誰ともなくする会話
9.誰ともなくする会話
~Soliloquy~
風が気持ちいい。
止まったら体中から汗が噴き出る暑さなのに、走っているときは心地よさしか感じない。
青と緑の景色は左右で溶けるように流れる。
ふと、木の周りをぐるぐる走っているうちにバターになってしまった虎の話を思い出す。
右に、左に。
海岸線の複雑な地形に沿うように敷かれた道を、私は相棒とともにひらひらと舞う。
時にステップが道路に擦るくらい、相棒と一緒に踊る。
最近は仕事や勉強に忙しくて、こんな風に走る機会がなかった。
タイトなコーナーに入ると、心地よい緊張感に心が躍る。
君もきっと、すてきな相棒と走っているときは、こんな風に感じていたのかな。
あの時も、そんな風に感じていたのかな。
そういえば、今日出会った君はどうなんだろう。
君によく似た、君と同じ相棒を選んでいた、今日出会った君は。
同じように感じてくれていれば、なんか嬉しい。
でも、もういない君がいるようで、ちょっと複雑な感じ。
そっか。
君がいなくなって、もう2年経ったんだ。
あの日は、春なのに目が回るような暑さだったのに
君がいなくなるその時だけ、すごい雨が降ったんだ。
君がいなくなったことを、神様も悲しんでいたのかな。
『大丈夫すよ、すぐ戻ってくるから!』
それが君の最後の言葉。
いつでも明るくて、暖かくて、時に厳しくて。
調子の良いことばっかり言って、私も明るい気分になって。
まるで沖縄の太陽みたいだった君。
嘘つき。
何が『すぐ戻ってくる』すか。
1日以上戻ってこなかったし、
戻ってきたら戻ってきたで、全然喋ってくれないし。
君も、君の相棒も。
・・・今日出会った君は、そうならないよね。