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ハルミヒトセと願いの叶う薬  作者: 白梅つばめ
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コールと願いの叶う薬-2

「それで先輩。会員カードを見せてほしいの」


 そう言いながらクロエは懐から透明な袋に入った会員カードを取り出して見せた。


 コールは袋に入っていることに少し驚いたものの、じ、とカードを見つめたあとケラケラと笑い出した。


「説明をよく聞かなかったのか?本名じゃなければポイントや特典はつかえないぞ、クロエ・ヘイワードさん?」


 そう言いながらコールは放るようにクロエに自分の会員カードを渡した。


「そういう貴方は書き間違えかしら?コール・コッポラ先輩」


 ふふ、と笑うクロエにコールは返事のように顎をしゃくって見せた。


「これは魔法術監査員や治安隊が窓から飛び込んで来るような話だと思うのだが、誓いが作動していないのは何故だろうか。奇妙過ぎないか?」

「どれもこれも先輩ほど血の気は多くないわ。誓いが作動していないのは、恐らく店の外でやっていることもあるでしょうし、『名前を使って』魔法や魔術をかけてもやっていることは願いを叶える薬を渡すこと、だからじゃないかしら。不平等取引であったり明らかな詐欺行為をやっていないから町の誓いの範囲外なのかもしれないわ」

「それにしても君も噂を聞いたんだろう?魔力量の問題でも抵抗力の問題でもないとするならどうやって……」


 わいわいと盛り上がり出す魔法使い2人を前にこのまま放っておけばどんどん話が進んでしまう、とライリーは静止するように2人に声をかけた。


「えっと、ごめん僕にも分かるように説明して」


 クロエははっとしてすぐに頭の中で整理をつけて説明を始めた。


「あくまで予想なのだけれど、私達は今、会員カードにかかれた名前を使って魔法か魔術か呪術をかけて、願いの叶う薬へ誘導して噂を聞かせたり薬を配ったりしているんじゃあないか、と考えたの」

「だから抵抗力の話に……ホワードさんは魔法が得意だから普通ならそういうのにかかりにくいはずだもんね、だからどうやって、ってなるのか」


 ムム、とライリーは自分もこの問題について考えようとして、ふとあることに気づいた。


「それなら、兄さんの様子がおかしかったのが直ったのはなんで?魔法が解けるようなこと、したっけ?」

「俺はよくわからない」


 コールはライリーの質問に口が勝手動くことに慣れてきたのか全てを諦めたのか勝手に動いた口をそ、と閉じるくらいしか身じろきしなくなってきている。


「……クルービアの妖精の朝露薬は一般的には酔い醒ましだけれど、グラメイアは強いお酒になって、アルコールは量によっては毒で……妖精の朝露薬は数ある魔法薬学の部門のうち可能性は未知数って言われている部門だし、私の作ったのが先輩の言うように祖薬に近いとするのならありえる……?」


 わあ、とライリーがヒトセの様子に能天気な声をあげた。目を離したすきにこちらはこちらで分かることに知恵を絞っている。得意分野や視点が違うというのはすごく心強いな、と思ったし、自分も3人のように得意分野があればかっこいいかも、とふわふわ思った。すぐには思いつけやしないけれど。




「やっぱり、クルービアの妖精の朝露薬を飲んだから正気に戻ったとするのなら願いの叶う薬に何か入っていたと思うの!分解出来るような何かが!」


 ヒトセは確証がなさすぎて勢いでしか物を言えないわ!と半ばやけっぱちでそう言った。それならば何もかもに説明がつくのだから仕方がない。裏通りの美丈夫の『多分きっと薬を作るのが得意な魔法使いを探しているから』君は魔法薬学が得意に違いない、だなんて当てずっぽうよりよりはましなような気がするが、どちらも探偵なら廃業であると思った。


「先輩、願いの叶う薬は残っていませんか?空き瓶でもいいんです、洗ってさえいなければ調べられます」


 3学年の授業に混じっているとはいえヒトセはまだ入学して半年も経っていない1年生だ。ヒトセの言葉にまさか、そんなことが出来るのか?とコールが目をむいた。しかし、クロエとライリーをそれとなく盗み見れば2人は当然のような顔をしていて、ヒトセ・ハルミは少なくともその特技を2人の前で披露したことがあるらしいと察した。


「……今の手持ちは1本だけだ。あと2本くらいは部屋に置いてある」

「く、ください......!イン先生に御助言や力添えをお願いしてみるわ。優しさに甘えるようだけれど、悪いことではないもの!」


 コールから手持ちの1本を受け取りながらヒトセはオロオロとしたり、キリッとしたり、百面相している。よく見ていればこんなにも表情豊かだったのか。恐らく本人はこんなに表情が変わってしまっていることに気づいていないんだろうし、それを見て満面の笑みを浮かべているクロエ・ホワードはそのことを一生ヒトセに教えないんだろうな、と思った。末恐ろしいどころか今恐ろしいが、ちょっと気持ちがわかる自分が嫌だった。


「大丈夫よ。イン先生なら『快く』手伝ってくれるわ。うーん、多分いつもの薬学教室にいるんじゃあないかしら?今日は解散にしましょう。ヒトセ、先生のところへ行くでしょう?」


 ヒトセは頷くとすっく、と立ち上がり飲んでいた紅茶のカップを手に持ってティーセットワゴンに戻そうとして、ピタリと動きを止めた。


「片付け……」

「大丈夫よ、先輩が片付けてくれるから」

「オイ」


 ありがとうございます、と言いながらコールにお辞儀をしたヒトセはパタパタと教室から駆けて出て行った。


「当然、冗談よ。先輩にはもっと重大な仕事があるもの。元の場所が分かるのは私なのだし後で戻しておきます。先程言っていた空き瓶はヒトセではなく私に渡していただけますか?私が責任を持ってお届けいたしますので」

「重大な……?」


 クロエが何ということもなくさらりと気になることを言うものだからコールはびくりと体を震わせた。


 この優秀で誇りある魔法使いが今までの時間ここで上品そうな顔で大人しく猫を被っていたのはヒトセがいたからに違いないのだ。彼女を先に部屋から出したのが猫を脱ぐためだとしたら何を言われるか分からないと身構えた。


「ライリーの足が心配だから医務室へ連れて行って欲しいんです。先輩もついでに具合を見てもらうべきね。この時間なら医務室でご飯も注文出来たような気がするから2人とも食べ損ねずに済むとも思うの」


 ……めちゃくちゃに杞憂だった。

 コールは年下にここまで思いやられているのが不甲斐なくて恥ずかしかったし、もうなんというか頭が上がらないな、とも思ったし、口から火が吹けたなら煮込み料理が完成するくらいの火を出し続けていたろうに思う。


「おい、行くぞ」


 コールはそそくさと自分と弟のカップを片付けると逃げるように弟をひっつかみその場から離れようと立ち上がった。ライリーは急にひっつかまれて引きずられ、わたわたとしたが、本当に足を悪くしているらしく未だに足がおぼつかない。コール自身、大して具合は良くないが、睡眠不足だったために少しの合間居眠りしたことや、先程に紅茶を飲んでから大分楽に……。


 コールは思わずクロエを見つめた。クロエはライリーの方を向いていてコールの方には目も向けない。


「ライリー、足、そんなに悪くないといいわね」

「きっと大丈夫だよ!ホワードさん、片付け任せてごめんね、今日は……今日もありがとう!これはハルミさんにも言わなきゃ!へへ」


 クロエは返事をせず嬉しそうににこりと笑った。


 コールはライリーを肩に担いで、どうにも教室を出る気配のない彼女に何も言えないまま教室をあとにした。


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