雪夜
家に帰ってポストを開くと合鍵が落とされていた。
一昨日の夜、僕達は喧嘩した。
ささいな口論。でも二人の価値観の違いをはっきりとさせてしまった。
―話をしたい。―
そう告げられ、仕事の帰り道に二人で食事に出かけた。
何を話したらいいのか分からず、自分達で食べるものを注文した後、
言葉を交わす事は無かった。
煙草吸っていいかな。
食事を終えた後、精一杯彼女に伝えた言葉は、
とてつもなくしょぼい一言。
彼女は無言のまま頷いた。
煙草の煙を吐き出す度に、僕は彼女から顔を背けた。
ずっと俯いたままの彼女が何を考えているのか、
今彼女はどうしたいのか。
何となく察しはついた。
その分、彼女の沈黙は怖かった。
店を出た後、恐る恐る彼女に尋ねた。
どうしたい?
―別れたい。―
俯いたまま、小さな声で彼女は言った。
頭の中で、必死にやり直せないか考えた。
だけど、何度も言葉を呑み込んだ。
何て言っても答えは変わらない。
どんな言葉を伝えても、もう戻れない。
分かった。
そう言って俺は笑った。
引きつりながら。
―じゃあね。―
帰っていく彼女を送る事も拒まれ、見送る事しか出来なかった。
通いなれた、駅までの道。
缶コーヒーを飲みながら、二人で話した街灯。
二人で買い物をしていた店。
たくさんの思い出が残る道。
そして、いつも待ち合わせをしていた改札には、彼女はもういない。
風の冷たさが身体と心を突き刺した。
空からは冬の便りが静かに舞い降りてきた。
それは俺の肩に降り、儚く消えていった。
彼女との時間が、まるで夢だったと思わせるように。
今夜、恋は静かに閉じられた。