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ハルミヒトセと願いの叶う薬  作者: 白梅つばめ
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見えているもの

「納得がいったよ。あまり知れない方がいいとした理由にもね。真似が出来そうになくて残念だ……ああ、そうだな。君は随分と『深い』ところまで見えているようだから、気をつけた方がいいな、ご覧」


 セスはヒトセに渡したものとは別にピカピカした名刺をもう1枚出すと、手をかざして呪文を唱える。そうして、セスがトランプで手遊びするように名刺を構えれば手の中でパラパラと3枚にわかれた。


「気づいたかい?あの無地の手紙と似たような仕組みさ。違うのは見え方だ」


 そう言ってセスは1枚1枚をお菓子の置いてある低い机に並べていった。


「君にはこう見えた?そうだろう、セス・オアスト、と読んだもの」


 1番左に置いたヒトセが見た名刺をつつきながらセスはそう言う。そして次にその隣とその隣を指しながら続けた。


「真ん中の『セス・アレギア』と読めばこちらの世界の住人の魔法使いや魔術師や魔法渉者で、右端の『セシリオ・エイレンジー』と読んだら魔法と縁のない暮しをしている人。ああ、そうだな、魔法使いに金品を奪われそうになったり危ない目にあったらこの名刺を渡すといい」

「他に魔法がかかっているの?」

「魔法のかかった名刺は意外と高く売れるんだ。当然ながら、話が通じる相手にしか通用しないけれど」

「私の期待を返して!」


 ヒトセのつっこみにハハハ、とセスが軽快に笑う。


「それで、この左端と真ん中の違いなのだけれどね」

「急に真剣にならないで」


 笑った顔があまりに急に真面目な顔になり、ヒトセは面食らってしまった。急な雨でももう少しは予兆がある。


「私はいつでもどこでも真剣さ。君、自分の見ている世界は何が基準になっていると思う?」

「何が基準に……」


 ヒトセは基準なんてあるものかしら、とひどく思ったけれど、これは左端の名刺と真ん中の名刺、ヒトセが見えた名刺と魔法渉者として見えただろう名刺。その話に繋がるのだろう。ピカピカと光る左端の名刺と、落書きのようなものの描かれた真ん中の名刺を見つめる。


 1分ほどかかっただろうか。セスがコーヒーを飲む合間、ヒトセはそれこそ真剣に考えて答えを探して、口を開いた。


「私の認識を基準に……私は私の知る物を捉えるから、左端は私の知っているもので出来ているからそちらが見えたということ?」


 ヒトセの言葉にセスは驚いた顔をしながら笑顔になった。


「君はすごいな。認識、おおよそ求めていた言葉だ。君は『深い』ものが見えている。俗にいえば真実に最も近いものだ。ありのままの……自然のもの。そして、それだけが見えている。爪を隠すのなら自分の見えているものに気をつけなさい」


 ぐるぐると回り道をしたが、ようはヒトセに隠すことを勧めたのだ。聞いたヒトセの秘密を他言しない、ということは確からしい。


 なかなか帰ってこないクロエたちが少し心配になってドアの方を見れば先程の男性がまだセスの背中を見ている。ヒトセが押したって動くとも思えないおしゃべりな目の前の美丈夫をどうしたものかと思いながら、紅茶のおかわりを注いでミルクを入れくるくると紅茶をかき混ぜた。


「事件について少し話そうか」


 ちらりと見えたセスのカップにコーヒーはあと僅かだ。


「ディエゴ・オーリーは、まじない屋のシェーマ氏の腰が悪くなったことを聞いて様子を見に来た際にフィローナに目をつけられたらしい。ああ、フィローナというのは、縞模様になっていた魔法使いの彼女の名前だよ。彼女はずっと何年も捜査対象で、とうとう捕まってしまったというわけだ」


 自慢げに宝物を見せる子供のように楽しそうに話し出したセスを前にしたヒトセは、さあ退室して廊下で懸命に視線を送り続けている彼の元へ行くように、だなんてとても言い出せなくなってしまった。それに、事件のことはヒトセとしても気がかりな話題なのだ。誘惑に負けたと言っていい。ヒトセはじっとセスの次の言葉を待った。


「話を聞く準備は万端のようだね。任せておいてほしい。なにせ話を聞いてきたばかりだから」


 足を組み手を組み、まるで探偵の独白シーンだ。セスはそんな格好をつけたポーズがなかなかに似合うもので、ヒトセはなんだか映画の中にいるようだわ、と思った。


「ディエゴ・オーリーを巻き込んでシェーマ氏に静観させるよう仕向けたようにフィローナの手口は毎度巧妙なんだ。今回は契約やランプフィルを挟んで気に入りを探して、その気に入りからだけ血を抜いていたらしい。そうなれば被害も最小限で騒ぎも起きづらいし、なによりフィローナは記憶操作まで得意なものだから始末に負えないな」

「記憶が曖昧な生徒が多かったのはそのためなの?」

「そうだろうね……が、この一連のフィローナの作戦っていうのは、皆が真面目に会員証に本名を間違わずに書くことが大前提だ」

「クロエや先輩は名字を少しだけ変えていたわ」


 クロエ・ヘイワードにコール・コッポラ。この名前で2人を尋ねて探し回れば、運が良ければ名前を間違って覚えてやしないか?と助言を受け、2人にたどり着けることだろうとヒトセは思う。それくらいの少しだけ、であった。


「そう、すっかり偽名なら魔法が発動しないだけだったのだろうけれどもね。その少しだけ、を魔法が通ってしまった。彼らが古い魔法使いの家系だったのもあるんだろう。彼ら自身が家名そのものだからな」


 ヒトセはほんの数グラム、教本と違った量の薬草を入れたスキップ薬のことを思い出す。


最後の最後の工程でソレオの綿毛を入れすぎたのだ。本来の倍ほどあぶくが沸いて、恥ずかしい思いをした。慌てて作り直したものを提出して事なきを得たけれど、瓶に入れたままにしていて手元にその失敗作が残ってしまった。


 好奇心が勝り放課後の中庭でその失敗作をほんの少し口にすれば、失敗したそれでもヒトセを上手に跳ねさせた。ただ、材料を入れすぎたからだろう、尋常でない跳ね方をして、無事に着地こそなんとか出来たものの、それはもう、ひどく恐ろしい思いをした。ヒトセは薬が抜けるまでお嬢様もかくやというほどそろそろと歩いた覚えがある。


 つまるところ、想定外の要素が加わったとしても、完全ではなくとも魔法そのものは発動するのは確かだ、ということだ。


「いやあ、問題にもなるうえ魔法への抵抗力が高いからと名家を避けていたのに、抵抗力があるキャラメルくんにどんな素晴らしい血を持っているのかと執心したのが運の尽きだな、ハハ、私にはキャラメル。フィローナにはザッハ・トルテちゃん。いやに随分甘そうに呼ばれているね、彼」


 そう言って、ふいにくすぐられたようにセスはくふくふと笑い出す。


「ねえ、彼女は血を集めて一体何をしていたの?」


 そんなヒトセの質問に、セスはにやける口元を抑えて真面目な顔を作ってから応えた。


「君、吸血鬼って知っている?」

「あの、血を吸う?」

「そう、その血を吸う。フィローナは吸血鬼なんだ。だから彼女は血を求めていた。動かない心臓で息をするためには血が必要だからね。いやに拘って血を選んだものだと尋ねたら、どうやら血にも相性があるらしい」


 ヒトセはどこか吸血鬼をお伽噺の存在に思っていたけれど、古い古い魔法薬の本は、人間の身体のどこそこだとかを気楽にかき集めてみせ、お伽噺ではないのだと言うように彼らのことも同様に材料の欄に載せていた。ここに現れたって不思議ではない。


「逆にアーレンフルイヤやランプフィルは彼女の血を与えられたことで、飼いならされていたそうだよ。君なら、気になっていたろう?」


 図星であった。ヒトセは店内で一目見たそのときからずうっと、一体どうやって育てるのが難しいとされるアーレンフルイヤを維持しているのか気になっていた。血も吸わせているとなってからはランプフィルをどうやって管理しているのか問い詰めたかったのだ。


「つまりは彼女の魔法なのね……真似は出来そうにないわ」

「魔法、ね……特異性魔法使いについて調べてみるといい。ああ、うん。時間だな」


 セスはコーヒーをあおると、そのコーヒーカップを何処かに仕舞ってしまった。そして勢いよく開いたドアの方は見ずにヒトセに手のひらを見せる。


「私は君が持っているだろう魔術具の片割れを預かりに来たんだ。少し借りてもいいかい?いつまでもフィローナが縞模様で輝いているから、どうしてか私が怒られて」


 そう言ってセスはいつの間にか手の中に出したライリーが持っていたものだろう魔術具をマジックショーのように見せびらかしている。


 ヒトセがおずおずと懐から出した魔術具を大事そうに受け取ると、数分間のやりとりなどなく、さも今程やってきたかのような顔をしながら、

「持ってきたお菓子は彼女と食べるといい」

 そう言ってセスは部屋を出ていった。


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