出会いは去年の秋
2話 出会いは去年の秋
「ねぇマカさん、お金貸してぇ」
「まえにも言ったろう。人に貸す金はない。自分が生活していくのに精一杯なんだ」
こいつらが居候でなくて良かった。
「オレ、店に行くから。まあテレビでも、ゲームでもしてていいから留守番頼む」
自転車で、家を出た。オレは、亡くなった爺さんがやってた町のメイン・ストリートにある古本屋を継いだ。
オレの本業は小説家だ。
摩訶富仕義ペンネームで主に幻想文学というやつを書いてるが古本屋も、どちらも稼ぎの方はトホホだ。
去年の今頃、店にすごく綺麗な女性が、入ってきた。
こんな田舎町に、住んでたとは思えない、あか抜けた美女だった。
綺麗なツヤツヤの黒髪は腰まであるロング。
どこか昭和ただよう若奥さん風にも、どこかのお嬢様にも見えた。
歳は二十代〜三十代。若いとは思うが。
さすがに十代や四十代には見えない。
オレには丁度イイ年齢に見えた。
ここ、遠野に観光に来たのかと思っていたが、それから何度か来て、立ち読みをして帰る。
本は買ったことはない。
まえには見かけたことないので最近この町に嫁にでも来た女性なのかもしれないと思った。
立ち読みしていくのは、主に女性雑誌のコーナーだ。グルメ雑誌、ファッション雑誌が多い。
田舎町だからそういう情報を知りたいのか。が、今はインターネットが、あるし。
町には書店もある。古本屋では、情報はどうかと思うが。
彼女は一度来てからというもの、何度も立ち読みに来るように。
ま、美人だし、目の保養にもなる。
他人のカミさんだと思うと声は、かけにくい。
しかし、ソレはオレの思い込みだ。
テレビで見たが、人が苦手で秘境とかに一人で移り住んでる美人がいた。あの女性もそういう人かも。
そういえば町で見かけたことがない。山奥の一軒家にでも一人で住んでるのか?
オレは、声をかけてしまった。
「あのその雑誌、よかったらあげましょうか。すごく気に入ってるようだし」
彼女が見ていたのは「最新東京スイーツ情報」とかいうか旅行雑誌ムックで。最新といっても5年くらい前の本だろう。まったく売れる気配がない本だった。
彼女は口元を腕で拭きオレを見た。
「ホント! くれるの」
「ええ、コレ、ナイショですよ」
「ありがとう本屋さん」
声は、アニメ声とでもいうか、しゃべったら彼女が少女に見えた。
その笑顔が素敵だった。
まさか彼女は、妖怪だとは、思わなかった。
つづく