牛久沼
9話 牛久沼
「せっかく千葉県まで、乗せてくれるっていうのに、なんで牛久沼なんかに」
「ココに友だちが居るんだよぉホラ」
「河童に注意って今時、こんな看板が」
「おーい!」
「おーいって、アヤ」
「パーコ、わたしだよ。遠野の二面だよぉお」
沼の真ん中に頭が出た。パーコだ。
パーコは、まだ静ちゃんが遠野に来る前に遠野に住んでた河童。
パーコはすいすいと岸辺の方に。
「二面、久しぶり!」
「久しぶりパーコ。こっちは二口の静ちゃん」
「はじめまして。草双紙静よ」
「立派な名前だね。パーコです」
「わたしも綾樫彩って名前もらったんだ」
パーコが出した手を取り岸に上げた。
腰に花柄の布を巻いてる。
胸は大きいのにそのまま出してる。なんか遠野にいた頃より大きくなった?
「名前、誰にもらったの?」
「文車妖妃だよ。たまたま、旅をしてて遠野によったんだ。その時に静ちゃんと一緒に」
「いいなぁ河童のパーコって、バカみたいでしょう。河童は、みんな自分でつけるから後悔してるよ。あたしも改名しよう。二面、カワイイ名前付けて」
「牛久沼可愛ってどう?」
静ちゃんが。
「牛久沼カワイ……」
「牛久沼……『カ』取って愛ならどう? 牛久沼愛」
「牛久沼アイ! うんそれの方がイイ!」
ズサバァーン
「メス妖怪の匂いがする!」
突然大きな河童が、沼から顔を出した。
はじめはパーコを見て。
「おや、巨乳のパーコじゃないか。横のべっぴんさん二人は、なにもんだ?」
「あいつは手賀沼から来た手賀五郎よ。牛久の大将と相撲して勝って今は牛久沼を仕切ってるの」
「河童って、なんかガラが悪いのよね」
「静さん、悪いのばかりじゃ」
「知ってるわ。アレはとくにガラ悪そう」
「言ってくれるねぇ。わしと相撲とんなねぇか、ネエちゃん! ネエちゃんのふんどし姿想像しただけで、股間がうずくぜ」
「やだやだ、下品な河童だね。誰が、あんたなんかと相撲をとりますかっ!」
「あたしが相手してやろうか河童!」
「アレっ! おめえそんな鬼みてぇな顔してたか?」
「ああ、あたしゃもともとこういう顔だよ。相手してやるから、こっちに上がってこい!」
「アヤ、あんなのと、相撲とる気」
「なんか、突然裏アヤが……」
わたしは後頭部の髪をわけ、言った。表には鬼の形相の裏アヤが。
でも、視界は共有出来る。
手賀五郎河童が、岸に上がって来た。
人間が相撲をとる時に巻くふんどしを巻いてる。
近くで見ると体格も相撲の力士みたいで大きい。あれに牛久の大将が負けたのか。
わたしは裏アヤが、前に出ると「力」が出る。さて相撲はどうかな。
「いま、土俵を描く。その間に準備しとけ」
準備って、裏アヤが上着を脱いだ。
「やだ、裸はだめだよ」
「安心しろ、あたしも女だ。上着を脱ぐだけだ」
ほっとした。シャツ姿で土俵に入ると。
「なんだ、服脱がねぇの? おっぱい出せ」
「やだよ、見たけりゃあたしに勝ちな」
「ほぉそうきたか、いやおめぇの醜女っ面のおっぱいとか、見たかねぇ。俺が勝ったら尻子玉もらうぜ。妖怪女の尻子玉いっぺん喰いてぇと思ってたんだ。話によると妖怪女の尻子玉は美味だと聞くぜ。河童女のは臭えって聞いたが、おめぇはなんだ?」
「けっ、あたいに勝ったら教えてやるよ。あたいが勝ったら、おとなしく手賀に帰りな。そして、二度と顔だすな。で、いいかパーコ」
「大丈夫かいアヤ。それに、あたしは今日から牛玖沼愛だよ」
「デカチチ、行司をしろ!」
パーコが、愛か、愛が土俵に入り。
「はっけよーいのこった!」
まともに突っ込んで来た、五郎河童を右にかわすと。
「そんな手はよめてたぜ!」
かわした左腕の袖を掴まれ左に振られた。
ビリッと、左袖が破けた。それでヤツから、逃れてヤッの後にまわった。
後ろからヤツの左脚を取り持上げた。
が、上がらない。ヤツは、踏んばっていた。
くるりと回転した五郎河童は、張り手を。
バシッバシッバシッバシッ
張り手の嵐が襲った。
どういうわけか張り手で、シャツがボロボロに。爪立ててたなぁもう。
「なんだ、妖怪のくせにチチアテしてんのか」
「このスケベヤロー!」
まるで殴るように張り手を出して来た腕を掴みヤツの頭上へ飛んだ。
そして頭の皿に着地すると足でバシャバシャと水を出した。
「このぉアマァ!」
ヤツの手が頭に来る前に背後に飛び降りて、脚とふんどしを掴み後ろから押し出した。今度は皿に水を無くして踏ん張れない。
「出た! 手賀五郎の負け!」
「水を出すとは、卑怯なり!」
土俵から出た手賀五郎は、こっちに突っ込んで来た。が、その場で腹ばいにバタッと倒れた。
「負けを認めなよ」
静ちゃんの髪が手賀五郎の両足首に。
「ちくしょう!」
手賀五郎は、腹ばいのまま、手足をバタバタして泣き出した。
「俺は、手賀沼に帰れねぇんだぁうぉいおいおい」
「なんだ、今までのヤツと変わったな」
「ホント」
愛は、手賀五郎の顔の前にしゃがみ込み。
「手賀に帰れないって、どういうコト?」
「俺は手賀の大将、手賀主水ノ助に敗れて手賀を追放されたんだ」
なるほど。
「だから、牛久で。仕切るのはいいが、やっぱり大将は、みんなから好かれないとな。手賀の大将は、嫌われものか?」
裏アヤにしてはまともなコトを言う。
「奴は、皆に慕われていた」
「だろう、おまえもここで慕われな」
「俺はここにいていいのか?」
「イイ大将になればいいんじゃないの」
「わかった、俺はココで皆に慕われる大将になる」
つづく