幸せになるために1歩前進!(転生)……なるはずだったのに
1回目の人生は昔に読んだおとぎ噺のように皆に愛された可憐なあの子を妬んで虐めて豪華な会場で暴露されて惨たらしく檻の中独り亡くなった。
2回目の人生は前の記憶を取り戻して己の最期を知り狂いそうななったけれどどうにかそんな未来を回避するために努めたが、今更どうこう出来る時間なんて微々たるもので結局は少しマシになった程度だった。
3回目の人生。既に2回も自分は死んでいて少しづつ生き返る年齢も若返っているらしい。できる限り善行を積んで良い人に成ったのだと、変わったのだとアピールしたが結局は怪しまれて謀殺されてしまった。
4回目…疲れた。デビュタント前に思い出せたのは幸いだったが親にまで裏切られるだなんて思わなかった。突然、倒れてからの変わり様に使用人にも訝しげに見られたが、もうどうでも良くて教会にでも身を置こうかと少しづつのドレスも宝石も換金して自分の身の安全を担保できる額まで寄付金を確保した。日頃から今までの罪を洗うように祈りを込め周りの反対を振り切ってシスターに成った。けれど____
「5回目……?」
暗転した世界から突然の差し込んだ光に目が覚め、視界に入ったそこはもう何度も見た、見慣れすぎてしまった自分の部屋だった。周りを見渡して見てもやはり間違いなく自室で、ヨロヨロとベットから起き上がり鏡を見てみるとやはりと言うべきか4回目の時より幼い姿をしていた。
どのくらい眠っていたのか分からないが突然立ち上がり動いたせいか、グラグラとまだ頭が割れて失神してしまいそうな程の痛みが振り返しきた。
「失礼します。……お嬢様?!大丈夫ですか!!」
鏡の隣にあったドレッサーに手を着いてしゃがみこんでいたら専属の侍女をしていた者が水差しと濡れたタオルを素早く机に置くと駆け寄ってきた。
「だい、じょーぶよ……。すこし、たち、く、らみを……しただ…け」
ガンガンと内側から頭を殴られるような痛みが押し寄せる中、強がるように相手に心配をさせないと無理やり立ち上がり壁伝いにベットへ戻ろうとしていた。
「全く大丈夫なんかじゃありませんよ!お嬢様は1週間もの間寝たきりになっていたのですから……」
大声を出したら頭に響くだろうと張り上げることはせずに語気を強めながらこちらに言い聞かせるように単語一つ一つに気持ちを込め侍女は支えながらベットへ戻した。
必死な顔をして私をベットに寝かしつけ、直ぐにハッとした顔で「申し訳ごさいません!」とまるで命乞いをするかのように謝るのだ。
それもまあ仕方の無い事かもしれない。
なんてったってデビュタント前の随分幼い姿になったとはいえ暴虐無人で自分勝手な子供だったのには違いなかったのだから。それでもこの侍女は懸命に既に歩んだ4回もの人生で側仕えをしていた。どうして毎回近くに居てくれた、その今際の際まで献身的と呼べるほどまでには分からないが彼女が居てくれたおかげで少しでも心の支えのような安らぎを感じていたのは確かだ。
そしてふと、思いついた。
私は繰り返した人生の中で彼女に感謝の礼を伝えた事は何度あっただろうか。
確かに死なない為、”良い人である”為にポーズのような心にも無い言葉かけは何度もしてきた。
「シンパイしてくれたのでしょう?……ありがとう」
笑った顔なんて5歳の誕生日にお母さまが亡くなってから誰かに見せたことなんてなかった。
上手く出来てるか分からなかったけど呆然とした表情でこちらを見つめている彼女を見て安心したのか眠気に誘われ、ほんわりとした感覚を不思議に思いながらそのまま意識を落とした。
「お姉さま〜!!」
「マリー。そんなに急いだらダメよ」
あれから数年の時が経ち、今まで何回も過ごした人生の中でも1番穏やかな日々を過ごしていた。
あの時感じた温かさなるものの正体を探すために何度も繰り返す様に”感謝の”言葉を伝えていた。そうしていたらいつの間にか周りに人が集まってくるようになり初めは憎いだけだった妹と言う存在との距離も近くなり今では仲良く双子の姉妹として色とりどりの花達が咲き誇る庭で一緒にお茶を嗜みたわいない言葉を交わし、遊ぶ。
遠き日に(義両親)誰かが願った穏やかで鮮やかな世界そのものなのだ。
暖かい空間で二人寄り添って本を読んでいる。内容は随分なもので【真実のアイより偽証の愛を選ぶ少女】と云うなんだか悲しさも感じる話だ。
それでも妹は手持ちの中で1番好きなんだという。
どうにも私には…何回も人生をやり直す理由からして理解し難い話でティーカップに口をつけながら首を傾げ流すよう聞いていた。
『だってそっちの方が素敵なんだもの』
その言葉の真意はきっと分かる時は来ない。しかしそう言い放った時のとても澄んだ瞳になんとも言えない恐怖感を覚えた。
きっとこの時点で私は選択肢を間違えていたんだろう。
王家の紋章が付いた馬車が城下町の大通りを歩いている。
「おめでとう」という声のライスシャワーがあちらこちらから聞こえ祝福の雨が降り注ぎ皆嬉しそうな笑顔が花咲いていた。
今日は婚約者であり時期国王として国を治め…最初の人生ではその手自ら私の処刑を命じたその人と周囲に手を振りながら式を挙げる大聖堂へ向かっている。
最初の頃はまた死んでしまうのではないかと内心穏やかではなかったが、いつも通り5回目で学んだように誠心誠意に接していればずっと夢にまで見た冷たい目で見られることも、顔を合わせればため息も付かれる事も無い幸せな恋人であれるのだ。
手を繋ぐだけで緊張のあまり震えてしまってクスリと笑われ怒って揶揄われ妹の「仲がいい」の一言で照れて可愛いの言葉にツンケンとした態度で返してしまって。
あぁ、こんなに気安い人なんだって、隣で王となった自分の理想を民を想う話を聞いて今度こそは支えるんだって、優しい声色で名前を呼ばれて微笑んだ彼の姿を見てそう思った。
しかし大きな爆音で次に発しただろう彼の声はかき消されてしまった。
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カチャ
カチャリ、
カチャカチャ…
身動きをする度に金属が擦れ、高い音が鳴る。周りは暗く何も見えず足を動かそうとするがあの時の爆発の影響か身体の至る所が痛みを発し、そこで藻掻くことしか出来なかった。
そうしてしばらく自分を捕らえている鎖から逃れようと藻掻いているとガチャリと戸が開いた。
「あら!お姉さま。お目覚めになりました?」
「その声は…クリスティーネ?クリスティーネな…」
助けが来たのだと顔を明るく破顔させ振り返る。カンテラの光がぼんやりと周囲灯し暗闇との谷間がうっすらと笑みを浮かべた少女本性を表しているようだった。
「お姉さま、どうなさったんですの……?」
少女の身に纏う純白のドレスは血で染まっていた。
それに加えて……どうして?どうしてなの?
「どう、して…あの人の、首を……」
先程まで笑いあってた、幸せを誓い合っていた優しいあの人。
確かに前の人生もその前の一生でも愛し合う事が出来なかった。だからこそ…と、思っていたのに。
ようやく自分を思い治す事が出来たのに。
虚を浮かべ色を無くしたた瞳、零す涙。
滴り、差し出した頭を抱え込まれソレの眼に落ちた。
折角、お姉さまの為に用意した特注の白いお姫様みたいなドレスが紅く染まってしまうと思うと怒りが込み上げそうだった。
装飾を減らした色違いの黒いドレスを纏った『わたし』は壊れたように涙を流すだけの姉を見つめていた。
大きく亀裂が入りガタガタとした地面にカンテラを置く。暫く手入れがされていなかったせいか『わたし』が立っている方は埃が舞ってしまうようだ。
お姉さまが眠っていた間の事を話してしまったらどうなってしまうのかと思うと無意識の内に笑み浮かべてしまう。
ここは王城の地下牢で、外は瓦礫の山。
死体を貪る獣の唸り叫ぶ声と腐臭の瘴気が地上に満ち溢れている。
お姉さまは幸せになりたかっただけなのにね。『ワタシ』が愛してしまった所為で。
2人だけを照らす光だけがみていた。
同様の内容でpixivでも投稿してます。