カスミ
8話 カスミ
霞ヶ浦。
「アヤ、知ってる? ココは、日本で二番目に大きい湖なんだよ」
「そうなんだ一番の琵琶湖は、よく聞くけど」
なんでもそうだけど二番って知らない物多いよね。山とか川とか。
「なんか河童とか、居そうだね」
「あいつら、かえってこういう大きなトコには住まないんだよ。なぜなら大きな水場には主が居るから。ここならナマズ大将とか、居そうだ」
「ナマズかぁ。知り合いにウナギ坊とかいるけど、アレも居そうだね」
「ウナギ坊……食べると美味しそうなヤツねぇ」
「ウナ坊なんか食べても美味くないよ」
水の中から、突然女の頭が出た。
「あんたナニよ?」
「あんたらこそナニ?」
「あたしらは……」
水の中から、上がってきた女はびしょ濡れのワンビース姿。スカート部分をシボリながら。
「よそ者だよね。見ない顔。ウナ坊の名前を聞いたから、人間じゃないと思って。あたいカスミ」
「霞ヶ浦のカスミ。って、あんたヌシとか?」
「あら、よくわかったね。あたいがココの主よ」
「ナマズじゃないの?」
「ナマズやウナギと一緒にしないで」
カスミは背伸びをすると大きな、あくびをした。その口が、とんでもなく大きく広がった。やっぱり妖怪だ。
「ふわぁああ。よく寝た。あんたらなにしにココへ?」
「べつに用があって来たんじゃないわ。たまたま、ココに。これから東京へ行くつもり」
ワンピースの中に入っていた小魚を見つけたカスミは、ソレを口の中に入れて食べながら。
「東京かぁ昔、江戸とか言われてた頃、一度行ったな。あんまり美味いもんなかったなぁ……寿司はそこそこ美味かった」
「江戸……いつの話しぃ。今は東京じゃ世界中の美味い物が食えるんだよ。イイもの見せてやるよ」
と、静ちゃんは、バッグの中から雑誌を出しカスミに見せた。
「なんだコレ、いっぱい載ってるな。ドレが美味いんだ?」
「どれもだよ。不味いもんは載ってないわ」
「ココのもんは載ってないぞ。そのへんの店、行ってみな、美味い魚料理沢山有るぞ。あたいも時々この姿で行くんだ」
「カスミさんはお金持ちなの?」
「金なんかないよ、こう、手のひらで」
手のひらにお札が現れた。
「妖術?!」
「ああ、数分しか、もたねぇから、すぐに店から出る。妖怪は、みんなこうやって美味い物食ってるだろ。タヌキやキツネは、木の葉を変えてるし」
それをしているタヌキやキツネは、人にも化けれる大物連中だ。
「確かに土地それぞれの美味しい物はあるけどさ、東京に行けば、もっとたくさんの美味しい物にありつけるんだよね」
「そうか、何か美味い物見つけたら、教えてくれ、誰かに頼んで買いに行かせる。東京はそう遠くない」
と、カスミは、濡れた体で街の方にふらふらと歩いて行った。
「うまく行けば、あと一回で東京だ。アヤ行こう東京に!」
つづく