神々が息吹く森 ~God Breath in the Forest ~
ひめゆりの塔を離れて西に10キロ弱走ると、左手に斎場御嶽が見えてくる。世界遺産にも登録された、沖縄で最大かつ最高の霊場として知られる。
瑠依は斎場御嶽にはいる手前にある駐車場にバイクを止め、瑠依は御嶽の森を見上げる。
(圧倒・・・されるな・・・。)
得も言われぬ圧力を、御嶽に入る前から感じる。
大自然の力なのか、それとも沖縄に住まう神々の御業なのか。
瑠依は一つ深呼吸をして、斎場に足を踏み入れた。
一歩踏み込んで、瑠依はたじろいだ。
そこここに、力を感じる。
生い茂る木々から、むき出しの石灰岩から、点在する拝所から。
穢れた物が、強制的に浄められるほど澄みきった力。
奥に進めば進むほど、その力はより強く、よりはっきりと伝わってくる。
自分がいかにちっぽけで、自然の前では無力な生き物なのかを。
浄められていく、自分の穢れた心を。
途中、道が左右二手に分かれる。
(右は・・・あとからにしよう。どうも怖い・・・)
しばらく逡巡したあと、瑠依は左へと進んでいく。
しばらく進むと、開けた場所にでる。
大庫理と呼ばれる拝所である。
近づいてみると、説明の書かれた看板があった。
(なるほど・・・聞得大君になる儀式の行われた拝所か・・・)
その拝所は、せり出した岩の下にある。
大きな地震でもあれば、崩れだしてもおかしくないような拝所。
しかし、せり出した岩からは、石灰岩でできた土地特有の鍾乳石が垂れ下がっている。
何十年、いや何百年何千年と変わらぬ姿でここに有った、と言う証だろう。
瑠依は、黙礼をする。
理由は特にない。自然と頭が下がる。
神々が座すこの場所で、大自然の息吹くこの場所で
ちっぽけな自分ができることと言えば、頭を下げることだけだった。
大庫理を参拝したのち、先ほど二手に分かれた道に戻る。
片方の道はまだ行っていないが、それでもなお瑠依は躊躇していた。
本当に向かって良いのか。
なぜだかそちらに行くのに抵抗を感じる。
「・・・気のせい、だよな。たぶん」
瑠依は独りごち、先へ進んでいった。
先ほどの大庫理とは違い、次の拝所はすぐに見つかった。
斎場御嶽最高の霊場、三庫裏だ。
巨大な岩と岩が、ともに寄りかかるように三角形の通路を作る。
おそらく地震か何かで岩が割れて、偶然そのような形になったのだろうが
それすらもこの場では必然であったように感じる。
三角形の通路を通り左に目を向けると、生い茂る木々の隙間から久高島が見える。まるで海に浮かぶ舟のようだ。
その姿に、瑠依は再び黙礼をする。
「にぃにぃ、御願ぬやり方がちがうさぁ」
ふと、後ろから声をかけられる。
みれば70歳過ぎの小柄なおばあさんだった。
「あぁ、すみません。特に礼儀を知っているわけではないので、我流でやってしまいました。」
「ふーん、そうね。・・・にぃにぃ、すぬクトゥバ使いはウチナンチュではないね。」
「え、えぇ。出身は内地です。R大に行っているので、その関係で春から沖縄に・・・。」
「ふーん。にぃにぃ、ナイチャ-ぬイキグァ-にはないスィイダカさぁね。」
「え?イキガ-がないスイダカですか?」
ただでさえ沖縄のおばぁの言葉は分かりにくい。その上知らない単語が混ざれば、本当に外国語になってしまう。
実際、すでにほとんど意味が分かっていない。
おばぁもそれを察したらしく、にっこりと笑う。
「あぁ、ウチナーグチでぃはニィシェには分かりにくいね。ちゃんとィヤァにも分かるように話そうね。」
「あ、えぇ。そうしていただければ助かります。」
ただ、それでも分からない単語は多い。ちんぷんかんぷんになりそうな予感はしながらも、苦笑いで答える。
「イキグァ-は、内地ぬクトゥバで言えば『若者』ちゅぅ意味さーね。スィイダカは・・・そうねぇ。生まりながらにセジが高いちゅぅわきさぁ。ウチナーぬイナグァにはスィイダカが多くてから、神人と呼ばりるノロやユタが大勢いたわけ。わんもセジが強くてから、他人ぬセジの強さがなんとぅなくわかるんさ。」
「は、はぁ・・・。」
「たとぅいば・・・にぃにぃ、いちどぅニライカナイぬすばまでいきなすったね。」
「えっ・・・。」
「ィヤァのオナリはニライカナイまで行ってしまった。違うね。」
背中に汗が伝う。おばぁが言っていた『わんもセジが強い』というのは、おそらく事実なのだろう。
と言うことは、『ナイチャ-(内地人)のイキグァ-(若者)にはないスィイダカ』というのも、そうなのかも知れない。
でも、オレが?生まれながらに霊能力が高いだって?
しばらく呆然とおばあを見つめていると、居心地が悪くなったのか、おばあのほうから目をそらした。
「まぁ、深くは聞かないさぁ。ただね、くぬ時期はぁ気ぃちきたほうがいい。」
「気をつけた・・・?何にですか。」
「さぁ、色々さぁ。いい事にも悪い事にも、気ぃちけんさい。じゃぁね、あんしぇーや。」
そう言うと、おばあは三庫理からすたすたと出て行く。瑠依が慌てて追いかけると、すぐ側にある拝所にしゃがみ込んで御願をしている。瑠依が一言二言話しかけたが、聞く耳も持たない。残念・・・というか非常に気になるが、太陽はすでに夕方の色味を帯び始めている。できるだけ早く、今夜の宿を探さないと、面倒なことになりかねない。
仕方なく、瑠依はおばあにひとつ頭を下げ、駐車場へと戻っていった。
「気ぃちきんさい。いくらオナリでもマジムンにならんたぁ・・・」
ぽつり呟くおばあの一人言は、海風に煽られた木々のざわめきで、瑠依には聞こえなかった。
遅くなりました~(汗)
約3ヶ月ぶりの更新です。
そして、すみません!
ウチナーグチ、めっちゃ適当です(大汗)
ホントにあってるかどうかなんて全く自信もなく・・・
「ウチナーっぽいグチ」と言うことで(苦笑)