはニッケだ。


「市民兵は士気も高く、こちらが提示した作戦を概ね理解しています。万が一の後退の判断は自分がすることになりましょうが、戦闘に関してはある程度大丈夫なのではないかと思います」

「そうか…無理に前方で耐えようとするな。なるべく引き付けて、後退の判断は早めに行ってくれ。路地に深く引き込んだ分だけ敵の圧力を削ぐことができるはずだ」

「はっ、承知しました」


ニッケはそう言って頷く。

ヒラルカの方に視線を向けた。


「ヒラルカ、そちらはどうか?お前の力を疑うわけではないが、まだ若いからな…市民兵が従わないということはなかったか?」

「はい、こちらも問題ありません。むしろ、皆好意的でした。班の中に鍛冶屋の職人が居るのですが…その職人の次男が子爵様の兵の様で、『息子もこれくらい立派になってほしいもんだ』と言ってもらいました」


ヒラルカは、なんとも屈託のない笑顔で嬉しそうにそう報告してくる。

なんというか、その様子になんだかホッとした。


「そうか…それならば、良かった。指揮に関しての不安はないか?」

「おそらく、なんとかなるのではないかと…ティアニーダ様が我らの役目を明確にしてくださいましたので、落ち着いてそれをこなすだけだと考えています」

「分かった…報告ご苦労。二人とも、少し休め」

「はっ」

「ありがとうございます」


アタシがそう言ってやると、二人は再び礼を取った。

アタシがそれに答礼し、手を下ろすと会釈をして天幕の奥のテーブルの方へと進んでいった。

そんな二人の背中を見送っていたら、不意に傍に気配を感じる。


見れば、ミーアがアタシに寄り添うようにして立っていた。


「みんな、頼もしいね」

「ホントにな…アタシは運が良いのかもしれない」

「ふふふっ…運が良いっていうより、普段の行いが良いのかも?」

「…あぁ、そうだったのかもな」


その辺りはまだ、いまいち実感がない。

ただ、その部分がアタシの力、ってやつなんだと思う。


「ティア、全員が揃ったら、最終確認と訓示をするんだよね?」

「うん、あぁ、そのつもりだけど」

「それが終わったらでいいんだけど、うちの方にも一言お言葉を賜れませんか?」


“夜鷹”達にも、か。

そうだな、それも当然必要だろう。


「あぁ、もちろん。準備が整ったら声を掛けてくれ」

「ありがたく存じます、ティアニーダ様」


アタシが答えると、ミーアはそう言って恭しく礼を取り、すぐに姿勢を直して悪戯っぽい笑みを浮かべる。

ミーアには、アタシの緊張と不安が分かるんだろう。

お道化て解そうとしてくれてるらしい。

本当にアタシは、運が良いよ。


それからしばらくして、隊員達が天幕に揃った。

皆は用意しておいたワインを控え目に飲みながら、和やかな様子で談笑している。

緊張した様子はない。

むしろ、アタシの方が不安と緊張でいっぱいになっているくらいだ。

そんなアタシの背を、ミーアがポンポン、と叩いてくれる。

その様子を見たジーマが、アタシに目配せをしてきた。

アタシはふぅ、と大きく息を吐いて、ジーマに頷いて返す。

それを受けたジーマもコクリと頷き、そして


「皆、注目してくれ!」


と声を張った。

隊員達の視線がジーマに集まる。


「これより、ティアニーダ様からの訓示がある!傾注せよ!」


そう呼ばわると、隊員全員がワインの入った木製ジョッキをテーブルに置いて姿勢を正した。

ジーマがアタシに、一歩前に出るように促してくる。

それに応じてアタシは前に出て、それから自分の分のジョッキを手に取り軽く掲げた。


「皆、飲みながら聞いてくれて構わないぞ!そんなにたいそうな話をするつもりはない!」


アタシがそう宣言すると、隊員達から軽い笑い声が漏れた。

アタシはそれに笑顔を返しつつ口を開く。


「皆、聞いてくれ!まず、準備について、ご苦労だった!そして、本来のノイマール打倒という本来の目的とは異なる戦闘に直面させなければならなくなったことを謝罪する、この通りだ」


まず、そう伝えて礼を取る。

隊員達の反応は薄い。

戸惑わせてしまうことは、承知の上だ。

でも、まずはそのことを伝えたかった。

アタシは頭を上げて続ける。


「だが、このままサラテニア軍を放置しては背後を追われ続けることになる!ここで叩けば、後方の安全は確保できるだろう!我々三十余名で、先行する二千の部隊、そしてゴルダ領に居るノイマールの友軍を守ることができるのだ!」


おぉっ!っと隊員達から声があがった。

アタシは彼らに頷く。


「そのために、皆には苦労を強いることになる。皆は明日、それぞれが市民兵を率いて戦うことになるだろう…一兵卒の皆が、だ。だが、もしこの戦いで生き残ることができれば、皆は三十人以上の兵の指揮を執ることができるという証明にもなる!戦いが終わった暁には、皆を十人隊隊長に引き立てるよう、伯爵様に上伸しよう!」


「おぉっ!」

「出世だ、出世!」


隊員達から、再び歓声が上がった。

皆が十人隊長になりたいかどうかは分からない。

でも、大事なことだ。

ちなみにジーマは十人隊長、子爵様をこの町に連れて来てくれたグレンは百人隊長を務めている。

二人には今回、アタシの傍で副官を頼んだ。

万が一、細かい用兵が必要な場面になったときのことを考えると、助言してくれそうな者を傍に置いておきたかったからだ。


「だが、今言った通り、生き残ることができれば、だ!出世したくば…いや、したくなくとも、絶対に死ぬな!」


アタシの言葉に、隊員達の歓声がやんだ。

それは、アタシの心からの願いだ。

ちょっと、真に迫りすぎたかもしれないけど…それでも、伝えておきたかった。


「死なれては困る…何しろ皆が率いるのは市民兵だ!兵役ではないから、次点の指揮官なぞいない!皆が死傷すれば、その班は間違いなく壊滅するだろう!」

「我々のことを思ってではなのですか!?」


アタシの言葉にそう野次を飛ばしてきたのはジーマだ。

この辺りの呼吸は、直接の配下だからだろうな。

正直に言って、助かる。


ジーマの野次を聞いて、隊員達が笑い出した。


「もちろん、皆のことだって心配だ!ジーマに言われたからでも、後付けでもないぞ!本当だぞ!?」


わざとらしくそう言うと、隊員達がさらに大きな笑い声をあげる。


「もちろん、皆の気持ちも理解しているつもりだ!慣れない指揮など任されたうえに、全体の指揮を執るのはこのアタシだ!皆、アタシがどう呼ばれているか、聞いたことがあるだろう!」


「猪騎士!」

「突撃姫!」

「剛剣令嬢!」


ジーマの野次に続いて、比較的歴の長い隊員達がアタシを野次る。

ミーアはちょっとふてくされたような表情を見せたけど、まぁ、気にするようなことじゃない。


「そうだ!突撃しか能のない、このティアニーダ・バイルエインだ!だが、安心して欲しい!今回の作戦は、父、ジリアン・バイルエイン伯爵がモガルアの騎馬隊を撃退した際の作戦だ!サラテニアの弱卒歩兵など、瞬く間に磨り潰せるだろう!」


おぉっ!と、再び隊員達が声をあげた。

アタシは彼らに、できるだけ楽しそうな顔を作って頷き返す。


「だが、油断はするな!皆の目的は、できるだけ敵を経路に引き込むことだ!何人かには伝えたが、深くまで引き込めるほどに敵の圧力を削ぎやすくなる!とはいえ、引きすぎて最後の障壁だけで戦うようなことになってもまずいからな!気を付けろ!」

「我らはそれほど間抜けではありませんぞ!」


今度の野次は、隊員達からあがった。

今のは、ニッケだろうか?


「要らん世話だったかな、ニッケ?」

「はっ!必ずや生きて勝ち、出世してご覧に入れましょう!」


ニッケの応えに、隊員達がまた沸き上がった。

アタシも声をあげて笑い、彼らに頷いて見せた。


「頼もしいぞ、その意気だ!サラテニア軍は明日には町へ到達するだろう!どう出てくるかは分からないが、必ず戦闘になるだろう!そのことを心に止めておいてくれ!」

「はっ!」

「用意した酒と糧食はすべて皆への付け届けだ、今夜は英気を養い、明日に備えてくれ!」

「おぉぉっ!!」


アタシの言葉に、皆がそう応えてくれる。

それを聞いて、アタシはジョッキを高く掲げた。


「明日の勝利に!」

「「「明日の勝利に!」」」


アタシの声に、皆が声を合わせてそう叫び、ジョッキを打ち合わせ始めた。

アタシはそんな様子を見てホッと胸を撫でおろす。

傍に控えていたミーアとジーマにチラっと視線を向けると、二人もアタシを見て満足そうにしてくれていた。


「どうだったかな?」

「皆、励まされたと思います」


アタシが聞いたら、ジーマがそう答えてくれる。

そんなアタシの前にスイっと出てきたミーアが、


「名演、ってほどじゃなかったけどね」


と笑った。

そんなミーアの肩をポンポンと叩いて


「慣れてないんだ、及第点なら文句ないだろ?」


と言ってみせると、ミーアはクスクスっと肩を震わせて笑った。


「うちの部下達のときにも、しっかりお願いね」

「分かってるさ」


ミーアの依頼にそう応えつつ、ワインのジョッキを煽る。

あんまり上等な代物じゃないはずだけど、どうしてか美味かった。





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