表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

夢中な夢想

彩菜は街をしばらくぶらついて、8時過ぎにホテルに帰ってきた。

夕食は近くの定食屋でも探そうか、と思ったけど結局コンビニで適当に見繕って買ってきた。


観光客ばかりの那覇の街の中で、一人定食屋でご飯を食べる女子大生。

沖縄に一人旅。しかもバイクで。

よくよく考えたらすごくシュールだ。

普通は夏のツーリングスポットと言えば北海道なのに。

そう思い苦笑いしながら、ホテルのエントランスをくぐる。


部屋に戻ってきて、あえてホテルに置きっぱなしにしていた携帯を見る。


ほらやっぱり。

仕事の電話ばっかり。

マネージャからの留守番電話が10件以上、センターに溜まってる。

やっともらえた1週間の休みなのに、これじゃ休んでる気にならない。

そもそも船便の関係で、明後日には船に乗らないといけない。

あと二日しかないのに、こんな仕事の電話なんてかけてこないでよ。


とふと思い当たる。

今回の沖縄ツーリングは、マネージャには何も伝えていない。伝えているのは父親にだけだ。

もしかしたら、それがばれてしまったのだろうか・・・。


そう考えながら、ビニール袋から買ってきたお茶を取り出して飲む。

おにぎりの封を開けながら、わざわざ持ってきた『琉球の神話』という分厚い本を取り出す。

どうせ一瞬前まで考えていた悪い事など、この本を読み出したらあっという間に忘れられる。


琉球神話。

日本神話と似ているようで違うような、そんな神話。

何度も読んでいる本なのに、読み始めてみるとあっという間にのめり込んでいく。


【『アマミキヨ』と『シネリキヨ』と呼ばれる二人の神々は、天帝から琉球の国作りを命じられ、その地に降り立った。しかしそこは海ばかりで何もないため、仕方なく天から土木草石を運び、琉球の島々を作った。その際に足場になる部分を七ヶ所作った。それが、今もなお残る『琉球開闢七御嶽』となった。のちにアマミキヨとシネリキヨは子供を産み育て、島に人々が増え始めた。後に二人が亡くなった。子供たちは嘆き悲しみ、彼らの墓を作った。浜比嘉島にある、『アマミチュ』と『シルミチュ』がそれぞれ生活した場と墓場である。】


何度読んでも胸が高鳴る。

神様が、しかも沖縄を作った創世神が住んでた場所と、死んだ場所が、今でも残っているなんて。

日本の開闢神は「伊弉諾尊」と「伊弉冉尊」だが、伊弉諾は滋賀県の『伊弉諾神宮』で「鎮まった」とされているだけ、伊弉冉は今なお、出雲や熊野など、多数の説がある。

しかし沖縄には間違いなく「有る」のか・・・。


これはぜひとも行ってみなくてはいけない。

だが、『島』と言うくらいだから、舟に乗っていくんだろうか。

そんな風に考えながら、バックパックから、ライダー用の地図『ツーリングマップル』を取り出す。

浜比嘉島は・・・。沖縄県うるま市勝連にある。

と、彩菜は地図を見て驚く。


「海の真ん中を道路が5キロちかく通ってる。これが例の海中道路かぁ」


ついつい声を出してしまう。

海中道路は、全長約5キロ。沖縄本島の勝連半島から平安座島、宮城島、伊計島の3島を結ぶ、浅瀬の上に直に作られたまさに「海の真ん中の道路」だ。


「あ~、こんな所バイクで走ったら気持ちいぃだろうなぁ・・・。しかもその先には神様のお墓があるし。うわぁ、テンション上がるなぁ。」


そんな一人言を話しながら、改めて地図に目を落とす。

地図で見ると、浜比嘉島には宮城島から『浜比嘉大橋』という橋を通れば行けるようだ。

那覇からの経路を地図でたどると、なんと道中に『中城跡」と『勝連城跡』がある。これを見ない手はない。


にこにこしながら地図を見ていると、不意にベッドの上の携帯が震えはじめた。


くぐもった低いバイブレーションの音。

この音を聞くだけで、一気にテンションが下がる。

ディスプレイに現れたのは、案の定マネージャの沢井からの電話だ。

キンキンくる甲高い声でまくし立てる、40歳近いこのマネージャは、彩菜はあまり好きではない。

少し迷ったが、ここまで何度も電話をかけてくるのは何かあったのだろうかと思い、コールボタンを押す。


「はい、もしもし」

『あ、A-YAちゃん?いったいどうして電話に出てくれないの。びっくりしたじゃない。』

「すみません。携帯を持って行くのを忘れて出かけていたんで・・・」


やっぱり金切り声が頭に来る。それを押し隠して、彩菜はとっさに嘘をついた。

それを聞いて、沢井がさらに甲高い声でまくし立てる。


『すみませんじゃないわよ。あ、それどころじゃなくて、携帯会社のK社から電話があって、CMで起用したいって話があったのよ。それでね、明後日の夕方に、札幌の・・・』

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。あたし今休暇中なんですよ?なんだって仕事を入れるんですか」

『仕方がないでしょう。相手の社長と広報部長が、わざわざ都内から出てきてくれて直々に食事に招いてるんだから。どうせあなた市内にいるんでしょ。仕事って言っても、食事に付き合うだけだから、数時間だけじゃないの』


しまった・・・。

ばれていないのはラッキーだったが、逆に厄介なことになってしまった。

『今沖縄なんで無理』となんか言えば、うんざりするほどの時間この金切り声を聞く羽目になりそうだ。

仕方なく、彩菜はもう一つ嘘をついた。


「そんな急に言われても無理ですよ。明後日は一日友達と遊ぶ予定を・・・」

『そんな事、どうでも良いでしょう。A-YAちゃん、仕事と遊びとどっちが大事なのよ。仕事に決まってるでしょ?友達にはその時間だけ仕事が入ったと連絡を入れておけば問題ないでしょう。』

「何をふざけた事を言ってるんですか。勝手に仕事を入れたのは・・・」

『えぇ、私の方ね。でも何か問題がある?今が一番大事な時なんじゃないの?それなのに一週間も休みを取るなんて。いい?先方にはもう了承の旨を伝えてあるんだから、必ず来なさいよ。場所は・・・』

「・・・メールで送ってください」


それだけ言うと、彩菜は通話を切った。そのまま電源も切る。

そして枕に向かって思い切り携帯を投げつける。鈍い音を立てて、携帯はベッドの上を転がった。


もう、嫌だ。

自由に遊ぶ事も許されない。友達と遊びになんて嘘をついたけど、友達だってみんな『A-YA』としか見てくれない。

仮に本当に約束していたとしても、沢井の言うとおり、一言連絡すれば『しょうがないよね』ってあきれたように笑うだけで、何も問題ないだろう。

私は、普通に大学で勉強して、普通に友達と遊びたいのに。


さっきまでの楽しい気分は、もう全くなかった。

のろのろとベッドに横になると、天井が滲んでいた。


(霧の中みたいだ。まるで、今の私だ。)


そう思って眼を閉じると、滴がこめかみを伝った。

沖縄本島と、平安座島を結ぶ『海中道路』ですが、晴れた日に行くと本当に綺麗です。


本当に直線で5km近くの道路が走っており、爽快感はピカイチです。

個人的には沖縄3大ドライブスポットだと思っています。


が、いかんせん厄介なのが制限速度。4車線もある道路なのに、しかも直線で信号ひとつないのに、制限速度が50km/h。

そしてしょっちゅうネズミ取ってるパンダ色の車。


皆さんも沖縄に行かれた際はお気を付けあれ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ