夜景さん
21話 夜景さん
「しずかぁあ。オレはおまえが好きだぁ」
「どうしたんです先生。今日は悪酔いしてません」
「悪酔い。酔うのにイイも悪いも、あるのか?」
「明日、オレは遠野に帰る。帰っても孤独なんだ」
「寂しいのは、わかりますが……」
「ううっなんでどっか行っちゃたんだ。静ぁあ〜アヤ〜」
泣き出した。
先生、妖怪だから、なんだ、うんぬんとか言ってたけど、結局好きなんだなぁ。
静、アヤって美女妖怪の名らしい。
この先生の酔いざま見てると、ますます美女妖怪に会いたくなった。
「なあ、高田くん、オレ明日帰っちゃうけど、もし、東京かぁ何処かで、二人に会ったらオレが寂しがってたって、伝えてくれぇ……」
「ハイ。きっと」
今夜は、夜景が見たいと宿で夕食をたいらげ、夜のお台場海浜公園へ来た。
わたしのリュックには、来る途中に見つけたスーパーで買ったお弁当やお菓子がいっぱい。
花見気分の静ちゃんだ。
「江戸時代には見れなかっ物ね。夜景って」
「ええ、でも暗闇が、少なくなって妖怪が住みづらくなったね。やっぱり闇が欲しい」
「街灯がない道、少なくなったからね日本は」
「だね、逆にそういう電気のない場所がイイと移住する人間が居ると聞いたわ。人間は、元は妖怪と一緒なのかもね」
妖怪が居る。
珍しい妖気を放ったまま。
わたしたちみたいな地方から来たのかしら。
雨も降ってないのに傘をさしてる。夜だから日傘でもないだろう。
傘化けの類い?
黒いスーツ姿。わたしらのような長い髪。
お尻のあたりまである。
「こんばんは~」
「こんばんわ」
振り向いた妖怪は丸い黒メガネを目から少し落とし夜景を見ていたようだ。
「あんたは東京の妖怪?」
「君たちも妖怪だね。僕は、通称『夜景さん』と呼ばれる。全国の夜景を見てまわってる。ただそれだけの素朴な妖怪だ」
素朴な妖怪。自分で言う。
「そうなんだ。全国まわって、いろんな夜景を」
「ああ、今、五十三周目だ。夜景はイイ」
「花火とどっちがイイ?」
江戸の美しい夜景と言ったら花火だった。
静ちゃんがそんな質問をした。
「ボクは夜景さ、夜は他のつまらない物を消して光だけが輝く。そして、花火のように騒々しくない」
言えてる。あの花火大会の騒々しさが嫌いだと言うのも居る。
「あら、花火は美しくてよ」
着物を着て番傘をさした女が現れて言った。
この女は『夜景さん』の姿や声が聞こえる、あきらかに妖怪だ。
「散歩に来たら、花火の悪口が……」
「僕は花火が、悪いとは言ってない。アレを見る騒々しい人間が嫌なのさ」
「打ち上げ音が、うるさいというのも聞くわ」
「アレは仕方がない花開く音は華やかでイイ。でも、ボクは夜景が好きなんだ」
「まあ、夜景も悪くないわね」
「なんなのよ、あのふたり。勝手に仲良くなって、相合い傘で、どっか行っちゃたわ。雨なんか降ってないのにね……」
と、ベンチでお弁当を食べながら静ちゃんはボヤいた。
「あれって恋のはじまりっていうのかしら? 夜景さんってイケメンっていうヤツ?」
「あたしは色気より食い気」
「せっかく美女なのにもったいないよ。でも、男にベタベタしない静ちゃんは素敵」
「ナニ? その素敵って。でもさぁあの女妖怪『燃えアガリ』っていう色バカ妖怪なんだけど、あたしのこと、忘れたのか? 無視してた」
「『燃えアガリ』花火妖怪? 色気バカ?」
お台場を出て、新橋の駅前広場で。
「おおー、こんなトコにキレイな子が。お姐さんボクと夜遊びしよう」
酔っぱらいにからまれた。
つづく




