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ハルミヒトセと願いの叶う薬  作者: 白梅つばめ
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兄-1

「さっきもいったとおりコップス兄には逃げられたわ。もしかしたら、と思ってランベッド通りの6-5のあたりに行ってもみたけどやっぱり捕まらなかった」


 ヒトセ、クロエそしてライリーは学校の図書館に来ていた。


 土日は時間によっては本を借りることは出来ないが、図書館そのものは解放されており、宿題をやるために使う生徒もいれば、許可を得た外部の人間が来ている場合もある。

 今日は人が殆んどいなかったため、3人は個室で広い自習スペースを陣取っていた。


というのも、オリビアの家を出て数歩歩いたあたりで、

「どうしても今調べたいことがあるの。図書館へ行ってもいいかしら」

とヒトセが提案したからであった。


 その言葉通りにヒトセは図書館に着くとするりと消え、自習室を陣取ったクロエとライリーの元へ本を抱えて戻ってきて、机に広げ読み始めた。


「ええと、何から、話そう」


 クロエから先ほどの報告を受けて、そしてヒトセは調べものをしている、となれば今度は自分が話す番だ、とライリーはぐっと拳を作る。


「話したいように話していいわ」


 隣に座るクロエがそう言うと同時に、ヒトセも本から顔を上げ、同意するようにライリーに目配せをした。ライリーはあー、とかえっと、と言いながら、なんとか話し出した。


「コップス家は、ずっと、魔法使いの家で。それもなんというか、その、優秀な家なんだ。そう、兄さんみたいに。兄さんはかなり小さいときから魔法を使えて、流石コップス家の人間だって言われてて……」


 兄さんは風を使う魔法が得意なんだよ、とライリーは少し自慢げに言う。


「ぼ、僕の髪が、お祖父さんと同じ……コップスの家の髪の色だから、お祖母さんは僕が魔法使いだって疑わなかったし、期待していた、んだと思う。魔力は生まれたときからあるか分かるけど、魔法が使えるようになる時期は人それぞれ、だから」


 ライリーは自分の髪をくしゃ、と掴む。ライリーの髪は夕焼けに浮かぶ金の雲のような色合いで、確かに兄弟ながらコールの髪色とは違っている。


「それでも小学校に入るくらいまでには魔法使いかどうかは分かるのが普通、で、魔法も家系に似るのだから、僕は魔法術師だろう、という結論が出た」


 最善を尽くして魔法使いとして目覚めさせようとしてくれていた祖母の落胆とその末の剣幕は恐ろしく、母も僕も怯える以外のことを出来なかった、とライリーは何処か遠い国のことを話すように言う。


「兄さんの通っていた小学校は魔法使いの学校だったから、僕は母さんの実家の……ばあちゃんっていう魔法術師の大先輩がいて母さんの母校も近いテイル家に移ったんだ。母さんも一緒に、ね」


 ライリーは話しながらだんだんと頭が重くなっていくようにゆっくりと俯いてしまい、机の木目をじっくりと見つめるような姿勢になっていった。ヒトセとクロエがあまりに静かにじっとしているものだから、木目に向かって一人言をいっているような気分になってきて、握りこんでいた拳を少し緩めた。


「だから兄さんと一緒に過ごせたのは小学校に入る前の頃までで、そのあとにきちんと再会したのは、2年前の夏に、兄さんがこの学校に入学することになってお祝いをしに行ったときなんだ。で、でもね、そのときも、その冬も、その次の夏休みも怒鳴ったりはしなくて」


 ライリーはもはや兄のことをちっともよく知らないのだろう、ということくらい自分でも分かっていた。考えていることは全く分からないし、好き嫌いも小さい頃から変わっていることも多いだろうから。


「小さい頃も一緒に遊ぶことは多くなかった、けど、兄さんは面倒見がよくて、僕は沢山助けてもらった。仲は、悪くなかったんだ。でも再会した兄さんは、魔法使いらしい……とは違う、けど」


 冷ややかである、とも嫌悪感がある様子である、とも言えるのだろうが、全く情がないとも言えない、簡単には言葉の見つからない複雑な態度であったとライリーは記憶している。兄の瞳の中でゆらゆらと揺れる自分への弱くはない感情が、少なくともいいものばかりではないことは自分の不出来さも相まって想像はついたが、その時期までは仲のいい兄弟のものとは程遠くとも会話をすることが出来た。


「…はじめて兄さんに怒鳴られたのは去年の冬休み」


 2人は今どんな顔をしているだろうか。少し気になって、ライリーはそろ、と顔を上げた。


 ああ、こんな話をしたのははじめてだったけれど、話したのが2人でよかったなあ、ライリーはそう思った。つむじくらいしか見るものもなかったろうに目をそらさずにいてくれたのか。じわじわと2人の真剣そうな顔が染みてくる。


 ライリーは椅子に座り直して顔をあげて続きを言った。


「兄さんが何かの薬を飲もうとしていたのを見た日だ」




 ライリーは少しずつろうそくに火を灯していくように、ぽつ、ぽつ、と語りだしていく。

 ヒトセもクロエももう下を向いていないライリーをみつめながら話を聞いた。


「去年の冬休みもコップス家に行ったんだ。兄さんも学校から帰省していて……」


 祖父母と父母がそろって夕食後にお酒と談笑を嗜み始めたから、兄弟はともに先に席を立ち、それぞれ過ごしていた。


 ライリーの部屋はコールの部屋と隣同士であり、コールが夜中部屋を抜け出せば音ですぐに分かる。

 そういえば、とベッド横に置いてあるばあちゃんから預かった兄宛のお土産を掴むと、そろそろと兄の歩いていった方へと歩いた。

 古びた廊下はこの時間になるとろくに明かりがないから、うっすらとした光魔法の光がすぐに目にとまり、兄が何処に行ったかすぐに分かった。


 キッチンだ。


 キッチンを覗けばコールは小瓶をもっていて、あと少しで飲むところ、という場面であった。


「風邪薬?」


 兄は確か1週間ほど学校で寝込んでいる。けろりと直して以降はなんともないとのことだったが、そう学校から遠くもないのだし一度実家に帰るべきでは、などと話していたほどの具合だったから家族の前で薬を飲めば心配をかけてしまうかもしれない。だからこっそり飲んでいるのかなあ、と思いそう尋ねた。


 夏までの兄であれば、そう、でも違う、でも一言二言放るように返すか、聞こえなかった顔をするだろうと思った。ばあちゃんの土産を渡すきっかけになればなんでもよかったから、まずは自分が来たことに気づいてもらえばいい、とライリーは自分の声を聞いてピクリと眉を動かした兄の様子を見て、しめたものだと思い、土産を持ち直す。


「なあ、本気でそれなのか?」

「へ?」


 我ながらこれ以上ない阿呆面をしているだろうなあ、とライリーはどこか冷静に思った。


「それ?」


 あまりに脈略がなさすぎて何のことだか分からない。ライリーはここに来て兄の機嫌がそうよくもないことに気づいたが、後の祭りだ。


「冗談ではなく頭が悪いのか?」


 兄は呆れているのか苛立っているのか分からない表情をしていた。兄さんたちと比べればそりゃあ勿論悪い部類に入るかもしれないなあ、とライリーはぼんやりする。


 その様子が余計に気に障ったのか、兄はギロリとライリーを睨み付けた。


 これまでの兄は対応が冷めていようとも、こんなにも激しいような態度をとっていただろうか?今に歯ぎしりしそうなほどの形相に思わずしり込みした。


「ご、ごめんなさい」

「何に対しての謝罪なんだ?」


 何に、と言われると何になのだろうか。何が気に障ったのかは分からないが兄を怒らせていること?頭が悪いこと?……魔法術師であること?


「謝ってどうにかなる問題だったら、こんなことになっていないだろう!」


 ビクリ、とライリーは体を震わせた。薄れかけていた記憶の中の、お祖母さんの顔がふと、思い起こされたからだ。


「出ていけよ」

「ぁ」


 そうだ、確かにこんな、こんな感じだった。


「出ていけ!」


 何がこんなにも兄を怒らせたのか分からないままライリーはキッチンから逃げるようにして立ち去った。


 どたどたともつれる足で部屋に帰る途中、兄の部屋のドアの前に土産を置くと、そのまま自室のベッドに深く潜り込んだ。


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