東京百奇
20話 東京百奇
「私は寝肥なの」
「ねぶ鳥? 鳥妖怪ですか?」
「違うよ、アヤ。寝て肥ると書く妖怪よ。寝ないと正体が出ないから、同妖怪でも、なかなか会わない。今みたいに妖気を消してたら、もっとわからない。タヌキという話も聞いたけど」
「妖怪仲間でも、会わないからタヌキにされちゃたわよ。また、私に化けたタヌキが、大いびきをかいたり、性格が悪かったりで、いい迷惑よ」
「寝肥さんは寝ると大きくなるだけで優しいです」
と、傘っ子が。
傘っ子は、寝肥のなんなんだろう? 小間使いかな? 寝姿を知っているんだ。
「昔、私の下敷きになって、死にかけた男がいろいろ言い回って、私の悪い評判ばかりひろまったんだ。私は、寝て肥るだけの妖怪……。あ、気が変わったら連絡頂戴。私、モデル事務所もやってるの。妖怪でも、出来るわよモデルの仕事」
そう言って寝肥さんは、名刺をくれた。
「百夜モデル事務所代表 鳥山眠子」
だって。
寝肥さんは、駅とは逆に傘っ子と歩いて行った。蒲田に住んでるのかしら。
「寝肥。初めて会ったよ。江戸にいた頃は噂しか聞いてなかった。噂は噂ね。色気がないとか、うるさいとか。性格悪くもないじゃない。ふった男が言った悪口とかね、噂は」
「なりすまして評判落とすタヌキも悪いわ」
「あたしらもタヌキが化けて、悪さしてないといいけどね。おっと」
駅前の人混みを歩いていたら、女が静ちゃんとぶつかった。
「ごめんなさい」
「待って!」
静ちゃんは女の手を掴んだ。
「ソレは財布じゃなくて名刺入れよ」
スリ?
スリにも、驚いたけど。静ちゃん、名刺入れ持ってたの。
「あんた、百々目鬼ね」
静ちゃんは、捕まえたスリ女の腕をまくった。
腕には沢山の目があった。
「あんた、まだこんなコトしてんの。時代が変わっても犯罪は犯罪よ」
女は静ちゃんの手をはらって言った。
「田舎モンの妖怪。カモにしようと思ったらこのザマ。あたいもやきがまわったね」
スリ妖怪は、静ちゃんをにらみ。
「あんた……何処かで会った?」
「江戸でね。遠〜い昔。仕事無いの?」
「別に金が欲しくてやってんじゃないよ。金があたいを呼ぶのさ!」
と、捨てゼリフみたいなこと言って静ちゃんの名刺入れを投げ返した。
そして素早く人混みに消えて行った。
「ああいうのも、まだいるんだね……東京は」
つづく




