ちっちゃいおっさん
48話 ちっちゃいおっさん
やっぱり、あの百物語のせいなのかしら。最近やたらと部屋でおかしなのを見る。
昨日はベランダの物干し竿に座る小さいおじさん。噂とは、違い縦線のパジャマ姿だった。頭はハゲてて見るからに中年のおっさんだった。
その前は仕事から帰ってドアを開けると、なにか黒いモノがサササッと移動したのを見た。
夜中にショキショキとなにか洗うような音が聞こえたり。
朝から洗面所に髪の毛がいっぱいとかは、ちょっとビビった。
「オレさ残業で、遅くなり終電乗りそこなった時、歩いて家まで帰ったんだ。そしたら例の人面犬。見たんだ。お前と違いコート着た長い髪の女が犬の散歩をしてた。犬見ればオヤジ顔だったんだ。SM のMオヤジじゃなかった俺はよく見たんだ、アレは間違いなく犬だった」
「そうなんだ、高田くんや唐沢さんにも聞いたんだ変なもの見なかったかって?」
「見たのか、奴らも?」
「らしいけど、曖昧なこと言ってたわ。夢だの幻覚だの。やっぱり百物語のせいかなぁ」
「あのさ、せっかく来て、ベッドの上でする話かコレ。俺、やる気なくしちゃったよ。した後にするんだった」
「ゴメンね、最近気になってて。ちょっとトイレ行ってくる」
「ああ、おきたついで、背広のポケットからタバコ取ってくれ」
「駄目よウチは禁煙って、何度も言ってるでしょ」
「ちっ、わかったよ。なら、そこのパンツ取ってくれ。ベランダならいいだろ」
「いいけど、パンツ一枚じゃ風邪ひくわよ」
「おまえもパンツはいてトイレに行け」
「面倒よ」
「おい、ドア開けとけ」
「あんた、変態!」
「うんこなら、閉めろ!」
「違うわよ!」
ジャアー
「副編集長!」
「ああ、会社以外は、大島と呼べ。どうした? 一条」
「トイレにちっちゃいおっさんが!」
「まだ居るのか?」
「多分居ない。わたしびっくりして、手ではたいたら便器の中に落ちたの。それで流しちゃったから」
「ええっ流したって」
「大丈夫かしら?」
「人間じゃないから大丈夫だろ」
「トイレの方よ、つまらないか」
「じゃもう一度流してみよう」
「居る?」
「居ないよ」
ジャアー
「大丈夫。ちゃんと流れた」
「ホント、良かった」
「どんな奴だった? またハゲたオヤジか」
「今度のは違う、黄色のジャージで、痩せたおっさんだった」
「痩せた黄色いジャージ。ブルース・リーかよ」
「言われて見れば、似てたかも。黄色のジャージには黒い線が……」
「今頃、水を感じてるかもな」
「でも、ウンコと流さなくて良かった。可哀想だし、それにトイレつまったかも。あ、まだしてない。出てよ!」
「さっき、うんこじゃないと」
「座ったら、したくなったの!」
不思議な事に部屋での怪異は、この日以来なくなった。
つづく




