人魚2
81話人魚2
「あたしさぁ昼間ボーリングやってたの。このまえ友達と初めてやったらハマっちゃたのよね」
僕の釣りと同じだ。
「で、今日は一人で。初めての時、負けたの。やっぱりくやしかったから今度は勝とうと思ってね。一人で練習をしてたわけ」
パッパァアアア
後ろのクルマだ。まずい、出なきゃ。うっかり、信号が変わったのを。
「ボーリングですか。僕は一度か二度。あの、それと人魚はどういうふうにつながるんです?」
「あ、そうそう。でね、あたしの隣のレーンでしてた人が上手くて。はじめプロの人かと。女性で、三十代か、あたしと同じ世代なのかなぁ。ロングヘアーのカッコイイ美人のお姉さんだったの」
僕が海で会った磯野さんもそんな感じだったな。
「あたしがヘタッピなボーリングしてたら、その隣の美人が、アドバイスしてくれて。ピンが沢山倒れるようになったの。で、仲良くなって。休憩時に『面白い物を見せてあげる』とスマホの写真見せられたの」
「ソレ人魚の写真」
「正解。その奇妙な写真見てビックリよ唐沢君。人魚って、はじめは思わなかったの。だって、映画とかで見たのとぜんぜん違うのよ」
あの僕が釣った人魚の赤ちゃんを思い出した。
「人面魚と、思った?」
「そうだって魚の頭が人間そのものなんだもの。ヤッパ見たんでしょ唐沢君、人魚?」
「見たというか、釣った。でも僕が見たのは赤ちゃんだと……」
「そうなの? あたしが見た写真の人魚は大人の顔してた。ロングヘアーでさ、こぉ頭に角が二本あったの」
「角が……よかったら、その話、夕食でもしながら聞かせてくれます?」
移動車中だと、周りが気になってゆっくり話が出来ない。たまにしか運転しないのでなおさらだ。
都合がよくファミレスを見つけたので、入った。
「どこまで話したっけ?」
「写真の人魚が人面で、とか」
ちょっと違ったかな?
「そうそう頭に角があるオニみたいな怖い顔してて。魚体に目があったのよ」
魚体に目、僕が釣ったのにはなかった。やはり赤ちゃんだったからか。
「『なんか気持ち悪いですね、これ何です?』って言ったらお姉さんが、『人魚よ。ちょっと気味悪いけど。でも人魚を食べれば不老不に。見ただけなら幸せがおとずれるのよ』って言われて。単純な、あたしは期待しちゃって。でもお姉さんと別れてから何もなかったので、あれは冗談かと。写真も作り物じゃないかなと思っちゃたわ。で、家に帰る時、ふと唐沢君のコトが、頭に浮かび横断歩道渡ってたらクルマの中に知った顔が」
「でも、僕を見て、なんで人魚見たって聞いたんです?」
「それが、不思議なの? 唐沢君の助手席にあのお姉さんが一瞬見えたの」
「あの、その人の名前わかります?」
「ええ、名刺もらったから。偶然、同じ苗字で磯野さんよ磯野あさりさん」
「その名刺は」
僕は別れ際にもらった名刺を出した。
「同じだわ」
僕は、この再会がきっかけで、磯野美波先輩と交際し一年後に結婚した。結婚が、幸せのゴールではないが、その生活は文字通り薔薇色だった。
「今まで気になってたんだけど、磯野あさりさんって何者だったんだろう」
実はこんな話しを十年ごとにしていたような。もう七〇代。あのもらった名刺にあったアオイ探偵事。事務所の住所も電話番号もなかった。
似たような名の探偵事務所はあったが、磯野あさりは存在しなかった。
「と、言うのが私のお祖父ちゃんから聞いた話」
「ソレは怖い話じゃなく不思議な話ね。実はその磯野あさりは、人魚の肉食べて今も生きてるかもね」
「磯野あさりは偽名じゃないのか」
「で、どう。誰がこの話を書くの?」
「それは、おまえのネタだ唐沢書け」
「構成間違えたの副編集長じゃないですか。それにわたしは文学なんて、書いてもラノベになっちゃいます」
「いいんじゃないの新人作家で、出すんだから」
「じゃ一条さん書いて下さいよ」
「ダメダメ私は文盲だから」
「ウソつけ、そんな奴が文学雑誌の編集するか」
「だからやっぱり副編集長が書くべきよ」
「俺は他の仕事で忙しい。唐沢だ」
「私が書く」
「編集長」
つづく




