九十四話 惨劇の跡
何とか私とアリアは一週間ほどでモルデン砦に辿り着いた。
休み休みだけど、思ったより早く着いたなぁ。
皆驚くだろうなぁ。
行方不明の私達が帰ってきたんだから。
フローラとかは驚いてひっくり返っちゃうかも。ししし。
だけどモルデン砦の様子は変だ。
静まり返ってら。
何かあったのかな……?
アリアを背負った私はモルデン砦へと入る。
「!?」
「……っ……何……? この腐臭……」
一言で言えば――地獄絵図だった。
辺り一面死体の山。
首を飛ばされた者、腹に穴を開けた者、それぞれ色んな死に方をしている。
死体には蝿がたかり、腐食しかけていた。
「何よ……これ……」
それが周囲全てをしめていた。
歩く場所を選ばないと歩けない程に。
「皆……ルーナ、ベラ、フローラ……!!」
アリアを背負いながらも、死体を踏まないように慎重に歩く。
明らかに破壊されている超級闘気砲の元へ向けて歩いた。
嫌な予感が止まらない……。
動悸で心臓が破裂しそうだ……。
お願い……お願いだから、皆無事でいて……。
私とアリアは、超級闘気砲が置かれている大部屋へと入った――。
「……痛っ!」
思わず背負っていたアリアを落とす。
「ヒメナ……どうしたの?」
見えないアリアに今の状況をどう説明すればいいか分からない。
説明していいのかも分からない。
「嘘だ」
説明する余裕すら……私にはない。
「こんなの……嘘だって言ってよおぉぉ!!」
数十人の死体がある大部屋の壁の近くの床には八つの首が綺麗にこちらを向けて並べられていた。
ヴェデレさん、赤鳥騎士団のモルテさんとナーエさん、白犬騎士団のアールさん、紫狼騎士団のフェデルタさん。
そして、ルーナ、ベラ、フローラの首が。
壁には誰かの首で書かれたであろう血文字での文章。
『小娘。アフェクシーにて待つ』
これをやったのは、間違いなくポワンだ。
私を小娘呼ばわりするのは、こんなマネを出来るのは、ポワンしかいない。
体の震えが止まらない。
怒り、恐怖、焦燥、悲しみ――絶望。
様々な感情が入り混じる私の心は、叫ばずにはいられなかった。
「ポワァァァァン!!!!」
全力で闘気を纏って叫ぶ。
アリアは私の闘気の勢いに吹き飛ばされ、壁へと体を打ち付けた。
「……痛っ……!!」
ポワン……許せない!!
ルーナやベラやフローラや皆をよくも……!!
「あいつだけは……私が……私が殺してやる!!」
「ヒメナっ!! 落ち着いて!!」
私はアリアの大声で正気に戻る。
闘気を纏うのを止めて、私の闘気で吹き飛ばされてたアリアの元へと駆け寄った。
「……っ……ごめんね、アリア……!! 怪我はない!?」
「大丈夫……どうしたの? 何があったの?」
「……それ……は……」
「私は大丈夫だから……落ち着いて何があるのか教えて」
言葉に詰まった私を促すように、アリアは催促した。
アリアも覚悟をしているんだ。
私が動揺し、激昂する程の何かがあるってことを分かってるんだ……。
私は躊躇しつつも、アリアに目の前の惨状を説明した――。
「そん……な……」
覚悟をしていたとしても、衝撃だったのだろう。
私以外の冥土隊の死に、アリアは言葉を失った。
「……これから……私達どうしよっか……?」
さっき闘気を纏った殺気は何処へやら、私も喪失感から立つ気力すら失い、壁にもたれかかって座り込む。
どうしようかアリアに聞いたのは、何故かロランがいない今なら、アリアと一緒に容易に王国軍を抜け出せるだろうというのと、本当にどうしたらいいか判断がつかなかったからだ。
「……私は、王国軍に残りたい」
「ほぇ?」
……何で?
だって、アリア……自由になれるチャンスなんだよ。
「私は……王国の歌姫だから。私達に優しくしてくれた王国の人達を少しでも助けたいの。それに戦争が続く限り、悲劇は繰り返されるわ。きっと死んだ冥土隊の皆も……それを願うはずだから」
私達の大切な人を奪った、ポワンが憎い、ブレアが憎い、ロランが憎い、カニバルが憎い、アッシュが憎い。
私がそんな負の感情を抱く中、アリアは過去を見ないで前を見ている。
「だからヒメナ――」
「……分かったよ、アリア。私も残るよ」
アリアが言う前に、私は答えた。
アリアを守る。
エミリー先生と約束し、私自身が決めたこと。
それだけは私も前を見て、貫き通す。
だけど、それが終わった後――私は……。
「この惨状は一体何だい?」
そんなことを考えていると、ロランとグロリアス国王様とリフデ王子が現れた。
*****
私とアリアはロランと王様にこれまでの経緯を話した――。
もちろん私達にとって都合の悪そうな【終焉の歌】のことなどは隠して。
「おぉ……ベラ……ベラァァ!!」
リフデ王子はベラの死が受け入れきれず、首を抱きながら泣いている。
それだけベラのことが好きだったんだろう。
私も王子とベラがくっつけばいいなって思ってたくらいなんだもん。
「なるほど、拳帝ポワンね……それなら納得がいくかな。したくはないけれども」
「歌姫が戻ったことが唯一の救いではあるな」
ロランと王様は、この惨状を見ても全く動揺していない。
ヴェデレさんと同じだ。
この二人は人の死に触れ過ぎて、死体を物ぐらいにしか見れなくなっちゃったんだ。
私とは死の感じ方が根本的に違う。
「して、どうするつもりだ? ロラン。当てにしていた超級闘気砲という玩具も、製作者もこの様だ」
「申し訳ありません、国王様」
国王は怒気を僅かに滲ませ、ロランを攻める。
現在モルデン砦にはロラン達と共に、十万の兵が増員されていた。
超級闘気砲があるモルデン砦を拠点とし、帝国の領地に攻め入るためだ。
しかし、超級闘気砲を失った今、正攻法しか攻め入る方法はない。
暇を持て余した兵士達は一万をも超える死体を埋葬している。
「このまま、帝国に侵攻することを進言致します」
「正気か?」
侵攻……まだまだ戦争するんだ。
いつ終わるんだろう。
どっちかの国が崩壊するまで?
「帝国は今、震帝カニバルは冥土隊のルーナが討ち、死帝ルシェルシュはこのヒメナが討っております。それにこのヒメナの証言が真であれば、恐るべき拳帝も今は片田舎。攻め時のチャンスと考えるべきです」
「ふむ」
あのカニバルを……ルーナが倒したんだ。
ルーナ、ララの仇を討ってどう思ってたんだろう……。
「歌姫よ。余らの為に歌ってくれるか?」
「はい。私に出来ることがあるのであれば」
アリアは戦争を終わらせるためにやる気だ。
だったら私も憂いてばかりはいられない。
帝国と、決着をつけるんだ――。
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