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第10話 雑談

 昼下がり、授業と授業の合間の束の間の休憩時間。僕たちは学園の広い中庭に集まっていた。


 石畳の先に噴水があり、その周囲を取り囲むように美しく植えられた花々が、春の陽射しを浴びてキラキラと輝いている。ふわりと吹き抜ける風が心地よく、僕たちは噴水近くのベンチに腰掛けた。


「ふう、やっぱりここは落ち着くなあ。適度に日光があって、広々してるし」


 僕が伸びをしながらそう呟くと、フレリアが隣で微かに笑う。


「エリオス、あなた本当に自然が好きよね。オルデリアの壮大な領土では、こういう中庭はあんまりないのかしら?」


 彼女の問いに、僕は首をかしげる。


「うーん、農村地帯は自然がいっぱいあるんだけど、王都付近はどちらかというと堅牢な建物が多くてさ。こういう、花が綺麗に植えられた場所は珍しいんだ」


「たしかに、レダリア共和国とはまた雰囲気が違うわね」


 フレリアは遠くを見つめながら言う。噴水の音が響く中、彼女の赤い髪が風に揺れ、その姿はどこか品がある。


「レダリアは大統領制だっていうけど、フレリアの家は貴族みたいなものなの?」


「それはオレも気になるな!」


 デュロスも興味津々に顔を上げて同調している。


「一応、旧貴族の家系という扱いかしら。でも今は大統領制に移行して、実質的な“貴族”は形だけよ。ま、私の家は伝統だとか名誉だとかを重んじるから、あんまり気楽でもないわね」


 フレリアが大げさにため息をつくと、隣に座るカイムが本をパタンと閉じて口を開いた。


「レダリアの形はまだ良いと思うよ。僕の出身地、ディヴェルシア諸国連合は、なんせまとまりが悪い。国がいくつもあって、意見が合わないこともしばしば。連合しているというだけで、実際は独立した小国が寄り集まっているようなものだ」


「へえ、よく維持していられるんだな」


 デュロスが素直な疑問を口にする。カイムは静かに笑いながら、「ま、戦争するよりはマシということなんだろさ」と言って頬をかく。


 ふと、ベンチの端でやたら大きな背伸びをするデュロスが目に入る。彼はエリュシオン神聖国出身で、見た目はいかにも「脳筋」に見えるが、意外に哲学書を読んでいたりするらしい。


「そういえば、デュロス、いつも筋トレばかりしてるけど、なんか哲学に詳しいって聞いたぞ」


 僕が軽く振ると、デュロスは豪快に笑いながら胸を張った。


「ああ、オレは幼い頃、執事が哲学書を貸してくれてね。そのおかげだな! おかげで筋肉だけじゃなく頭も鍛えようと思ったんだよ!」


「その割には、筋トレしかしてないじゃない」


 フレリアが突っ込むと、デュロスはまるで誇らしげに二の腕を見せつける。


「哲学をいくら学んだって、結局、筋肉は裏切らねえってわかったんだよ! ほら、これがオレのアイデンティティみたいなもんだ!」


 その勢いに、僕もカイムも思わず吹き出してしまう。


 そんなカイムは手の平サイズのパンをつまみつつ、魔法理論書を開いている。


「まったく、昼休みくらいは休んだらどうだ? その本、面白いのか?」


 僕が尋ねると、カイムは微笑を浮かべる。


「うん。理論だけなら知っていることが多いんだけど、応用法がいくつか載っているし、戦術のヒントになりそうなんだ。特に、風魔法と水魔法の併用で足止めするテクニックは面白いよ」


「カイムはいつも難しいこと考えてるわね。火力で押し切る練習をしたほうが絶対に良いわ!」


 フレリアが呆れたように口を開いた。すると、カイムはフレリアを見やり、軽く笑った。


「まあ、火力を上げる練習よりこういうのが純粋に好きなだけっていうのもあるね」


「カイムはオレには考えもつかないような魔法の使い方をするから一緒にいて楽しいぜ」


 そんな雑談が続く中、僕はふと、学園生活が始まってからのことを振り返った。最初はお互いのことをよく知らなかったのに、今ではこうして自然に集まって昼食をとる仲になっている。


「なあ、みんな。レダリアとか、ディヴェルシアとか、エリュシオンとか、オルデリアっていうみんなバラバラなのに、こうやって国を越えて力を合わせられる関係って良いな」


 不意に出た僕の言葉に、フレリアは照れ隠しのように小さく笑い、カイムは本から視線を上げて「悪くないね」と呟く。デュロスはいつものように拳を突き出し、「オレたちは最強の仲間だぜ!」と豪快に笑っている。


 噴水の水音が昼下がりの空気に溶け込んで、雲ひとつない青空が広がる中庭。4人で交わす何気ない会話が、僕たちの絆を一層強固にしてくれる。これから先、どんな困難が立ちふさがっても、僕たちならきっと大丈夫だ。そんな確信が、春の陽射しのように胸に広がっていた。

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