ソトス子爵
「って感じだな」
そこまで話し終えると、ミーアははぁ、と大きく息を吐いた。
呆れているって感じじゃない。
感嘆しているのともちょっと違う。
あっけに取られてる、って感じが一番近いかもしれない。
ちょっと話が長すぎたかな、お茶がすっかりぬるくなってしまっている。
「ミーア、お茶、入れ直そうか?」
「えっ…?あ…あぁ、ううん、大丈夫」
アタシの声掛けにハッとした様子を見せた彼女は、握っていたマグのお茶を一気にあおって、改めてホウっと息を吐いた。
「…伯爵様とそんな話をしてたなんて、ちょっと想像してなかったよ」
「アタシも、あんな話になるとは思わなかったさ。多少は労ってくれたりとか、慰めてくれるのかなとは思ってたけど」
「でも、納得できるところは多いかな…全部ってわけじゃないけど」
「まあ、まだ半分だからな」
ミーアの言葉に、アタシは苦笑いを浮かべる他になかった。
親父殿に指摘されたアタシの才ってやつの話は、ずっとアタシのことを身近で助けてくれたミーアには比較的飲み込みやすい内容だったと思う。
もう一方の方は、なんていうか、アタシも感覚的にした理解できてないからミーアに分かってもらえるか、少し心配だ。
「伯爵様はすでに進軍を開始してるってことなのよね?」
「あぁ、うん、その予定になってる。親父殿経由で、北部戦線で敵を引き付けてた部隊にもノイマールの防衛戦力に圧を掛けるように頼んである。もし北部戦線が突破できれば、さらに王都の敵の数を引き抜けるはずだ…突破できれば、な」
「そうだね、北部戦線はあまり攻勢に向いた陣容でもないし、兵力的に無理はしないような気はするかな」
ミーアは宙を見据えつつ、呟くようにそう同意した。
それからアタシに視線を戻すと
「それで、ゴルダ領救援と王都への出撃にはどれくらいの日数を掛けるつもりなの?」
と聞いてくる。
親父殿と情報の連携なしに作戦を進めるとなれば、当然その辺りが気になるだろうな。
さすがはミーアだと思った。
「ゴルダ領の救援に二日、その後、王都への出撃準備に三日、王都まで二日掛ける予定だ。もしゴルダ領で大きい被害を受けて王都への北進が難しい場合には、すぐに親父殿へ伝令を出す。多少危険はあるけど北回りでハズラン伯爵領に向かわせれば、接敵を避けながらでも五日以内には到着できる想定をしてる」
「ゴルダ救援から王都まで五日か…そんなに時間を掛けると、ゴルダに攻めてきている王政支持派の貴族軍から王都に伝令が届いちゃう可能性があるんじゃない?」
「そうなんだよ、だからそうならないように貴族軍は封殺しなきゃならない。ただそればっかりは、現地の状況を詳細に把握しないとどう攻めるか検討しづらくってな…」
アタシはそう答えつつミーアの目をじっと見て
「現地に近づいたら、敵情を細かく仕入れるために“夜鷹”達に働いてもらうことになると思う」
と伝える。
すると彼女は、アタシの目を見つめ返して頷き
「重要な任務ね。大丈夫、任せて」
と胸甲を拳でコツンと叩いてみせた。
「頼りにしてる。その情報をもとに、アレクとバーナットに策を練ってもらえれば、何とかできると思ってるんだ」
「そうだね…バーナット殿は屋敷のローエン殿と違って柔軟だし、アレクに関しては言わずもがなだしね」
「…ローエン、そんなに嫌いか?」
「私は何とも思ってないよ?あの人が私達“夜鷹”を一方的に嫌ってるだけ」
アタシの言葉に、ミーアはそう言ってツンとした態度を見せた。
しょうがないところではあるんだけどな…ローエンは実直でちょっと堅物なところがある。
良い意味でも悪い意味でも、立派な騎士であり武人だ。
堂々と兵役をこなすんじゃなく、陰で暗躍するような働きをする“夜鷹”を好まないんだろう。
主家の人間としては穏便にしてほしいもんだけど…
「それはさておき…」
そんなことを考えていたら、ミーアがそう言って話題を変える。
彼女はアタシがテーブルに広げた描き掛けのこの町の絵図を指さして
「これ、何に使うつもりなの?」
と聞いてきた。
あぁ、そうだった。
ひとまず、これに関しては協力してもらう必要があるな…ただ、その前に、その前段から話す必要があるだろう。
「うん、そうだったな。説明する…って言っても、これに関してはそんなに難しい話じゃないんだ」
ちょっと、突拍子もないとは思うけど、という言葉をアタシは飲み込んで、話を続ける。
「ここに来る前に、工兵隊と“夜鷹”に頼んだことがあったろう?」
「あぁ、うん。サラテニア軍が追尾してきたときのための妨害工作だね?」
「うん、そうだ」
ノーフォート領とソトス領の境目辺りには、今進んでる街道の名前の由来になったらしいサルダー川という少し流れの速い川があった。
ファスター領で声を掛けた工兵達と検討して、川の上流に関を作ることも命じた。
それに加えて、アタシ達が通過した直後にその橋を落とすように指示を出してある。
もしサラテニア軍がこちらを追跡してきて、ソトス領との境に迫ろうと渡河を始めるようなことになったら関を切る段取りになっていた。
「サラテニアの追撃が来て渡河を始めたら関を切る予定だけど、それであまり損害を与えられない可能性もある。で、そのままソトス領への進軍を続けてきたとしたら…」
「まさか…サラテニアがここまで追撃してくると思ってるの?」
「どうなるかは分からないだろう?ノーフォートを出てソトス領まで越境してくることは想定しておくべきだ」
「でも…ファスター領で話し合った時には無視してとにかく前進しよう、って…」
「もちろんそうだ。ゴルダ救援と王都侵攻のために部隊に損害を出すわけには行かない。だから、先に行かせた」
アタシがそこまで言うと、ミーアはハッとした様子でテーブルの上に置いた絵図に視線を落とし、そして表情を強張らせながらアタシを見た。
「あなた、まさか…ここに残ったのって…」
「あぁ、そうだ。これは当初の計画にはないし、追撃がなさそうなら引き上げるさ。でも、もしサラテニアが領境を超えてこっちを追跡してくるんなら、この町で撃破するのが一番だと思った」
「…市民を兵として使うつもりなんだね…?」
「使うって言うのは聞こえが悪いけど、そういうことだ。まぁ、あくまでも万が一の備えだ。サラテニアが南部四領を超えてまでこっちを追撃してくる理由はないと思うし、ノイマールを支援するための兵を送れるような状況にもないと思う。この期に及んでノイマール領を掠め取ろうとするとも思えないけど…」
それでも先日の情報では、サラテニアは再軍備を急いでいるという報告があったのが気になっていた。
あの日ソランが言ったように、すぐに代わりの指揮官が立っている可能性は捨てきれない。
根拠は乏しいけど、備えておいた方が良い。
そんな気がしてた。
「そのために、町をどう守るかを考えておいた方が良いと思ってな」
「…万が一のために、よね?」
「ちょっとな、イヤな感じがしてさ。まぁでも、最悪の中でも一番最悪の事態に備えるくらいの心持ちだな」
アタシの言葉を聞いたミーアは、大きく溜息を吐いて額を抑えた。
「要するに“勘”ってことでしょ?」
「まぁ、うん、そう言われたら、そうかもな」
「…ティアの勘ほど怖いものはないよ」
ミーアはそう言って、ジトリとアタシに視線を送ってくる。
アタシの勘が怖いって…どういうことだろう?
「…どういう意味だよ?」
「そのまんまの意味よ」
ミーアにそう言われてアタシはちょっと戸惑ってしまう。
確かにアタシは感覚的にものを言うことが多いけど、それって怖がられるようなことなんだろうか?
良くわからないな…無責任なこと言うな、とかそう言うことでもないよな…?
そんなことを考えていたら、ミーアがふと思い出したように表情を変えて
「そう言えば」
と声をあげる。
ひとまず、勘の話は置いておくとするか。
「どうした?」
「最初から南部四領のサラテニアは無視して前進するつもりだった、って言ってたよね?」
「あぁ、うん、そうだけど…?」
アタシが応じると、ミーアは小首をかしげながら聞いてきた。
「それなら、どうしてアレクにノーフォート領都の奪回をしなくていいのかって、念押ししてまで聞いてたの?」
あぁ、そうか、そうだろうな。
確かに矛盾してる。
最初の任の話だけなら、な。
アタシはミーアに頷いて返し、
「それは、親父殿から任されたもう一つの方に関係してるんだ」
と応じる。
ミーアはそのまま無言でアタシを見つめて、先を促してきた。
そうだな、こっちもミーアには話しておこう。
その方が、いろいろと調整しやすいだろうしな…
そう思って口を開きかけたとき、天幕の外がにわかに騒がしくなった。
何事かと思う前に、天幕の中に騎馬隊員が駆け込んでくる。
「ご報告です!町の北方に騎馬隊と思しき集団を発見!数は二十程とのこと!」
おそらく、周辺を警戒している“夜鷹”からの報だろう。
アタシはミーアと目と目を合わせて、どちらからともなく立ち上がった。
* * *
町の北側から、騎馬の集団が広場の方に向かってくるのが見える。
急いではいるようだが、それほど殺気立っているような気配はなかった。
報告があった当初は騎馬隊員たちも“夜鷹”達も警戒した雰囲気だったけど、騎馬隊の先頭に使者に出した騎馬隊の士官グレンと二名の傍付き役がいることが分かると、それもほんのちょっとだけ緩んだ。
そうはいっても、アタシの周囲はミーアと騎馬隊員、“夜鷹”達が固めてくれていて、それぞれ剣の留め紐を解いているような状況ではあるんだけど。
町に入ってきた騎馬集団はゆっくりとその速度を緩めて顔が見えるくらいの距離になると足を止めた。
グレンが下馬して、アタシの方へと駆け寄ってくる。
「ティアニーダ様、このようなところにいらっしゃるとは」
グレンは息を切らせつつも、かしこまった様子でそう声を掛けてきた。
「うん、ちょっといろいろあってな。それで首尾は?」
「はっ、幸い、子爵様に直接お目通りが叶い通行の許可を願い出ましたところ、子爵様が直々にお話されたいと仰いまして、ご案内してきたところにございます」
「そうだったか、良くやってくれた。子爵様にご紹介してもらえるか?」
「はっ!」
そう応じたグレンは、再び騎馬集団の方に駆けていき、その中にいた三十代くらいの男に何かを伝えだす。
するとその男は即座に下馬し、数人を引き連れてグレンのあとに着き、アタシの方へと歩いてきた。
「ティアニーダ様、こちら、ソトス領御領主、グレドール・ソトス子爵様にございます。子爵様、こちらが我が隊の指揮官、オルターニア王家バイルエイン伯爵家のティアニーダ・バイルエインにございます」
グレンがそう互いを紹介してくれる。
「初めてお目にかかります、子爵様。ティアニーダと申します。この度はこのような騒ぎを起こしてしまい、大変申し訳ございません」
「お会いできて光栄です、バイルエイン様。この辺りを治めております、グレドール・ソトスです。詳しい事情をお聞かせいただきたく参上仕りました」
アタシの礼と謝罪に、子爵様はひとまず丁寧に応じてくれた。
そこに、デラックか小走りで駆け寄ってくる。
「子爵様、バイルエイン様。屋敷に会議場の準備を整えております」
「マーランか、ご苦労。バイルエイン様、どうぞお越しくださいませ」
子爵様はそう言って、屋敷があるだろう方へと手を掲げた。
さすがに、これを固辞するわけにはいかないだろう。
「ご配慮、ありがたく」
アタシはそう礼を取ってから、
「グレン、付き添わせた隊員と体を休めてくれ」
とグレンに声を掛けておく。
「は、感謝いたします」
「ミーア、誰か一人見繕って、状況の説明と対応を伝えて欲しい」
「はい、承知しました」
アタシの指示にミーアはそう応じ、すぐにそばに居た“夜鷹”の一人に何かを耳打ちしてグレン達を天幕の方へと連れだした。
それを確かめてから子爵様に視線を戻し
「お時間頂きました。お願いいたします」
と礼を取る。
子爵様は頷き、アタシ達を先導して歩き出した。
デラックの屋敷は、広場のほんの目と鼻の先にあった。
石造りの二階建てで、騎士の屋敷にしては少し大きい。
中に通されてすぐのところにはホールがあり、使用人達がいそいそと動き回る姿があった。
使用人以外にも政務官らしい者達や、市民の姿まである。
どうやら、ここはデラックの私邸というだけじゃなく、町の庁舎でもあるらしかった。
「こちらです」
そう言ったデラックに案内されたのは、そんな建物の二階にあった一室だった。
ちょうど、ヒルダナ男爵のところの貿易都市ダレンにあった会議室のような部屋だ。
デラックの勧めでアタシが部屋の奥の席に通され、隣にミーアが腰を下ろす。
アタシの背後には“夜鷹”が二名、他の“夜鷹”と騎馬隊員は、建物の外だ。
子爵様方は、子爵様ご本人と同じく警護係らしい兵が二名に屋敷の主、デラックという顔ぶれだ。
もちろん屋敷の中は子爵様やデラックの配下でいっぱいではあるだろうけど、それでもこの部屋に入る人数に配慮しているようだから、今の段階ではこちらを威圧するような意図はないんだろう。
席に着くと、すぐに使用人がお茶を運んできた。
「どうぞ、お召し上がりください」
と子爵様が声を掛けてくる。
「感謝いたします」
「ありがたく頂戴いたします」
アタシの言葉と、ミーアの返答が重なる。
アタシがカップを手にした瞬間には、すでにミーアはカップに口を付けた。
特に何かを打ち合わせたわけじゃないけど、ミーアから“飲むな”という無言の圧が感じられる。
アタシは一応カップを口元に運ぶ仕草は見せつつ、中のお茶は口に含まないでソーサーに戻した。
「さて…子爵様、改めてになりますが、この度のこと、お詫びいたします。部隊に関してはすでに、勝手ながらご領地を進軍させていただいております。責はすべてアタシ、ティアニーダ・バイルエインにございます。戦いが終わりましたら、お咎めはすべてお受けする所存です」
アタシは、まずそう伝えて改めて謝罪の意を伝える。
子爵様は厳しい顔つきではあったけど、声を荒げて非難してくる様子はない。
黙ってうなずいた子爵様は
「貴国への侵攻、そして我が国内の状況を考えれば当然のことと存じます。我が領地、我が民への狼藉がなければ、責を問うつもりはありません」
と仰ってくれた。
これで安心、と思うほど、アタシも単純じゃない。
わざわざ直々に来たってことは、何か狙いがあるんだろう。
「それにしても、ゴルダの状況は一刻を争うほどなので?」
「は、どうやらその様です。手の者に調べさせましたところ、王都から王政支持派の貴族家に増援があったようです。今は進路を妨害することで耐えているようですが、それがいつまで保つかは見通しが利かない状況です」
「増援ですか…確かに、良い状況ではないですね…それでバイルエイン様は進軍を急がれていると?」
「はい、おっしゃる通りです…加えてこれはやや私的な動機にはなりますが、我が家に避難していたアレクシア・ノーフォート嬢も軍に加わっております。ゴルダにて抵抗している御父上を救い出すべく、進軍を急いでいる次第で」
「おぉ、噂には聞いておりましたが真実でしたか。アレクシア嬢はご健勝で?」
「はい、オルターニアに侵攻してきたサラテニア軍を、彼女が指揮して撃破したほどです」
そう話すと、子爵様の表情が微かに緩んだ。
笑み、だろうか?
安堵したのか、それともアレクの活躍を聞いて思うところがあったのか…
「アレクシア嬢より、子爵様のお人柄もうかがっております。思慮深く、ご聡明な方であるとか」
アタシが尋ねてみると、子爵様は今度は笑みと分かる表情を浮かべた。
「アレクシア嬢にそう評して頂けるのは、少々気恥ずかしい思いです」
「アレクシア嬢とは面識がおありで?」
「領地が隣同士になってからは、しばしば。姉君のジルベール嬢ともども、ご立派な方々でございましょう」
「ジルベール様ともお会いになられたことがございましたか。今は我が家の内政と補給にご助力を頂いておりますが、彼の方も見事な手腕の持ち主でいらっしゃいました」
アタシが答えると、子爵様はホッとした様子でさらに表情を緩めてくれた。
悪い方ではなさそうだが…それだけに、解放軍に加わらず中立を宣言したってのが気になる。
「子爵様のご領地は、今回の騒動で被害はございましたか?」
「我が家はそもそも、国王陛下からは特段目を付けられておりませんでしたので難を逃れた、といったところでございます」
「なるほど…優秀な臣下の方々が大勢疎まれたと伺いましたが、子爵様はその辺りはうまく立ち回られたのですね」
「はい、危ういところでしたが」
アタシ言葉に、子爵様はそう仰って笑い声をあげた。
しかし、その表情には微かなこわばりがある。
何かある、か…
少し突っ込んでみるか…?
「しかしそれでしたら、今回の進軍は子爵様にとってはご都合の悪いことだったのではないでしょうか?」
アタシの言葉に、子爵様は首を横に振った。
どことなく、力のない…無力感を感じさせるような仕草だ。
「いえ…表立ってのことではありませんが、我が家も解放軍には支援を行っております。解放軍に参加する兵の中継地として協力や、僅かながら物資の共有も実施いたしました。戦いで焼け出された避難民の一時的な受け入れも行っております…領都や領都周辺の町にはノーフォートから逃れてきた民も大勢滞在してございます」
「なるほど…中立を宣言されているからこそできる支援を進められておられたんですね」
「そう言って頂けるとホッといたしますが、一方で我が身の情けなさも感じます…本来ならこうなる前に陛下をお諫めするべきでした」
子爵様はそう肩を落とされた。
何となく、その感覚は分かる。
役に立てなかった、という想いを抱えるのは…辛いもんだ。
「そう気を落とされずに。数々の重臣方の諫言を受け入れようとせず、返って遠ざけたとも聞いております。そのような扱いになることを避けられたのは、賢明であったかと存じます」
「お言葉、ありがたい」
アタシの言葉に、子爵様はそう言って礼を取られた。
しかし、その顔はどこか頑なな印象を受ける。
あまり納得されている様子ではないな…
ノイマール王は諫めて変わるような人物ではなさそうだが子爵様はそう思っていらっしゃらないのか、それとも他家が戦う中で保身のために火中から距離を置いたという罪悪感なのか…
何かその辺りで後悔をお持ちなんだろう。
…中立宣言をした理由に嘘はなさそうだし、少なくとも急に旗色を王政支持派に変えるような雰囲気でもなさそうだ。
「ときに、バイルエイン様。お伺いしたいことがございます」
そんなことを考えていたら、今度は子爵様がアタシにそう声を掛けてきた。
「はい、子爵様。答えられることであれば、なんなりと」
アタシはそう答えて頷いてみせる。
すると子爵様は、僅かに唇を噛み締めてから口を開いた。
「オルターニアは、此度の戦争をどう終結させるおつもりでしょうか?」
「今回の件を引き起こした王政の打倒です」
「我が家…いえ、他の中立を宣言した貴族家はどうなりましょう?」
「その辺りは今後本国で協議されることになりましょうが、おそらく王政を倒したのちにオルターニアより恭順勧告が届くかと存じます。それにお答えいただければ、オルターニア王家の貴族として扱われましょう」
アタシの言葉に、子爵様は真剣な表情で頷かれた。
それから
「王政打倒ということは、国王陛下を討たれるのですな?」
と聞いてくる。
アタシは、その言葉に頷いて返した。
「もちろんです」
「そうでしょうな」
子爵様は、アタシの返答に無表情で頷いた。
やはり、何かはありそうだな。
ご本人はこれ以上は話されないだろう…ゴルダでアレクの父上に会えたら、子爵様と国王の関係については聞いておいた方が良さそうだ。
そんなときだった。
コンコン、とドアをノックする音が不意に部屋に響く。
アタシは少しハッとして、会議室のドアの方へと視線を向けた。
傍らのミーアは警戒した様子で、手を腰の辺りに当てている。
たぶん、暗器か何かを仕込んでるんだろう。
子爵様の警護の一人がドアを微かに開け、ノックした人物と短く会話をしたのちにデラックの方へと小走りに駆けて何かを耳打ちする。
それを受けたデラックが子爵様に耳打ちをすると彼はデラックに頷いて返し、それからアタシ達の方に視線を戻した。
「バイルエイン様、貴軍の者とみられる伝令が来ておられるようですが、こちらへお通ししてもよろしいでしょうか?」
伝令か。
前か、後ろか…どっちだろう。
「これはお手数をおかけします、お願いできますでしょうか?」
「承知しました」
アタシの言葉に頷いた子爵様は、警護の兵にも頷いてみせた。
兵はそそくさと部屋を出て行き、しばらくして青鎧を着込んだ兵士を一人連れてきた。
後方警戒に残してきた、ジーマの配下の一人だった。
かなり息が上がっている。
…来たか。
「ティアニーダ様、後方警戒中のジーマ班より伝令です」
「何かあったか?」
「サラテニア本国から侵入したと思われるサラテニア軍二千が、南部四領駐留中の部隊を吸収して西進、サルダー川の渡河を図っています」




