ハロウィン6
56話 ハロウィン6
「わたしは、まだ二十代なの。あのバケモノに若さを吸われて、こんな老人の姿に。ホントなんだよ。誰も信じちゃくれないんだ……」
アレは人間の精気を喰らうバケモノ、精食鬼なんじゃないのか。
「精食鬼! そいつは妖怪も」
喰うんじゃないか。
「静ちゃんが、あぶない。助けなきゃでも、何処に…」
「ヤスレクってホテルに行ったんじゃない。気をつけてアレは恐ろしいバケモノだよ」
「問題ない!」
「ひいっ。後ろに顔が!」
「ホテル・ヤスレク」の一室。
「君もシャワー浴びてきたら」
「面倒よ、髪濡らすと乾かすのがたいへんだもの」
「好きにしな。僕はシャボンの臭いより自然の臭いが好きなんだ。そのままでもいいよ」
「あら、じゃなんでシャワー浴びたの。ああ体臭消すためか、ちょっと妙な臭いするよねあんた」
「ま、それもあるがな。僕って臭う」
「人ではないモノの臭いがするわ、あのお婆さん言ってたよねバケモノだって」
男は裸にタオル一枚巻いた格好で、渋谷の夜景が見えるデカ窓の方を向きクククと笑った。
スマートなわりに男の背中の筋肉が凄かった。ボディビルダーでもあるまい。
振り向くとニヤけた顔を見せ。
「そうだよ僕は、バケモノで、君のような若い娘が好物なんだ。そして、君みたいな異生物もな」
「異生物ってなによ。バイキンみたいに」
「ハハハハ。君は人間じゃなかろう。人間の気とは違う。僕の先祖は海外から来て、永い。僕の本名は『ヤスレク』。冥土の土産に憶えておいてね。それでは面白い物を見せよう」
「なに? ヘビとゴキブリは嫌よ」
「ハアぁあああ」
男の目が丸く大きくなり、口が裂け牙の生えた大きな口に。頭も大きくなったかと思えば耳の上あたりから大きな角が両側に出た。
身体の筋肉が、うねりだした。あのはじめ、やさ男が、ずんぐりむっくりの鬼のように太りだした。
タオルが落ちて股間が丸出しに。
「アハハハ、ずいぶんブサイクになったわね。それにソレちっちゃ」
「うるせぇ! コイツは使わないからいいんだ!」
「なんだ、使わないの。期待したのに」
「妖女を喰らうのは、はじめてだが。噂では人の精力とは比べ物にならないほど強いと聞く。いただこうかなぁグヘヘヘ」
「見かけと同じく口調も下品になったわね。出来るもんなら、やってみなブタ鬼」
「ほざけ、オンナ!」
ヤツの二重アゴの下が、第二の口のように開いたと思ったら先に牙が生えた舌のようなのが飛び出した。
あたしは、とっさにソファから離れ避けた。
牙付きの舌は、あたしの座っていたソファの背に穴を開けた。
こちらもお返しと髪を伸ばしヤツの右目に刺してやった。
「ギャッ。おのれ! 油断したわい」
今度は三段腹が開き、口を開けた腸が触手のようになり襲ってきた。
「しまった!」
腸が巻き付き牙付の舌が。
締め付ける腸をおさえると粘液で気持ち悪い。
舌は髪でなんとかくい止めた。
「俺の臓器に触れたな、このままおまえの精気を吸い取ってやる。途中で抜け出せば、あの女のように老いぼれた体で生きることになる。大人しく俺に喰われた方がしあわせだぞ」
ガキャン
部屋の窓ガラスが、ワレて、誰か飛び込んできた。
「静ちゃん!」
「うがぁここは、十階だぞ! それにそこのガラスは。グゲッ」
アヤの爪剣が、あたしを巻いている腸を切り裂いた。
「大丈夫、静ちゃん」
表アヤが、後ろに。
「仲間か!」
「あぶない!」
「グワァー」
飛んできた腸を避け、攻撃しに。
アヤの爪剣が、ヤツの片目をざくりと。
これでヤツの目は見えない。
「きさまらぁあああゆるさーん!」
隣室。
「あっ、あっ、イイ……いきそう。ん、どうしたの? タケシ」
「隣ドタバタうるさくねぇ」
「なんか、叫び声みたいの聞こえたよね……」
「隣の奴らSMプレイでもしてんのかなぁ」
「ギャア!」
ガタッ ゴトガガガ
「なんだ?」
ズガン!
「ヒエーッ壁が崩れた!」
「ひいっ化け物よ!」
ああ、ホテルの壁ぶち壊して、隣のカップルは、大丈夫かな?
「な、ナニコイツ……タケシ、大丈夫!」
女の子は、大丈夫みたいだけど、彼氏はベッドの横で大の字になってのびている。
死んではなさそうね。
「こらっブタ鬼、カップルの邪魔するんじゃないよ」
よろよろとヤツが立ち上がると、ヤツのおでこが縦に割れ触手が飛んできた。
今度のは、二本同時に。牙付で口があった。
アヤが一つを切り飛ばし、もう一つはあたしの髪が掴み止めた。
あれ、何をする気。髪が掴んだ触手を口の中に、もちろん後ろの口。
「おい、静そんなモン」
ズズズッ
後の口が触手をおソバみたいに吸い始めた。
「なに、バカな……やめろ!」
静ちゃんの髪の毛が、ドワっと伸びバケモノに巻き付いて引きよせた。
バキバキ ブチブチ
凄い髪がバケモノの身体を絞め潰し始めた。
「グワァア、やめろ。助けてくれぇえ」
グキッバキッググッ
「ナニ、あたしはナニを見てるの……」
となりの部屋の女の方も気絶した。
バケモノが、あの巨漢が。髪の毛に潰され、だんだん小さくなり静ちゃんの後ろの口に収まっていく。
「げつぶっ」
「凄い食べちゃた」
まさに底なし。
「イヤだもう。コレないしょよ、アヤ。誰にも言わないでよ。あんなの食べてお腹こわさないといいけど……」
「静の大食いも役に立ったな。底なし胃袋」
「なによ、醜女。あんたなんか人驚かすだけの、のっぺらぼうと一緒じゃない!」
「助けてやったのに、その言いぐさは、なんだ!」
「また、はじまった」
つづく




