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ハルミヒトセと願いの叶う薬  作者: 白梅つばめ
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第三の勝負

 トス、トス、と暖炉の方へ足を進める度に背中がじわりとした。重さが、熱さが、前に足を踏み出させてくれる。そうして、ライリーはコールの横に並び立った。

 するとクロエはまたカードを読み上げる。


「第2の勝負で作った互いの薬の杯を交換し飲み干せ」


 チェスでもするかのように軽やかな動作でカツ、とコールから杯が回ってくる。ライリーも同じように杯を回した。


 こくり、と薬がライリーの喉を滑っていった。ヒトセは妖精の酔い醒ましだと言っていたが、酔っ払っていないのに飲んでも大丈夫なのだろうか?ライリーがすっかり全て飲みほしてしまってからそう思っていると、そのうちにコールも同じように飲み干した。その様子を見たライリーはもしかして早飲み競争であれば勝てるのではないか?とふわふわ思った。


 すると、まだ手の中にある杯が手ごとカタカタと震えだした。

 驚いて思わず手の力が緩み、ライリーは杯を落としそうになったが、杯は吸い付いたように手のひらに貼り付いている。


「うわ!」


 そのままピカ、と2つの杯がひときわ輝くと、次に皆が目を開けたときにはコールとライリーの間に恰幅のいいマダムが立っていたのだった。


 マダムは幻影魔法で作った幻や水魔法で写し取ったなにかの鏡写しのように透けていて、それでいて生きているかのように、生き生きとした目をしていた。冬の季節には少し寒そうな薄手でカラフルなパッチワークの生地にしっかりした刺繍があしらわれたドレス、その上にはエプロンをかけている。いうなればお母さん、といった雰囲気であり、彼女が身じろぐたびにまとめられた赤毛の尾が揺れた。


『ああ、そうかい、そうかい、互いの願いを譲れないから勝負で決着をつけたい!そういうことなら任せときな!』


 どうにも豪快な様子のきっぷのいいマダムである。呆けている皆を見て、ぱん、と手のひらを打つと全員の視線を集めた。


『さて、2人は勝負をしたいだろう?平等なやつがいいだろうね!そうさな……』


 透けたマダムはじろじろとコールとライリーを品定めするように観察し始めた。


 上から見下ろすように背伸びしてみたかと思えば急に床に腹這いになったり、動物を威嚇しようとしているような格好になったり、とあまりに個性的な動きでコールとライリーを観察するものだからヒトセたちはこれを笑えばいいのか、笑ってはいけないのか分からずに笑いを噛み締めながらその様子を見守った。


『決めた!!!アンタ達にぴったりな勝負は……そう!かけっこ!かけっこなさい!』


 びし!と人差し指で天井を指しながらマダムはそう宣言した。


「は?そんな勝負……」


 コールの出した一際低い声を遮るようにマダムは声の調子を上げながら、コールとライリーの腕をとる。


『こんな狭いところじゃあ出来ないわね、外へ行きましょう!』


「うわあ!感覚はないのに何かに引っ張られてる!感覚がおかしく感じて凄く気持ち悪い!」


 ライリーがぞっとしたような顔をしながら悲鳴に近い声をあげる。


 コールは抵抗しようとしているが、どうにも抗えないらしい。ライリーと一緒に子供に振り回されるぬいぐるみのように勢いよく引き回されながら薬草園の方のドアから外へ連れ出されていく。


「クロエ、ライリーったらほとんど引きずられてたわ!走る前に怪我しちゃうかもしれない!」


 ヒトセとクロエは慌てて2人を追ってドアから出て、せわしなく駆け出した。


「かけっこ勝負の前に先輩もライリーも消耗しそうね……」


 クロエの予想は的中し、ヒトセとクロエが2人に追いついたときには、仁王立ちする透けたマダムと、その足元に転がるコップス兄弟、といった状態になっていた。


『久方ぶりに出てきたものだから調子がよすぎたみたいだわ!』


 マダムは肩で息をするライリーとマダムの登場から行動全てに混乱しているコールを見下ろしながら高らかにあっはっは!と快活に笑っている。


『怪我なんかしてやいないだろう、立った立った!』

 

 マダムは再び何度か手のひらを打ちながらライリーとコールを急かした。

 マダムの言葉通りどちらも怪我はしていないらしく、疲弊しているものの動きに異常はなさそうだ。


『さあ、かけっこだからね、ああ、スタートとゴールが必要か』


 ライリーとコールの少し前のあたりの地面をガリガリと透けた足が地面を抉る。

 器用にスタート、とまで書いてからマダムはゴールはどこらへんがいいかね、とズンズン前方の方へ進んでいく。


 はた、とヒトセが周りを見渡せば、授業で運動をする際に利用している広場まで来ていた。ここは走りやすくていい場所だけれど、コールにとっても走りやすくなったということなのだから、よりライリーに不利になったのではないか、と困った顔になってしまう。


『ゴールはここだよ!』


 マダムは多少離れたくらいでは意思の疎通が出来なくなることはないらしい。何をいっているか一言一句聞き取れる。だというのに大げさ過ぎるほど大きな動きで、ここ!と主張している。


『じゃあ、早速行くかい?』

とマダムがせかせかと始めようとしたところで、ライリーが手を上げた。


『なんだい?』

「靴紐を結んでもいい?」

『ああ、もちろんさ、脱げたら大変だからね』


 ライリーはもう肩で息こそしていないものの、明らかにまだ疲弊しているままだ。


 ヒトセは息が整うまでちょうちょう結びの結び方を忘れたらどうかしら?と思ったものだが、ライリーはぎちぎちと足を縛るようにきつく靴紐を絞って固く結び、紐を固く結ぶのに普通より少しくらいは余計な時間をかけたものの、そう時間をかけずに結び終えてしまった。


「結べたよ!」


 そうしてすぐにライリーはひらひらと手を振りながらマダムに合図する。


 コールはどこか落ち着いた様子で立ち尽くしながらマダムの方を見ていた。ライリーもそれに並ぶ。


『位置について……よーい!ドン!』


 マダムは大きな動きで2人に駆けるように指示した。


 ここからは結論から言おうと思う。


 第3の勝負はライリーの圧勝であった。ライリーはあのコールから勝利をもぎ取ったのだ。


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