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ハルミヒトセと願いの叶う薬  作者: 白梅つばめ
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セス

「魔法捜査特別顧問官、セス……?あ、オア……ス、ト」


 ヒトセはまるでシルクのようにさらさらとしたとてもよい手触りの名刺とにらめっこでもするようにしながらその金の文字を読んだ。手触りもよく、丁寧に作られているだろうその名刺は、丁寧に作ったぶんだけ主張をしたいようで、表面がいやにピカピカと光を反射して文字がとても読みにくい。


「いいだろう?ふんだんに魔法を編み込んで作ってあるんだ。これを表で使った日には3日ほど魔法研究捜査棟で髪長姫のように過ごしてもらう処分を言い渡す、とまで言われた素晴らしき一品だ。不思議だ、こんなに綺麗なのに。なんでだろうね?」


 なんでだろう、と裏通りのゴースト、改めセス・オアストは、ヒトセの方ををじっと見つめて真剣そうな顔つきをしている。どうにもからかっているのか本当にそう思っているのか、全く判断がつかなくってヒトセは思わず盛大に顔を引きつらせた。


 願いの叶う薬に関係する一連の事態について、クロエは生徒主導の研究会の代表として、コールは被害の一例として、ライリーはまじない屋の様子について詳しい人間として、それぞれ捜査にご協力をと連れ出されてしまった。願いの叶う薬の分析結果は既にインが報告していたため出る幕のなかったヒトセは、優しそうな職員さんの差し入れてくれたお菓子とお茶をちびちびと頂きながら、通された部屋で皆の話が終わるのを待っていた。そこへセスがまるで当然かのような様子で部屋に入ってきたのだ。


 湯気の立つコーヒーと自分の分のお茶菓子まで持参して。


「なんでここに来たんだろう、って顔だ。何、取って食ったりしないさ。ただ、君が手伝ったのではなく君が主だってあの願いの叶う薬の分析結果を出したと聞いてね。暇をしていたろう?このコーヒーカップが空になるまでの間、話に付き合っておくれよ」


 セスはそう言いながら機嫌良さそうにコーヒーを口に運ぶ。ヒトセは居心地悪く思いながら固いクッキーを齧った。


 ヒトセの沈黙を肯定ととって、セスは話を続けた。


「いやあ、君の分析は実に迅速で的確だね。いっそ不自然なほどに」

「不自然……?」


 ヒトセは思いもよらない言葉が飛び出して来たものだから、ぽか、と口を小さく開けて目を丸くしながらセスの次の言葉をじっと待った。


 それを見てセスは少し満足そうな顔をしながら続ける。


「魔法薬の分析となると、特定魔法を使うか、材料を選り分けて1つ1つ総当りで判別していくかが主な手法となるね?特定魔法は使える人が限られているから君たちは総当り法をとった筈だ。総当りといっても他に魔法が使えないわけでなし、辞典を見て1つ1つ答え探しをするほどの労力ではなかったろう。だけれど、君たちの施設で出来ることは限られている。それに……察しがよくって助かるよ」


 セスが言葉を並べ立てていくうち、ヒトセは血の気が引いていくのを感じた。


「か、鎌を......!イン先生は私が主だって分析をしたなんて言っていないんでしょう!きっと……きっと、先輩と協力して願いの叶う薬を手に入れて時間をかけて調べたと言った筈だわ」


 震えた声でそう言ったヒトセに、セスはそうだねえ、と答えながら楽しげに微笑んだ。


「この間私と話したろう?もう、少し懐かしいなあ。あの日、君は願いの叶う薬について知らなかった。それならあの日以後に分析を始めたと考えるのが自然だ。なぜって?なにせ君と彼の2人で分析をしたんだからね。彼は優秀だけれど自分の手柄などには頓着するようではない。性格的には他の教師を巻き込む筈なのにね。となれば彼が君の盾になるべく前に出たと考えるのが妥当だろう?」

「以前、貴方のことを当てずっぽうな名探偵、と言ったことを怒っていらっしゃる?」

「怒っていないよ。当てずっぽうは当てずっぽうだ。彼と君なら君の方がこの短期間で分析を成し遂げるような気がした。だからそこから裏付けを積み重ねていったんだ」


 戯けるように言うけれど、その推理はこれ以上はないものだ。決め手はヒトセが鎌にひっかかったことではあっても。ヒトセはぬかったと後悔の気持ちでぎゅうと拳を握った。


「ああ、けれどね、君とあの日会ったことを私は人に言うつもりはない。だから君の先生の言い分が覆ることもないよ。君たちの不利になるようなことをする気はないんだ。なぜって?ほら、部屋の外が見えるようになっているだろう?何が見える?」


 ヒトセはセスに促されるままに部屋の外へ視線を向けて、ビクリ、と身体を震わせた。


「み、見張られているようなのだけれど……貴方が」


 部屋の外の、少し離れた辺りで快活そうな見た目の、きっと笑えば暖かな雰囲気であろう男性が突き刺さんばかりに冷たい目でセスの背中を見つめている。


「そう。睨まれているんだ、私が。背中が焼けてしまいそうな程熱い視線だろう?」


 むしろ凍りつきそうなほど冷たいと思う。ヒトセが何と言えばいいやらと視線を彷徨わせているとセスは笑って続けた。


「簡単な話だよ。私はあちこちの支部に出かけていくからいつもはいないし、いつのまにかいない。彼はまた私が夢で見たご馳走のように消えないだろうなと真剣な訳さ」

「まさかとは思うけれどあの日ここを抜け出ていたから目撃者がいたらまずいというのではないのでしょうね」

「私は調べごとも探しものも足を運んでこそだと思うんだ」


 すぐ戻ると言っても駄目なんだよ。私を捜査棟に閉じ込めて酷い連中だろう?いじわるしてるんじゃないだろうか、なんてセスはブツブツと言う。あれだけ目を離すことすらはばかられるほどに警戒されているのだ。余程常習らしい。


「クロエが来て逃げたのは目撃者が増えるのはまずかったからかしら?」

「それもあったけれど、君、彼女に魔法をかけられてるんだ」

「えっ」


 ヒトセは見つめたって分かりっこないというのにセスにそう言われて思わず自分の体を見つめた。


「ハハハ、悪いものじゃない。お守りみたいなものだ。だけどそれをかけた本人が一目散にこちらに駆けてきたんだ。怖いじゃないか。騒ぎを起こしたら今度こそ私は外出禁止だぞ」


 その口ぶりはまるで子供のようだ。ヒトセはつい思わず苦笑してしまう。


「魔法がかかっているというのは他の人から分かるものなの?」

「得意な魔法にもよるのだろうけど、魔力量が多いほどどんなに隠してあっても察知出来ることが多いかな」


 つまりクルガベレーをカラントアにとじ固めた例の薬は捜査のために服用していたということだろう。苦しんででも魔力量を増やす価値はあるということだ。


「ああ、そういえばキャラメルの彼は横槍は入ったようだけれど魔力量、ちゃんと増えていたようだね。キャラメルくんは私のことを言わないでいてくれているみたいだから、あとで教えてあげるといい」


 セスはきっと喜ぶぞ、と気ままに言うが、ヒトセは傷をつつくようなことだなあと気まずく思った。


「さて、取って食おうとしてるわけではないのは分かってもらえたかい?願いの叶う薬にあまりに珍しい材料が多かったものだから捜査棟は君たちの結果の確認をする方が早いと判断して実際にそうして分析をした。先生くんが隠しだてしてやりたくなるような君だけの方法なんて、どうしても、どうしても、気になるじゃあないか」


 セスは神妙な顔つきになってじ、とヒトセを見つめた。ヒトセはああ、これまでの話は全部自分を安心させようとしていたのか、とその深い黒色の瞳に見つめられながら思う。


 ヒトセはセスの気持ちが分かるような気がした。ヒトセも魔法薬や植物について自分の知らないことがあれば知りたくて仕方がなくなる。彼は嘘はつかないだろう。イン先生の言い分は守ってくれるし、不利になるようなことはきっとしない。


 ヒトセはやっとセスのことをなんということもなく信用したくなる理由を理解した。不思議とこれまで親切にしてくれた妖精たちと顔を付き合わせているときのように感じるのだ。素直で、思うままそのままの不思議な魔法の存在。ヒトセも彼らをそのまま気のままに受け取ってきたのだった。


「……私は、粉状にされていても、液状にされていても……どんなふうにされていても。植物から作られているものかどうか、なんとなく分かるの。見たことあるものだと確実だけれど、知っている植物でさえあるなら、不思議と少しだけどんな植物なのかも、分かるわ。願いの叶う薬は半分以上が植物から作られていたから、その要領でかなりの材料を割り出すことが出来たの」


 魔力がないのだから、何かの魔法でもない。だけれど、ヒトセがなぜればするすると伸びやかに育つ植物たちは、姿を変えても自慢気に伸びやかに育つ様や綺麗に咲かせた花、伸ばした根の長さ、いろいろなことをヒトセに教えてくれるのだ。


「秘密は秘めてこそでしょう」


 そう言いながら、インはヒトセの植物を育てるのに長けた面と、薬を作ることに長けた面だけで入学を取りなしてみせた。


 教師として、そしてハルミヒトセというまだ小さな女の子を東の端から拾い上げた大人として、インはヒトセを守るためにその手札を伏せることを選んだのだ。そのためにヒトセの特技のいくらかは周知されることもないままだ。


 今回も願いの叶う薬があのような薬でさえなければこのように尻尾を出すようなことはしなかっただろう。


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