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ハルミヒトセと願いの叶う薬  作者: 白梅つばめ
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コールと願いの叶う薬-1

 具合の悪い体を引きずって歩いて歩いて、なんとか手紙の指示通りの場所にたどり着けば、コールはここが目的地だ、と理由もないのに確信を持った。感覚的にここだ、と自分の中の何かが言っていたのだ。


 しかし、誰もいない人気の少ない路地だ。誰かの住居の立ち並ぶ入り組んだ道には願いの叶う薬をくれそうな誰かだとか、そういうふうな店だとか、そういったものは見当たらないように見える。少しの間あたりを見回していると、路地の突き当りの端にひときわ目を引く一角を見つけた。


 そうすることが自然なように気づけばコールは木の箱の乗った丸机と椅子の置かれたその場所の前に立っていた。


 その柔らかそうで年季の入った木の箱は洒落た顔をして全身に術式をまとっていて、よくよく観察せずとも何かの細工が施してあることが分かった。怪しいと訝しむよりはこれは何だろうと興味をひかれた。


 コールが箱に手を近づけると、机の上に次々と線が浮かびだした。『願いは?』という文字が浮かんだかと思えば、そこから矢印が伸び、浮かんできた手紙の絵に繋がった。そしてまた手紙の絵から矢印が伸びていき、伸びた先は、先程興味深く見ていた箱だ。

 手紙の絵を見て、自分の持っているこの場所を知らせた何も書かれていなかった手紙のことを思い出して取り出すと、今までどこにあったのか机の上にペンが転がり落ちてきた。


 つまりはこの手紙に願いを書いて入れろということだろうなと思いつつも半信半疑なまま言うとおり、願い事を書いて箱に入れた。


 パサ、と手紙が箱に納まった音がすると、机の文字が歪み『お返事は近日。これからもまじない屋をごひいきに』と浮かび上がった。それを読み終えてすぐのあたりで、フッと意識が途絶え気づけば表通りに出ていた。


 ああ、人避けの魔法だろうな、とそこだけ冷静に頭が回った。




「……実際に3日後手紙が届いて、その指示通りの場所にいくと俺の書いた願いの紙の巻き付いた小瓶が置いてあった。それ以後も指定の場所に行くと小瓶が置いてあったんだ」


 コールはそこまで話して、はああ、と長く長く息を吐いた。思いつく限り、話したい限りは話したが反応はどうだろうかと3人の様子を伺う。


「あのう」


 コールが一息ついてすぐにヒトセはおずおずと手を上げた。空気が重くて声をかけていいのかどうか迷ってしまったからだ。コールが自分の方を向いたのを見てヒトセは口を開いた。


「何度も薬を飲んだのは効かなかったからですか?それとも何度も飲む方がよいと思える何かがあってですか?」


 でも今の話ならば薬の説明などはなかったようだしとヒトセは口に出していない外に思考が独り歩きしていく。


「え……」


 そんなヒトセを前にしてコールはぽかんとしていた。


「あ……?確か一本目を飲んだら、具合まで少し良くなった、から?いや、2本目、3本目と飲むたびに効果を感じたから……?」


 クロエは慌ただしく思考を巡らせながらも疑問符を浮かべている様子のコールを見て奇妙な物を見たような表情をした。


「思い返せば返すだけ何故あんなに何度も飲んでいたのか……」


 それを聞いたライリーは声は出さずに口はあんぐりと開け、驚いた様子でコールを二度見した。

 風を切るように顔を動かしたライリーにコールは騒がしいぞと言いながらライリーを睨んだ。


「今すごく嫌な可能性に思い至って最悪な気分だ」


 コールは横の弟の頬をいじめながらなんというかもうこの場から逃げ出したいどころか遠い山にでも籠もって何もかも全て忘れたいくらいの心地であった。短く言えば複数回に渡って薬を飲むように誘導され、まんまと飲んでいた、ということになるからだ。


「私が調べた限り……といっても、願いの叶う薬を使ったんじゃないか、と言われいて、かつ『倒れた人』数人のことしか調べられていないのだけれど……」


 それを聞いてヒトセは、クロエがそんなことを調べていたなんて、と吃驚した。教えてくれても良かったのに、と少し悲しくなった。


 けれどすぐに、自分だって言わないで調べることは沢山あるし、手伝えたかといえばそうでなく、ただクロエのことを知りたがっている自分ったら、なんてどうしてやけにクロエのことを気にしていて、そして甘えていてるのかしら、と思って顔が熱くなった。


 そのことに気づいたクロエは、ヒトセの考えていることのおよそ全てを察して、それが全て自分への好意や信頼からのことだと思って、心臓が跳ねた。くしゃりとにやけて破顔するのこそなんとか耐えたものの、クロエはヒトセがかわいくていじらしくって仕方がなくなった。


「……ああ、ごめんなさいね。ええと、倒れた数人は手紙の噂や願いの叶う薬をどうやって手に入れたかということを、すっかり忘れてしまっていたの。そのうえそのことに違和感を覚えていないようだった。気づいたら手に持っていて、飲みたくて飲んだとか、なんとなく何かをして手に入れた気がするけれどくわしく思い出せない、とかそんな感じ。それって、はぐらかしているのかと思っていたけれど、覚えていなかったそうなの。先輩と違って」

「そんなのどうやって調べたんだ」


 怪訝な顔のコールに、クロエはそっと近寄って紅茶を注ぎ直しながらひそりと耳打ちした。


「願いの叶う薬ってどんなものなのかしら?と気になってる素振りを見せれば情報は洪水のように集まったわ」


 コールはそう耳打ちしたクロエの強い目の光にぞくりとした。


「探偵ごっこのようにこそこそ聞いて回ったのよ。ミーハーなのね、って思われているんじゃあないかしら?と、とてつもなく恥ずかしかったわ!」


 クロエはコールから離れながらそう言ってアハハ!と自虐的に笑ってみせる。それを聞いたヒトセが素直に関心したような顔をするのを見たコールは乾いた笑い声をもらした。

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