表参道
58話 表参道
まだ、人がちらほら。
もう丑三つ時を過ぎた。見える妖怪より見えない妖怪が、はるかに多い表参道。
人には見えない妖怪ね。
ほぼ中央あたりに和服姿のふたりの男。
『山ン本五郎左衛門』と『神ン野悪五郎』だ。
お互いの後方に、表参道駅方面は神ン野悪五郎。
代々木公園方面には山ン本五郎左衛門。
彼が呼び出した妖怪たちが居る。
皆前方を見ている。どんなヤツが居るのか見定めているのかしら?
わたしたちは、どっちにも入らず歩道で、互いの総大将をながめてる。
わたしたちには手紙が来てない。
同じ理由でどちらにも入ってない妖怪たちが、わたしたちと歩道に。
「何が始まるんだ。オレには見えるヤツは、わずかだが、なんだか、二手に分かれてるのは、わかる」
人間に見えてるのも居る。でも、たいがいわたしたちみたいな人型だ。
まあ『一反姐さん』みたいな例外も居るが。
一反姐さんも、手紙は来てないので歩道組だ。
山ン本五郎左衛門と神ン野悪五郎が手を上げ前へと合図した。後方にいた妖怪たちが一斉に前進し、向い側から来る連中と睨みあった。
「『油すまし』、久しぶりじやのう」
「『青坊主』、元気だったか?」
「『雪女』よ、たっしゃか?」
「あんたこそ『ぶるぶる』」
「おう、『ネネコ』」
「『河太郎』! 会いたかったわ」
「『見越し入道』よぉ生きてたか」
「『おとろし』じゃないか」
何が始まったの?
「同窓会?」
「みんなぁ久しぶりの百鬼夜行だ。みんなで、東京駅まで、行くぞ!」
と、山ン本五郎左衛門が、言った。皆、同じ方向に向かって進み出した。
「百鬼夜行って、あたし知らない」
明治になって生まれた電話妖怪のケイちゃんには縁のない行事だ。
あれは江戸時代が終わり、やらなくなった。
ただ歩くのや、飛んだり跳ねたりするもの。踊りながら進むのやら、皆楽しんで行列に入り進む。
ハロウィンの行進よりは見てて楽しい。
「本当に懐かしい連中だらけだ。アレは、『ぬらりひょん』だ。それにあの警護着から、和服の衣装に着替えた『オニ娘42』だ。手にしてる傘は『傘化け』だよ」
「先頭には『七頭ミサキ』ちゃんだ!」
『かめら小僧』が、行列の中に入って撮影し始めた。すでに他のかめら小僧たちが、中に。
「一反ちゃん、一緒に」
「アレは昼間見た『一反もめん』!」
「凄い数の妖怪が、百鬼夜行を始めた。マカさんあたしたちも」
「オレは人間だぞ、いいのか?」
「いいよ、あたしを頭の上に乗せる乗れマカ」
「行こうアヤ」
わたしたちは、手をつないで行列の中に。
あれ、踊りながはしゃいでるのは、牛久沼の『パーコ』と『五郎ガッパ』じゃない。
「あのふたりカップルになったのね」
手をつなぎスキップし始めた。
「『ろくろ首姐さん』が、首を伸ばして。こっちに来た」
「あら、遅かったわね。おふたりさん」
あ、『グリーンモンスター』だ。
外来妖怪も、まざってる。
「ねぇあたしらなんだか、薄くなってない」
ホントだなんか、ぼやけてる。百鬼夜行にまざってると、人に見えにくくなるの?
実はわたしも、はじめての百鬼夜行なんだ。
「歌いながら歩いてるのって『邪慰安』だよね」
「二口さん!」
「あ、高尾山の『小天狗』」
「先日は失礼しました。また、来て下さい」
翌日。
「唐沢さん、夕刊見ました?」
「夕刊? 見てない」
「摩訶先生の写真が」
「摩訶先生が、何かしたの?」
「いや、先生はナニも。夕べのハロウィン騒ぎの深夜に撮られた渋谷や原宿、表参道の様子が撮影されて、その中に先生が。ほら」
「ホント。コレ、先生よね」
「そばにやたらに綺麗なコが、写ってますけど、このコが、あの妖怪娘ですかね?」
「まあ確かに綺麗だけど、妖怪かしら? でも、先生また東京に来てたのね」
「おい、お前ら夕刊見たか」
「なんです。副編集長まで。摩訶先生ですか」
「摩訶? なんのことだ。この新聞社にな、おかしなものが、沢山写ってると、問い合わせが、いっぱいだそうだ」
「みんな、ネットの方じゃ炎上してるわよ」
「何なんですか一条さん?」
「お化けがいっぱい写ってるんだって。夕方のワイドショーでもやってたよ」
「ボクには、ハロウィン後の街並みしか見えないんだけど……」
つづく




