遠野に帰る
26話 遠野に帰る
行きは新幹線で、あっという間に東京。
帰りは鈍行列車で、のんびりと。
原稿料が、入るのは遅いからなぁ節約だ。
昼は駅弁は高いので、都内のスーパーで買ってきた。
ガラガラの車内のボックス席でオレは足を伸ばしてオニギリ弁当を食べた。
まだ北関東、茨城県最後の駅。
遠野まではまだ遠い。停車して動きはじめた頃。
「そこ、空いてますか?」
三十代くらいの背の高い綺麗な女性が。
オレは、あわてて足を床におろして。
「あ、どうぞ」
「失礼します」
弁当を食べ終えたオレはいつも持ち歩いている愛読書の文庫本を読みながら前の席に座る女を見ていた。
綺麗な人だなぁ。背が高いモデルかな?
座る前の感じでは170はあるだろう。イヤもっとあるかなぁ。まあ顔は静に負けるが。 やはり人間だ。
頭の後ろに口とかないだろう。別の顔も。
「あの……。その本」
「え、なんです?」
この本はオレの小説やオカルト知識の師匠にあたる学生時代の先輩が書いた子供向けの『オカルトマニアっ子』という本だが。
「オカルトとか、好きなんですか?」
「ええ、まあ」
なんか、話そうと、考えていたんだが。
向こうから。それもきっかけがこの愛読書。
「わたしも好きで、実はその本の作者と…」
「えっ、まさかあなた先輩の知り合いで」
「先輩? その本の作者の知り合いから、わたし、その本をもらったんです」
と、横に置いたピンクのかわいらしいリュックから同じ本を出した。
「そうですか。オレっあ、私は、この本の作者の大学時代の後輩なんですよ」
「そうなんですか。実はその本をくれた友だちは作者さんと同じ大学だったと」
「え、何期生かな? その人、知り合いかも。よろしければお名前とか」
「いいかなぁ……。呼子真由美と言います」
「よぶこ……まゆみ。知らない名だ。私の先輩か後輩ですかねハハハ」
ウソでも知ってるって言っとくべきだったかな。でも、すぐにバレるだろう。
「私は、摩訶富仕義名で小説書いてる人間でして」
「えっ、摩訶先生ですか!」
と、言った彼女は、またリュックから、本を取り出してオレに見せた。
ソレはオレのデビュー作「山女の恋」だ。
それを目の前の美人が持っている奇跡。
「わたし、この本を読んで先生のファンになりました。いつも持ち歩いているんです。タイトルが好きです」
物静かな女性かと思ったらそうでもなさそうだ。
「最近多いですよね。ひとりキャンプする女性。そんな娘が山で得たいの知れない男と恋に落ちる。男は人外の存在で、はじめは驚く主人公ですけど、ラストはめでたしめでたし。もう泣きましたわたし」
と、彼女は、オレの手を掴んだ。思わず本を落とした。
「あ、すみません。つい興奮してしまい」
「いや、大丈夫です」
力があるな。バスケとかバレーボールの選手?
「そんなに感激してくれてありがたいです。私、ファンが少なくて。なんか、直に会うと嬉しいです」
「あの、良かったらサインいただけます」
「よろこんで」
オレは、カバンの中に入れてる筆入を出し筆ペンで出された本に筆名を書いた。
「あなたのお名前は?」
「彩菓子友です」
あやかし。まさか。
「どういう字です?」
「色彩のサイにお菓子の菓子でアヤカシ。ユウは友だちのトモです」
なるほど彩菓子友と。あの綾樫彩とは、違う字だ。
「面白い名前あ、すいません。珍しい苗字ですね」
「よく言われます。あ、友だちに、はじめペンネームかって。そういないですよねこんなに苗字」
文車妖妃が頭に浮かんだ。たしか、あの二人は。ヤツに。
人間の彼女には関係ないか。
「出身はどちらで?」
「山奥です。あ、山の中の一軒家に……。岩手ですぅ」
と、最後なまったような。まさか遠野じゃ。
「そうですか。私も岩手に在住で、帰るとこです」
彼女も仕事で出てて帰りだそうだ。
世間話や岩手の話、オカルト話しで盛り上がり車中退屈せずに帰れた。
彼女、有名妖怪漫画家もファンで妖怪にも詳しかった。
家で先輩が出した「妖怪絵文庫」を読んでたら山姥という、山に住むババァ妖怪が載っていて。その次のページに山女というのが。
各地の山奥に住む女妖怪で高身長と書いてあった。山奥の一軒家で背が高い。
まさか、あの女性は山女?
高身長は三メートルくらいとか。ありえないな。あの人は二メートルもなかった。
つづく




