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心の整形手術

作者: .

心の整形手術で心がいじれるお話です。

 「田中さんの心はかなりひどい形に歪んでしまっています。ですので、今すぐ心の整形手術を行った方がいいかと」

 医者の口から放たれた言葉が私の耳に突き刺さる。

 私が聞き間違えていなければ、私の心が歪んでいるとのことだった。

 心当たりはあった。最近、努めている上司から自分のミスをかなりひどい言葉で注意されたり、人間関係がうまくいってなかったりと、ストレスをためてしまっていたのだろう。

 そこで、唯一信頼していた同僚にこの病院『心の整形外科』を紹介され、予約もしてくれて、電車を使い遥々訪れて今、診察を受けている。

 「なんとなくそんな気がしていました。先生に見てもらって正解でした。私の心は同歪んでしまっているのでしょうか?」

 私の言葉を聞いた医者は明らかに動揺していた。少し息を吐いてから、吐き出すように言葉を口にした。

 「性格が悪かったり、人に嫌われる歪み方をしています」

 「は?」

 思わず口から言葉が漏れ出してしまった。

 私の性格が悪い?人に嫌われる心?ふざけるな。

 私の心が歪んでしまっているのは、あの鬱陶しい口うるさい上司のせいだ。私のことを理解しない人間どものせいだ。 

 それがなんだ?上司にひどい言葉をかけてきたのは私のミスもあるが、あいつの人間性の問題だろう。

 そう思っていたのに、その結果を引き起こしたのは私の心のせいだと言われてしまっているみたいでとてもイラっと来た。

 

 そして私は大きな物音を立てながら立ち上がり医者に向かって大きな声を出した。

 「心が歪んでいるのはどちらですか!人の心を見て、心が歪んでいるなんて失礼だと思わないんですか!?」

 医者は驚いたような顔をした後に真剣な顔で私を説得するようなやわらかい口調で語りだした。

 「そう思わせてしまったのであれば大変申し訳ありません。心が歪んでしまうのは成長の過程や大きなストレスが原因です。それに加えて、その歪みのせいでさらにストレスが加わり、さらに歪んでしまう。仕方のないものです」

 医者は私が言いたかった事を代弁してくれているようで気分が落ち着いてきた。

 「ですので、その歪みをなくして美しいものを美しいと思えるようにするのが心の整形です。美しいものを見て妬ましいと思う人生はお辛いでしょう?田中さんも辛かったからこそ私の病院へ来てくれたのだと思います。よく頑張りましたね」

 瞬間私はその場に崩れこんでしまった。

 うれしかったのだ。

 私のことを誰よりも理解してくれる場所がここにあったのだ。

 「私も心が歪んでいた一人です。以前までは精神科似通っていたのですが、精神科は脳のホルモンや神経を扱っているので私には合わなく苦労しました。だからこそ、『死が救済』なんて考えるようになってしまう前にここに来てもらえてよかった」

 私の苦労を理解してもらえたように感じて私は涙がずっと止まらなかった。

 「先生、手術はいつ受けられますか」

 この先生なら信頼できる。そう思った私は先生の差し伸べてくれた救済の手を握り、頼ることにした。

 「今日は珍しく時間に余裕があるのでこの後すぐに手術を行えますよ」

 「それでしたらお願いできますか?」

 「分かりました。それでは簡単に料金などのご説明に移らせていただきますね」


 「そして、料金は前払い方式担っているのですが問題ないですか?」

 「はい、問題ないです」

 私はこの場に大量の現金を持ってきていなかったが、一括で払える金額であったし、クレジットカートで支払うことにした。

 「ありがとうございます。それではこちらに」

 先生は席を立ち上がったので私も先生に続いて立ち上がり、先生に続いた。


 少し歩くと手術室に到着したようだった。

 「それでは壁に書いてあるマニュアルに従って室内に入っていきましょう。私も一緒に入ります」

 はい。と返事をして体を清潔にして、医療ドラマで見たことあるような格好になっていく。

 そうして歩いていると、いかにもな手術室の室内についた。

 「こちらに横になっていただけますか?」

 先生の指示の通り言われた場所に横になる。

 「それでは今から手術を始めます。簡単な手術ですのですぐ終わります。麻酔を打つので少しチクッとしますよ」

 はい。と返事をしようと思ったが、すぐに意識が朦朧としてきて私の意識は暗闇に落ちた。


 目が覚めると普段眠っているベッドと違う質感と、見慣れている天井とは違った景色が体に入り込んでくる。

 「目が覚めましたか?」

 声のした方に視線を向けると先生がベッドに腰かけていた。

 なんて優しい方なんだろうと感銘を受けた。

 「手術の方は成功しました。麻酔がなかなか切れずに眠ってしまっていたので院内のベッドに移させていただきました」

 こんなどうしようもない私のために、時間を使わせてしまったことに申し訳なくなる。

 「本当になにからなにまですみません…」

 そうすると先生は二コリと笑って

 「大丈夫ですよ。患者に向き合うのが医者の仕事であり喜びですから」

 また感銘を受けていると先生は続けた。

 「コミュニケーションもしっかりとれているみたいで安心しました。麻酔もしっかり抜けているようなので本日の手術は終了です。お疲れさまでした。」

 先生が深々と頭を下げられたので、私も深々と頭を下げる。

 「こちらこそ、こんな出来損ないで生きる価値もないような私に長いお時間を使っていただいてありがとうございました」

 そう言い先生に対して頭を下げて病院を出た。

 久しぶりに見た夕焼けは、とても美しく見えた。


 帰り道はとても気分がよかった。

 花屋に並ぶ花たち。希望に満ちている子供たち。人間の営みを見守る太陽。この世界がどれもきれいに見える反面、自分がとても汚く思えてきた。

 この世界はどれもきれいだ。先生がそうしてくれたから。

 美しいものを美しいと思えるように、妬ましいなんて思わなくなった。

 その分、自分の汚さを恥じるようになった。

 そんなことを考えながら歩いていると、周りに注意が利かなく人とぶつかってしまった。

 すみません。と、とっさに謝るもその人は舌打ちを残して私のことを見向きもせず反対方向に行ってしまった。

 とても申し訳なかった。

 

 そんな風に世界に汚くて醜い奴だと笑われている感覚に陥りながら帰りの電車に乗る駅についた。

 そして電車が通過するのを見て私は閃いてしまった。

 ここで死ねば私はもう笑いものにならなくて済む。

 しかも、心がまた歪んでしまう心配もない。

 私はスマートフォンを取り出し、心の整形外科の予約を取ってくれた同僚にメッセージを送った。

 『心の整形外科の予約、本当にありがとう。おかげで世界がすごく美しく思えるようになりました。今まで本当にありがとう。この美しい世界にふさわしくない私はここで終わろうと思います。本当にありがとう』

 そう、メッセージを送り私は飛んだ。


 「はいもしもしこちら心の整形外科です。ああ、同僚さんですか。ええ…ええ…ああそうですか。それではまたよろしくお願いしますね」

 私も普段からこんな汚れ仕事ばかりやっているわけではないんですが、たまにこういう依頼も来るんですよね。

 「『友人に救済をあげてください。』ってね」

自分の心を自分で愛してやろうと思います。

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