風呂屋の女
19話 風呂屋の女
蒲田に癒やしのお風呂屋さんが沢山ありと東京ガイドにあった。
本は古いが、ほぼ営業してた。湯で癒やした後は名物の餃子だ。
今回のはじめの語りはあたし草双紙静。
「寒い日にお風呂は正解だね」
「湯もイイけど、名物の餃子も楽しみ。美味しかったら持ち帰って宿で食べよう」
「あなたたち、妖怪よね?」
平日の昼間で少ない客の一人に声をかけられた。そんなコトを言う相手も妖怪だろう。
「あなたたちは、よそ者だね。妖気で、わかるよ」
「あんたは、なんだい? 東京の連中は、妖気を消してるからわかりにくい」
「だから、目立つのさ、あなたたち。なんでもいいじゃない、人間じゃないのは、たしかだよ」
「あら、翔子ちゃん」
中年の女がタオルを肩にかけ、湯に入ってきた。
「いつも、ありがとね。あんたの掃除がしっかりしてるから風呂場はいつもキレイだ。この間、常連さんにリホームしたのかと聞かれたよ。一晩で出来るわけないのにね」
「女将さん、普通に掃除してるだけです」
「今夜も頼むね。入浴料払ったの? 番台はバイトだからね。お給金に足しとくから」
中年の女はココの女将さんかぁ。
番台と、言ったが昔みたいな女風呂と男風呂の間にあったのとは違い。ホテルの受付みたいなのだ。
昔とは皆変わった。もちろんお風呂屋さんだけではないけど。
脱衣場で。
「風呂場の女妖怪って、アカナメよね」
「アカナメかぁ」
女のアカナメは、最後のメを女という字を当てて、「あかな女」。
言葉にすると同じだけどね。
人に化けれるんだ。見た目は普通に人だった。
「お風呂の掃除係さんみたいだから、丁度いい仕事ね。お風呂屋さんも減ったって聞いたけど蒲田みたいなトコも東京には、あるからアカナメも仕事になるんだね」
「そうね。だけど同じ舐めるでも『天井なめ』は、仕事はないだろうなぁ」
「アカナメ。ああいう特長のある妖怪は、いいね。世に風呂が無くならない限り存在は消えないだろうね」
と、前で下着を履いている女の人が。
あたしらの方を向いてブラを付けながら言った。
「妖怪にもいろいろあるでしょ。私なんか特長で商売出来れば苦労しないんだけど」
「アカナメみたいなのも珍しい方よ、あたしも稼げる特長ないわよ」
「そうなのね。妖怪って意味わかんない連中多いわよね」
この女妖怪は、なんだろう? 見たところ、とてもスタイルがイイし、美人だ。
「『天井下がり』や『大首』、仕事が無くて何処かに行ってしまったよ」
「ええ、美人大首とかも。あ、大首は美人でも意味ないよね」
昔は人をおどろかせ楽しんでいた妖怪が、多かった。今考えてみたら、アレだけで暮らしていたわたしたちはなんなんだろうと思ってしまった。
「美人の姐さんは、ナニをしてるんです?」
「美貌は仕事になるけどねぇ。一応モデルなの」
「スゴいじゃないですか。妖怪でモデル出来るのそういませんよね」
妖怪No.1とか2とか、言うけど、女妖怪に美女が多いのは男を惑わすためとか。
「あなたたちも、綺麗じゃない。よかったら仕事紹介するよ」
「あたしらはダメです。髪型変えられないから、あたしは二口なの」
「わたしは二面」
「そうなんだ。人に化けれないの?」
「タヌキやキツネじゃないんで。人型なのが幸いしてます。姐さんは人に化けてるの?」
「私も人型。恥ずかしいのよ、私の正体」
と、正体は言わずに出て行った。
「ああ、気になるアレはナニなのかしら」
「天井下がりや大首じゃないよね」
「人型の女妖怪は最近は蛇骨娘だのあかな女、なんていう二世代目がいるからねぇ。でも、アレは……」
「ろくろ首の一種かしら、美人が多いし」
偶然かしら、はじめに入った餃子屋さんにあのモデル妖女が。
「あのモデル妖怪、あたし並みに食べてるわね」
「底なし胃袋は、あんただけじゃないんだな」
「うるさい醜女!」
「あたしは醜女じゃない」
「やめてよぉこんなトコで」
「あ、二十皿終えた。あたしも。羽付餃子五皿お願いします!」
静ちゃん、また張り合う気だ。アレもタヌキかしら。でも獣臭もしないし人型と言っていた。
「あんた、やるわね。お勘定、こっちと、一緒に」
「え、いいですよ」
「さすがに二口には負ける」
「いや、でも後ろの口じゃ食べれないココじゃ」
「だからよ、前だけで負けたから」
奢ってもらって、ういたお金で持ち帰り餃子を買い。
店から出ると雨が。
店のそばに傘をさした少女が。
「お迎えにかいにまいりました」
「『傘っ子』よ。雨が降ると迎えに来るの。あなたたちにも」
傘っ子が、持っていた傘が増えた。
綺麗な花柄な傘。さすがに番傘ではない。今の傘だ。
「ありがとう傘っ子さん」
「二口さん、私に勝ったから正体教えてあげる」
つづく