まじない屋のVip
「それにしても、ライリー・コップス、この情熱は授業にいかしなさいな、貴方だけよ、先生に心配そうな顔までされながら小テストを受け取っているの」
クロエは苦虫を噛み潰したような表情でライリーを叱咤した。
「覚えるのはまだいいんだけど、考えるのがちょっと……」
「考える以前にもう少し解答欄を埋めてほしいって言われてたでしょう」
「でも本当に考えるのが苦手で、魔法植物学のレメナスとハチエムの茎の課題もまだ終わってないんだ。明日までなのに」
それを聞いたクロエの目が泳ぐのをヒトセは目ざとく見つけた。
「クロエも終わってないみたいよ」
「魔法力学と地学の課題が今日までだったんだもの」
生徒は必修に当たるような基礎科目以外は興味のある授業や適正のある授業などを各々が取っているため、運が悪いと課題を大量に抱えることになるのだ。
「レメナスとハチエムということは、どちらがどちらでしょう、って課題かしら?」
「ええ、そうよ、どうして分かったの?」
「私がその2本で課題を出すならそうするわ」
茎だけを見て何の植物か判別するのはいくら植物に明るいヒトセであっても難しい。だけど、レメナスとハチエムはぱっと見ただけでは判別が難しいが、工夫次第ではっきりとどちらがどちらか分かるのだ。むしろこの2本であるから出来る課題といえる。
「レメナスとハチエムの茎が1本ずつ配られたんだけど、それを見分けて、茎を処理してレポートに貼って、それぞれの横にそれらの特徴を書け、という課題なの、もし見分け損ねてあべこべに特徴を書いていれば点数はないっていうのよ!」
「努力は認めます。ですが、点数ありません、ともいってた……」
クロエとライリーが口々に言う。
今年の1年生の魔法植物学はアドレイの担当であるため、ヒトセは話を聞いているだけで厳しいのだろう空気を感じた。
「葉っぱさえついてれば分かるのに!」
クロエがそう嘆くとライリーはうんうん、と頷く。レメナスとハチエムは葉の形がかなり異なるからだ。
「茎だけでも分かるわよ。分かるから問題になっているのだから……」
ヒトセはこれ以上口を開くと答えを言ってしまう気がして口を押さえる。
「それはそうだけど」
「……レメナスとハチエムってそれぞれどういう物に使われるのかしらね」
ヒトセの言葉にクロエとライリーが首をかしげる。
「使い方の違い……?」
「何種類かレメナスとハチエムを使って作るいろんなものの作り方を眺めてみたらどうかしら」
「あ……」
ヒトセの言葉にクロエはなんとなく何をすれば答えにたどり着けるかを掴んだようだ。
ライリーはといえばヒトセのヒントを聞いてしばらくの間考え込んだあと、深く頷き、笑顔になると、
「ねえ、まじない屋の会員で、特別なVipになると願いが叶う薬がもらえる、って話、聞いたことある?」
話題を変えた。本当に考えることが苦手らしい。
「もしかしてなのだけれど、まじない薬が効くかどうかを教えて欲しいってそういうことなの?」
お店の薬がきちんとしていればそれだけ願いの叶う薬もきちんとしているだろう、ということだろうか。
「ううん、違うよ。だって願いの叶う薬なんて、あるかどうかも分からない、でしょ」
「それもそうね」
ライリーとヒトセはうんうん、と頷きあう。
「貴女もしかしてそのvipになりたいからこれだけお菓子を買ったわけ?」
クロエはレポートを見下ろしながらあきれたような顔をする。ライリーは頭をかきながら困った顔をした。
「どんなに探して回ってもvipになったって人はいないのに噂だけ、出回ってる。でもどんな噂にも出所はあるはずだから、気になって」
「vipになれるって噂で貴方みたいに沢山買わせようとしているんじゃあないの?」
クロエのその言葉にライリーの周りだけ時が止まったかのようにビシリ、とライリーが固まった。
「も、盲点だった」
「でも、私もその噂、聞いたことある、というか心当たりもあるわね」
クロエは口元に手を寄せながら、ええと、と心当たりについて思い起こそうとする。ライリーはその様子をじっと見つめていた。
「私、合唱クラブのピアノ伴奏を時々手伝っているのだけれど、急に歌が上手くなった先輩がいて。芸事だもの、コツをつかんで急に上達して見える、なんてこともなくはないけれど……」
「急すぎないかしら、もしかして、と噂されているわけね」
ヒトセの相づちにそうなの、と言いながらクロエは続ける。
「彼女、練習は人一倍頑張っていたから、納得はするのだけれどもね……彼女が足繁くまじない屋に通っていたものだから」
クロエは真剣な顔をして聞いていたライリーに言う。
「でも、クラブの殆んど皆が通っていたり行ったことはあるお店だから冗談半分みたいなものよ。誰も本気にしてないわ」
つまり、信憑性があるかは分からないわよ、と。それでもライリーは気になるらしい。
「その先輩は、vipじゃない?」
「だったとして言わないでしょう、聞くだけ無駄じゃない」
その通りだと思ったのかライリーは黙ってしまった。
「ねえ、その噂ってそんなに流れているの?」
「ごく一部の人しか知らないと思うわ」
「それって殆んどのひとはうっすら知っている、といった意味ではない?」
「違いないけれど、でもこれはほんとにそうなのよ。相手にするほどでもないでしょう、忙しいもの。課題とかもあるし」
はあ、とため息をついたクロエがはっとする。
「課題!」
「忘れてたのに」
「忘れちゃあだめでしょう、頑張って、ふたりとも」
しおしおとしぼみだすクロエとライリーにヒトセは声援を送る。
「いい点をとれたら一緒にまじない屋にいきましょう?ね?」
ヒトセのその提案にクロエは髪が遅れて揺れるほどの勢いでライリーの方を向く。ライリーは小動物のようにびく、とした。
「コップス、指示は出すから手分けして図書館で本、探しましょう!」
クロエの様相があまりにも恐ろしかったのか、そもそも押しに弱いのかライリーは
「わ、わかった」
と首をかくかくと縦に振った。




