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九十一話 別たれる道

 私達はヴェデレさんと共に、ロラン達と事前に約束していた集合場所の丘の木陰へと向かうために出発した。


 途中、ソリテュードの街を歩いていると、明らかに私が撃った【闘気砲】がもたらした被害の跡が残っていた。

 自分が撃ったとはとても思えない程のとてつもない被害。

 復旧にはかなりの時間がかかるだろう。


 きっと殺してしまったのは死帝ルシェルシュだけじゃない。

 自分の意志ではないけど、関係ない人も巻き込んでしまったのかもしれない。

 そう思うと、胸がギュッと苦しくなった。


 ヴェデレさんが一緒にいるおかげで門をあっさりと抜けて約束の場所に辿り着くも、ルーナ達はおらず木陰に私の荷物だけが隠されていた。


 私はメイド服へと着替え、荷物を持つ。


『先に戻っている。戻ってこなければどうなるか、わかるよね?』


 目立つ木に彫られていたのは、他の人には分からない私宛のメッセージ。

 ロランが彫った文章だろう。

 偉そうな脅しで、むっかつくなぁ。


「良く分かんねーが、ヒメナも苦労してそうだーな」


 ヴェデレさんはその文章を見て、ほくそ笑むように笑った。


「はいはい、お気遣いどうも!!」


 これは心配してるんじゃなくてイジってら。

 ヴェデレさんは元々そういう人だもん。


 しばらくヴェデレさんの速度に合わせ、雑談しながら道を歩いていると、分かれ道が現れる。


「んじゃ、そろそろお別れすっかーな。お前らも急ぎだろ?」


 ヴェデレさんは歩幅を合わせていた私達に気を遣ったのか、私達が行こうとした道とは別の道を選んだ。


「ヴェデレさん、色々ありがとう」


「助けて頂きありがとうございました。この御恩は忘れません」


 照れ臭そうに頬を掻くヴェデレさん。


「まー、また生きて会えると良いわーな」


 そう言って手を上げて、私達とは別の道を歩み始めたヴェデレさん。


「ばいばいっ! ヴェデレさーんっ!!」


「さようならーっ!」


 私とアリアは大きく手を振りヴェデレさんと別れる。

 ヴェデレさんが選んだ道の先に平穏があれば良い――そんな願いも込めて。


「じゃあ、私達も行こうか」


「うん」


 私は荷物を手に持ってアリアを背負い、闘気を纏って駆け出した。

 ヴェデレさんとは別の道。

 闘いに身を投じる道へと――。



*****



 ロラン達はヒメナ達より一足早くモルデン砦へと辿り着いた。

 

 ルーナは直ぐに治癒魔法が使える者の所へと運ばれ、ロランとベラは超級闘気砲があるフローラの元へと向かう。


「フローラちゃん。随分時間はあったはずだけど、どうだい?」


「たっはっはー! 遠距離砲撃可能に出来たよーっ!! その代わり距離が遠ければ遠い程、威力は減衰されるけどねーっ!! 帝国の都市もズギューンだってば!! ボクってば天才だねーっ!!」


「良くやった、さすがだね」


 フローラは自慢気に小さい胸を張る。

 褒めるロランとは対称的に、ベラはそんなフローラに違和感を感じていた。


「フローラァ……そんなことより、アリアを心配することが先なんじゃないのぉ?」


「えぇ、何が!? アリアならどうせ無事っしょ!?」


 いつも通りの笑顔でフローラは笑う。

 アリアはいつも無事。それが当たり前だと思っているのだろう。

 そんなフローラにベラは苛立ちすら覚えた。



「アリアもヒメナも帰って来てないわぁ。生死も不明よぉ」



 ベラはフローラに現状を告げる。

 フローラは驚いた様子をようやく見せた。


「えぇーっ!? じゃあ、何で帰って来たのーっ!?」


「何でってぇ……どうしようもなかったのよぉ!!」


 ベラは何も知らないフローラに思わず当たる。

 ヒメナとアリアを生死不明の状況を知らないとは言え、自慢気に超級闘気砲をロランに見せるフローラが許せなかったのだ。


 ベラは超級闘気砲に夢中のフローラに対して踵を返し、ルーナの元へと向かうためにその場から出て行く。

 フローラは何故ベラが怒ったのか分からず、立ち尽くすだけであった。


「で、実際有効な射程はどの位なんだい?」


 そんなフローラにロランは超級闘気砲の性能を聞き始めた。

 フローラは気を取り戻し、ロランの問いに答える。


「……帝都には届かないかもしれないけど、その手前までは届くよーっ!! 試しにどっか撃ってみるーっ!?」


「頼むよ」


「んじゃ兵士さん達頼むよーっ!!」


 数十人の兵士が超級闘気砲を囲み、闘気を注ぎ込み――超級闘気砲を発射した。


 超級闘気砲は遠目に微かに見える帝国の都市に直撃する。

 ロランは望遠鏡にて被害を確認した。


「素晴らしいね……僕は王都へここを拠点にするよう報告に行ってくる。フェデルタ、ここは任せたよ」


「はっ!!」


 ロランは超級闘気砲の量産化とモルデン砦を拠点にすることを王様へと直訴するため、王都へと向かった。


 フェデルタは唯一ロランを貶める力を持つであろうヒメナを失ったのは誤算だったが、アリアが帰って来ず、超級闘気砲のおかげで紫狼騎士団の仲間を失わずに戦争に勝利する芽が出てきたため、全力でフローラを護衛することを決める――。



*****



 モルデン砦から放たれた、超級闘気砲は帝国のとある都市に直撃する。

 何百人の人を殺し、その都市にとてつもない被害をもたらした。


 そんな細い一筋の光線を、遠い山から見ていたのは、拳帝ポワンだ。


「アレは人から放たれたモノではないのう」


 都市の被害はポワンにとってどうでもいいことだった。

 問題なのは超級闘気砲から放たれた砲撃が、人から放たれたモノではないということである。

 人と人との闘いに矜持を感じるポワンにとって、超級闘気砲という近代兵器は許せるモノではなかった。


「つまらんことをしおってからに」


 故に、世界最強にして気まぐれと称されるポワンは動きだした――。

何となく面白そうなど、少しでも思ってくださった方は、画面下の『☆☆☆☆☆』からポイントを入れていただけると幸いです。

感想を頂けたりSNSなどで広めて頂けると、作者は更に喜びます。


皆様が応援してくれることが執筆の原動力と自信にも繋がりますので、何卒よろしくお願いします。

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